誰も教えてくれなかった癌臨床試験の正しい解釈

  • ページ数 : 242頁
  • 書籍発行日 : 2011年10月
  • 電子版発売日 : 2012年12月15日
4,840
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商品情報

内容

非劣性試験とはいったい何か? 中間解析と試験中止、結果公表の判断の妥当性は? 個別化治療の方法論とは?… 癌治療・研究のベテランが、臨床腫瘍学における試験結果の読み方について深みある筆致で説く。

序文

はじめに

進行癌の治療研究を20年以上もやっていると,どうしても生物統計の知識が必要になる.これなくしては自分で研究計画を立てることはもちろん,人が出した結果の解釈も覚束ない.ところが,生物統計の教科書はどれもやたらに難しく,あたかも素人(臨床家)の出る幕などないと拒絶しているかのようだ,と浅学非才かつ怠惰な私は勝手に僻んでいた.そんなの玄人(統計家)に任せておけばよいのだよ,臨床医が生兵法を身につけたって仕方がない,と達観しておられた先輩もいた.

しかし私は,大袈裟に言えば哲学的に,もしくは意地になって,素人学問を続けていた.治らない進行癌を相手にするのに,我々は「科学的な方法論」での改善を目指し,一方,科学よりもビジネスとして「画期的な新治療」を売り物にしている業者や「研究者」もいる.科学的であるということはイコール倫理的とはいえないので,「どのみち治らない」以上,我々は怪しげな民間療法を「倫理的に」非難することはできない.ならば,「科学」の方法論をブラックボックスにしてしまっては,我々は患者さんに向き合うのに拠って立つところを失ってしまうではないか.幸いにして,私が十余年勤務してきた国立がんセンターには相談にのってくれる,もしくは教えてくれる,親切な統計家や臨床試験の専門家がいた.

さて勉強して知識を得ると,人に伝えたくなるのは人情である.私はいろいろなところでの講演でそういう知識をひけらかしたり,一部は本に書いたり(新潮新書「偽善の医療」)したが,それが中外医学社の目にとまり,素人なりにまとめてみろという申し出を受けた.

私は素人であるので,書いたものが系統的になっていないのはもちろんであるが,取捨選択ができない.要するに,「知っていることをありったけ書いた」のである.しかし内容に大きな誤りがあってはいけないので,気鋭の統計家である吉村健一先生に監修をお願いした.このド素人の,しかも勝手気侭な文章に丁寧に対応していただけて,ただ感謝あるのみである.

内容が肺癌に偏っているのは御勘弁いただきたい.読者からのご叱正をいただけることができたら望外の幸せである.

本書に出てくる図は,かなりの部分を,国立がんセンター中央病院勤務時代にご教示賜ったもと同僚・福田治彦先生(現・国立がん研究センターがん対策情報センター臨床試験支援部長)および山本精一郎先生(同・がん対策情報センターがん情報提供研究部室長)からいただいたものを無断で流用した.ここに改めて深く感謝するとともに,訴えたりしないでくれと願うばかりである.また,オリジナルの図の多くは中外製薬(中外医学社とは無関係)オンコロジーユニットの石井絵美さんに製作していただいた.厚く御礼申し上げます.


平成23年9月

里見清一 こと
三井記念病院呼吸器内科 國頭英夫

目次

1 非劣性試験

非劣性試験とは何か

FACS trialについて

非劣性の証明

対立仮説と帰無仮説

なぜ「非劣性」でよいのか

非劣性のマージンの設定

非劣性が証明されたらどうなるのか

非劣性試験結果の早期発表について

後付の非劣性の「証明」

ITTについて,またクロスオーバーがかかるときの非劣性試験の問題

FACS結果の解釈,誤解,倫理的側面

FACS trialの(私見)結果の解釈と反省

2 中間解析と試験の中止,結果公表

CALGB9633の中間解析結果

2004年当時の私の批判

早期中止の根拠

中間解析結果の提示方法

標準治療としての役割

2006年の逆転

「有意差が失われた」理由

CALGB9633の統計学的「解釈」

長期フォローとcrossing hazards

蛇足:crossing hazardsと治療効果の関連の主張

止める根拠となるべきエンドポイント

止める基準

結語:早期中止・公表されたデータはどこまで信用できるか

3 個別化治療について

誤った「個別化治療の証明」

予後因子と予測因子が意味するもの

治療法の選択

予後因子による治療の選択(risk/benefitの変化)

予測因子のみでは治療は決まらない

分子標的治療とは,標的で個別化される治療である

EGFR-TKIと化学療法の比較から分かったこと

gefitinibとerlotinibの違い:分子標的「薬剤」と分子標的「治療」

Active controlを持つ場合の問題点

治療効果予測因子のvalidationと個別化治療の開発

1)Marker(+)design(もしくはEnrichment design)

2)Marker-strategy design

3)All-comers design

レトロの解析ではいけないのか

ランダム化しなければ本当に(何も)分からないのか

4 臨床試験におけるエンドポイント

「真の」エンドポイントとそのサロゲート

PFSなどの指標の定義

PFS評価における欠点

1)研究者による評価バイアス

2)第三者評価によるバイアス

PFSとOSとの相関

PFSのメリット(OS評価の短所)

クロスオーバーデザインの問題

FDAの認可状況

PFSの意味するもの

初回化学療法と分子標的治療など異質の治療の比較

治療戦略の比較

「PFS positive, OS negative」試験の評価

PFSの意義のまとめ

"OS positive, PFS negative"trialsについて

OS以外の"true endpoints"

QOL

Cost

コラム1 Clinical equipoise

Clinical equipoiseの概念と「許容限界」

Off-protocolで試験治療を提供することについて

Post-protocolで試験治療を提供することについて

Randomized phase II trialについて

 付記

コラム2 コストパフォーマンス

どんどん高くなる新治療

命の値段の出し方

Cost and health improvement

Cost-effectiveness analysis(費用対効果分析)

Cost-benefit analysis(費用対利益分析)

Cost-utility analysis(費用対便益分析)

Quality-adjusted life-years (QALY) とIncremental cost effectiveness ratio (ICER)

QALY係数の計算

「そのコストに見合うのか?」

「コストパフォーマンスの良い治療」の目安とその根拠

コスト解析の問題点

今後の臨床研究はどうあるべきか

用語集

監修の言葉

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書籍情報

  • ISBN:9784498022508
  • ページ数:242頁
  • 書籍発行日:2011年10月
  • 電子版発売日:2012年12月15日
  • 判:A5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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