ここが知りたい 強心薬のさじ加減

  • ページ数 : 456頁
  • 書籍発行日 : 2016年3月
  • 電子版発売日 : 2016年11月18日
7,480
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商品情報

内容

時代を逆行する「さじ加減」の世界にあえて挑む!

循環器医師のスペシャリストが強心薬の使い方をその病態に分けてなるべく 科学的見地から語り、スペシャリストたちが自分の頭のなかで科学に基づいた 治療に関するSOPを披露した一冊

序文

緒言

本書のタイトルは,「強心薬」と「さじ加減」という2 つのキーワードから成り立つ.この2 つの言葉の「どこを知りたい」というのか? といぶかる方もおられよう.そのお気持ちはよくわかる.というのも,この2 つの言葉は,医学・医療の世界においては時代遅れであるからだ.「強心薬」に関しては,多数の大規模介入臨床試験において,慢性心不全の生命予後を改善するどころかかえって悪化させてしまうことが知られている.また,「さじ加減」は,ガイドラインやevidence-based medicine とは真逆をいく概念である.それは,医師個人の判断で,その患者さんの病態や様子により薬剤を投与したりしなかったり,量を増減させようというものであるからだ.でも,今回,私はあえてこのタイトルをつけた慢性心不全の治療に関する成書を企画したのには,2 つの理由がある.

その1 つ目の理由は,心不全の病態は,特に急性または重症心不全では,強心薬がなければ患者さんの生命を救えないことが少なからずあるからだ.以前私が行っていた心臓移植部の病棟回診において,強心薬を長期間静脈内投与しないと生命が維持できない心臓移植の待機重症心不全患者さんを診るにつけその感を強くしてきた.急性心不全の治療現場においても,利尿薬やhANP だけで乗り切ることが難しく,強心薬を使って救命できた症例に出会うことはよくある.しかし,この臨床現場での事実に対する科学的なエビデンスがないのも事実である.急性・慢性心不全のどのような病態において,どれぐらいの期間,どのような強心薬を投与するべきかについてはコンセンサスがない.強心薬は両刃の剣であり,その使いかたを大規模研究で明らかにすることはきわめて困難であるからだ.2 つ目は,ガイドラインのもとになる大規模臨床研究では,慢性心不全にβ遮断薬・ACE 阻害薬・ARB・アルドステロン拮抗薬を投与するべきであるかを教えてくれたが,高血圧・心筋症・弁膜症・心筋虚血などによる異なる原因による心不全に対して,強心薬をどのように使うべきか,もしくは使わないべきかについて,誰も教えてくれない.でも,強心薬は慢性心不全の長期予後に対して効果がないから,その用量が不明だから,使いかたがわからないからといって,急性・重症心不全の患者さんを助けないわけにいかない.まさしく「さじ加減」の世界である.実は「さじ加減」という単語のなかに使われている「おさじ」とは,江戸時代,将軍または大名の侍医のことを指す.つまり「さじ加減」とは,将軍または大名の侍医の虎の巻のようなもので,narrative-based medicineと密接に関係する. でも,narrative-based medicine はevidence-basedmedicine の対極に立つもので科学的ではない.一方,我々医療関係者は,科学的に正しいと考えられることを患者さんに施行する責務がある.つまり「循環器病医療での必要性はあるのだが,科学的evidence を得るのが困難だ」というのが,強心薬と心不全の関係であり,このような状態をどのように打破し,なるべく正確な情報を循環器病の診療に携わっておられる方に届ける必要があると感じていた.どうすれば,いいのであろうか?

そこで考えたのが,一流の循環器医師のなかでも特に臨床経験が豊富でしかも科学的思考のできる先生方に,強心薬の使いかたをその病態に分けてなるべく科学的見地から語っていただくことである.この試みが無茶なことは百も承知の上であり,実際,執筆をご依頼させていただいた先生のなかには,自分の分担部分に対して明確なエビデンスがないことを理由に,ご執筆を断ってこられた方もおられた.でも,一流の循環器医師は,自分の頭のなかで科学に基づいた治療に関するSOP(standard operating procedure,標準作業手順書)をもっており,それらを本書でご披露していただいた次第である.熱心な先生方のご尽力で,かけがえのない良い本ができたと自負している.ご執筆いただいた先生方に深く感謝するとともに,本書が,心不全の治療に携わっておられる先生方の御役に立てることができれば,編者の大きな喜びである.そして最後に,より多くの患者さんとその心臓を救える理想的な強心薬が創薬されることも心から祈念したい.


