特集にあたって
重症心身障害児が“食事を楽しむ”には

重症心身障害児（以下，重症児）にとって食事は，どのような経験なのでしょうか。また，どのような経験となることを目指し，読者の皆さまは支援している，または支援しようと考えているでしょうか。重症児の食事に筆者は長年かかわってきましたが，支援の方法に迷うことや，安全面に不安を感じることもありました。しかし，こどもたちの食事を楽しい経験にしたいという思いを常にもち，保護者を含むさまざまな職種の支援者と共にこどもとかかわってきました。

食事は私たちの生活に欠かせないものであり，栄養摂取を目的の一つとしていますが，人との社交の機会や文化を感じる機会でもあります。重症児の食事は，摂食嚥下機能や消化器官の機能によって，こども一人ひとりに適したさまざまな食事形態や方法を選択します。個別性が高く，こどもに合わせた食事をしなければ，最善の食事時間にはなりません。重症児は程度の差はあれ，支援者によるサポートがなければ食事をとることができません。そのため，重症児の食事が単に栄養を摂取するだけの行為となるか，楽しい食事時間となるかは支援者の重症児に対する食事へのとらえ方や，ケアの力に大きく左右されます。

重症児が“ 食事を楽しむ” ためには，さまざまな配慮や工夫が必要です。誤嚥や窒息，経管栄養のチューブトラブルなどの危険から安全面を担保すること，穏やかな雰囲気づくりや孤食とならないような工夫などの環境面の配慮，摂食嚥下訓練など食事行動に関する機能の維持・向上などがあげられます。そのため，食事の一時的な一場面だけでなく，広く継続的な支援の視点が含まれます。また，食事に関する文化を知る経験や，食材・料理に親しむ体験をすることは人としての成長に必要なかかわりであり，経口摂取をしていないこどもであっても，支援者の工夫次第で食事を楽しむことが可能です。

これらを踏まえ，本特集は，重症児の「安全で楽しい食事」としてのケアの方法を支援者が知り，考えるきっかけとなることを目指し，重症児の食事に関する基礎的な知識から，支援の実際，家族の思いも含めた項目で構成しています。こどもの健康を守り，食事を支えるためには，多職種（保護者を含め）の連携も不可欠です。重症児の親の思いを知り，基礎的な知識を踏まえ，支援の事例を通して多職種との連携をどのように行っていくかを知り，考えるきっかけとなればうれしいです。

重症児の食事への支援をこれから始める方や，支援の方法に悩みや不安がある方だけでなく，経験豊富な支援者の方にもお読みいただき，重症児の食事に関する援助へ役立てていただけますと幸いです。本特集をきっかけに，より一層，重症児が“ 食事を楽しむ” ことへつながることを期待しています。

順天堂大学医療看護学部小児看護学／小児看護専門看護師，ホスピタル・プレイ・スペシャリスト
鈴木 由貴