はじめに

研究論文を書くことは，臨床家にとっても，研究者にとっても，大学院生にとっても，依然として最も困難な課題の一つである．研究論文とは，単なる事実の寄せ集めではなく，数え切れないほどの時間をかけて探求し，分析し，統合した知見の結晶である．しかし，その執筆プロセスは，熟練の研究者でさえしばしば悩むことがある．私自身，20 年以上の研究歴をもちながら，研究論文執筆の難しさやその重要性を痛感してきた．説得力ある研究論文にするにはどうすればいいのか？　膨大な先行研究をどう渉猟したらいいのか？　査読者からの厳しい指摘にいかに対応したらいいのか？　このような疑問に答えるために，私はあなたに『セラピストのための研究論文の書き方ガイド』を贈りたいと思う．

本書の着想は，私が『作業療法ジャーナル』（三輪書店）で1 年間にわたって続けた全12 回からなる連載論文から始まった．この連載は好評であり，さらに詳細な手引書を求める読者からのフィードバックやリクエストに後押しされ，私はこれらの連載論文をアカデミック・ライティングの決定版にすべく大幅に改訂し，さらに発展させることにした．私自身の経験に加えて，多くの大学院生や研究者たちとの対話の中で，研究論文の書き方に関する悩みや疑問，そしてその解決のための方法を探求してきた結果を，この一冊に凝縮している．したがって，本書は単なる連載論文の集大成ではなく，私の20 年以上にわたる研究教育経験の集大成でもある．

本書は，主たる読者としてセラピストを想定しているが，初学者の方には研究論文の基礎をしっかりと学んでいただくための包括的ガイドとして，中堅以上の研究者の方にはさらなるスキルアップのための参考書として活用していただける内容となっている．本書は，研究論文の書き方という大きなテーマを扱うにあたり，読者が実践的かつ具体的なスキルを習得することを重視している．具体的には，研究論文を書く前の準備から始まり，IMRaD〔Introduction（序論），Materials and methods（方法），Results（結果），and Discussion（考察）〕の構造理解，査読対策，そして出版後の対策まで，幅広く網羅している．また，本書で解説している研究論文の書き方は，英語論文でも日本語論文でも適用できる．加えて，書き方に迷った際に使える穴埋め式テンプレートやフレーズ集を提供している．困ったときは，文章を生みだすヒントにしてほしい．さらに，コラムは5 つ執筆し，最初の4 つのコラムでは，急速に発展している生成AI を活かした研究論文の書き方のコツについて解説している．最後のコラムは，英語論文の執筆時に活用するツールとその手順について解説している．技術の進化とそれを活用する方法の両方を知ることは，今後の研究環境において不可欠となるだろう．

最後に，私自身は作業療法やコンフリクト（信念対立）を専門にしているが，本書は幅広い読者層に対応できるよう汎用性をもたせるようにした．したがって，あなたの専門分野に関係なく，本書で紹介されているテクニックやヒントは貴重な助けとなるだろう．本書が，これから研究論文を書こうとしている人たちや，すでに研究論文を執筆している人たちのスキルアップに役に立つことを心から願っている．それでは，本文でお会いしましょう．

2024年7月吉日

京極　真