2016 年春寒の頃

北風 政史

目次

第1章 心臓の収縮と弛緩のメカニズム

 1.生理学的観点から

 2.心筋細胞のカルシウムハンドリング

 3.高エネルギーリン酸の観点から

 4.分子生物学的観点から

 5.臨床の観点から

第2章 強心薬とは

 1.強心効果のメカニズム

 2.経口強心薬

 3.ドパミンとドブタミン

 4.ノルエピネフリン・エピネフリン

 5.PDE III阻害薬

 6.薬理学的視点からみた各種強心薬の特徴

第3章 強心薬を投与すべき病態とは

 1.強心薬が必要な病態とは?

 2.どのような病態に強心薬が必要か? ―血行動態の観点から

 3.どのような病態に強心薬が必要か? ―心エコー図からわかること

 4.急性心不全―虚血性,非虚血性の病態と治療の差異

 5.クリニカルシナリオ3の病態と強心薬

 6.急性心不全―いかに強心薬をweaningするのか?

 7.慢性心不全の病態と治療

 8.慢性心不全―いかに強心薬をweaningするのか?

 9.心不全患者の血行動態と神経体液性因子の関連性―強心薬により是正は必要か? また,可能か?

10.心不全患者の血行動態と交感神経活性化の関連性―強心薬の投与はどのような影響を及ぼすのか?

第4章 急性心不全における強心薬の使いかた

 1.Forrester分類からみた考えかた

 2.クリニカルシナリオからみた考えかた

 3.Nohria-Stevenson分類からみた考えかた

 4.腎不全を併発しているとき

 5.肺高血圧症を合併するとき

 6.心機能が極端に低下しているとき

 7.心機能が保たれているとき

 8.電撃性肺水腫での使いかた

 9.左心不全が主体のときの使いかた

10.右心不全が主体のときの使いかた

11.COPDを合併したときの使いかた

12.強心薬の効果が十分でないときの対応

第5章 慢性心不全における強心薬の使いかた

 1.HFrEFでの強心薬の使いかた

コラム:HFpEFでの強心薬の位置づけ

 2.NYHAが悪化してきたときに強心薬を用いるべきか?

 3.腎機能が悪化してきたときにどのように強心薬を用いるのか?

 4.BNPが上昇してきたときに強心薬を使うべきか?

 5.EFが低下してきたときに強心薬を使うべきか?

 6.心拡大が生じてきたときに強心薬を使うべきか?

 7.虚血性心疾患による心不全に強心薬を使うべきか?

第6章 強心薬と他の薬剤との併用のさじ加減

 1.強心薬と利尿薬

 2.強心薬とβ遮断薬

 3.強心薬とRAS阻害薬

 4.強心薬と血管拡張薬

第7章 病態による強心薬の使いかた

 1.拡張型心筋症による心不全と強心薬

 2.肥大型心筋症による心不全と強心薬

 3.大動脈弁疾患における強心薬

 4.僧帽弁疾患による心不全と強心薬

 5.三尖弁疾患による心不全と強心薬

 6.頻脈性および徐脈性心不全における強心薬の使いかた

 7.心筋梗塞後の心不全と強心薬

第8章 強心薬についてのワンポイントレッスン

 1.臨床で強心薬を用いると心筋細胞は傷害されるのか?

 2.強心薬使用による心筋傷害は検出できるのか?

 3.強心薬と内皮機能は関係するのか?

 4.強心薬とアディポネクチンは関係するのか?

 5.呼吸機能に強心薬は関係するのか?

 6.強心薬は耐糖能異常と関係するのか?

 7.強心薬は小児にどう使うのか?

 8.強心薬は高齢者にどう使うのか?

第9章 重症心不全患者の強心薬の使いかた

 1.重症心不全患者の強心薬の使いかた

 2.カテコラミンの導入・離脱の実際

 3.IABPとの併用・IABP weaning時の使いかた

 4.PCPS/VASとの併用・weaning時の使いかた

 5.植込み型補助人工心臓時代の強心薬の使いかた

第10章 強心薬の将来像


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書籍情報

  • ISBN:9784498136427
  • ページ数:456頁
  • 書籍発行日:2016年3月
  • 電子版発売日:2016年11月18日
  • 判:A5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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