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- いまどきの依存とアディクション プライマリ・ケア/救急における関わりかた入門
商品情報
内容
泥酔患者,アルコール性肝炎,処方薬・市販薬の乱用,ストレス性胃潰瘍の背後にある配偶者の暴力…地域医療の現場には多くのアディクション問題がありますが,アディクションは,先生方が毎日診ている糖尿病や高血圧と同じ生活習慣病でもあります.本書を読んで,関わり方の基本を身につけ,次の社会資源に上手につなげるようになりましょう.
序文
はじめに─「見て見ぬふり」から,一歩前進する─
プライマリ・ケア(PC)や救急の現場で仕事をしていると,依存とアディクションに関する問題に遭遇する機会が,近頃ますます増えてきました.
その問題の中味は,従来からPC領域でも扱ってきた,ニコチンやアルコールに対する依存だけではありません.いま世間の注目を集めている危険ドラッグを筆頭にして,医師が処方するベンゾジアゼピン系薬,薬局で買えるOTC薬から,病的ギャンブリングやインターネット嗜癖に到るまで,多岐にわたる依存とアディクションを目にする時代となりました.また,1人の患者さんが,複数の依存やアディクションを抱えていることもあります.さらに,依存者に振り回されている家族が心身の不調を訴えて受診されることも,決してまれではありません.
では,そのような「いまどきの依存とアディクション」に関わる健康問題に対して,現場のPC医や救急医は,どうしているのでしょうか?
残念ながら,ほとんどのケースは,以下の3パターンのいずれかで処理されています.
①まったく「気づいていない」
②何となく気づいてはいるが「見て見ぬふり」
③「ほどほどにしなさい」といった,曖昧でゆるい指導のみ
「気づいていない」という状況に陥るのは,PCや救急の現場で,依存とアディクションに関するスクリーニングが日常的に行われていないことによります.依存症は「否認の病」なので,患者さんが依存の実態を隠したり,実際よりも過小に申告したりすることもあるでしょう.
「見て見ぬふり」という行動をとるのは,「へたに介入すると厄介なことに巻きこまれるのではないか」という危惧によるものですが,そもそも,依存とアディクションに対して,どのように関わればよいのかという心得を,PC医や救急医が全くもち合わせていないことが根本的な要因となっています.
「ゆるい指導」は,それを行う医師個人の「マイ人生哲学」に基づくものであって,医学的なエビデンスや妥当性から導かれるものではありません.ヒステリックに「ダメ,絶対!」などと説教してしまうのも,効果がないという点では「ゆるい指導」と同じです.そんな介入しかできない原因も,依存とアディクションについての理解が不足しており,関わり方の基本を知らないからであります.
いざ勉強しようと思い立っても,卒前・卒後の医学教育では,依存やアディクションとの関わり方についてくわしく教えてはくれません.非専門医を対象としたテキストや研修会も,(ニコチン依存症を除けば)ごく少数しか存在しません.依存とアディクションの専門家がどこにいて,どうやって連絡を取ればよいかについて熟知しているPC医は少ないです.
そこで,精神科を専門としない医師や援助職に対して,「いまどきの依存とアディクション」との関わり方を伝授するためのガイドブックがあれば,これまで述べてきた様々な障壁を乗り越える助けになるのではないかと考えて,本書をつくりました.本書の最大の特徴は,PC領域や救急の現場で実際に診療している身体科医と,依存とアディクションを専門とする精神科医とが,「ともに考える」という構成になっているところです.
このような独特のスタイルができあがったのは,依存とアディクションに関する臨床のトップランナーである松本俊彦先生からのお声がけによりまして,精神科診療に関心をもつ内科医,PC医らによる学びの共同体であるPIPC(Psychiatry in Primary Care)のメンバーが参集し,当初から本書の企画・編集に深く関わったことによります.
Part 1 では,PC領域や救急の現場で出会う可能性のある,依存とアディクションに関連した「困った」場面を呈示して,PC医・救急医・薬剤師と,精神科専門医が,それぞれの立場から,危機を切り抜け,問題を解消するための道筋について考えます.
Part 2 では,Part 1 で示された道筋を,安全かつ的確に進んで行くための基本的な知識と心得について,わかりやすく解説しました.そして,今後ますます重要となる,地域における多職種との連携の実際についても学ぶことができます.
コラムとして,アルコール依存の当事者と家族のみなさまからの切実な体験談を多数掲載することができました.ゲートキーパーとしてのPC医の役割が重要であると実感できる,貴重な「語り(ナラティブ)」ばかりです.
巻末資料として,①アルコール問題への介入法であるSBIRTを実践するためのリーフレット,②依存とアディクションに関する用語集,③全国の相談窓口や自助グループのリストを用意しました.①のリーフレットは,アルコール問題に関する多職種連携の先がけである「四日市アルコールと健康を考えるネットワーク」が作成されたものです.このリーフレットに書かれていることを実践するだけで,初学者でもアルコール問題への簡易介入が明日からできるようになるという大変優れたツールですので,ぜひご活用ください.
なお,ニコチン依存に関する問題につきましては,すでに良書が多数刊行されておりますので,本書では取りあげておりません.
最後に,PC領域における依存とアディクションへの対処という難儀な課題に対して,真摯な姿勢でご執筆くださいましたPIPCグループのみなさまと,わが国の依存症診療の最前線で奮闘されている専門家でなければ書くことのできない,臨床の知恵や心構えを授けてくださいました精神科医の先生がたに,心から御礼申し上げます.特に,当事者・家族の体験談と,SBIRT実践リーフレットの掲載について,ご提案とご快諾をいただきました猪野亜朗先生(かすみがうらクリニック),本当にありがとうございました.
本書を読まれたPC医・救急医・援助職のみなさんが,「見て見ぬふり」から一歩前進されて,依存とアディクションの問題にきちんと向き合っていただけるようになれば,目の前にいる患者さんとご家族が幸せになるだけではなく,日本の依存症診療の「構造」と「質」も大きく変革されます.そんな日がやって来ることを願ってやみません.
2015年4月
宮崎 仁
目次
Part Ⅰ
こんなとき,どうする? PC医が依存とアディクションに出会ったら
1.アルコール
Case A 内科外来で 健康診断で肝機能異常を指摘
Case B 内科病棟で アルコール依存症患者が内科疾患で入院してきたら
Case C 救急外来で 酩酊して外傷を負った問題飲酒/アルコール依存症患者を診た
Case D 家庭医の外来で アルコール依存症患者の暴力のためうつ状態になった家族
2.危険ドラッグ
Case A 内科外来で 突然危険ドラッグの影響に関する健康相談を受けた
Case B 救急外来で 危険ドラッグ使用者が錯乱して運ばれてきた
3.危険ドラッグ以外の違法薬物
Case 救急外来で 覚せい剤の使用が疑われる患者を診た
4.ベンゾジアゼピン系抗不安薬・向精神薬
Case 内科外来で 初診の患者からハルシオン®の処方を求められた
5.非向精神薬/OTC薬
Case A 内科外来で 頭痛薬依存が疑われる患者に遭遇した
Case B 薬局で OTC薬依存が疑われる客に遭遇した
6.その他のアディクション(「過程嗜癖」をめぐる問題)
Case A 内科外来で リストカットをしている女子高生を診た
Case B 家庭医の外来で 病的ギャンブリングが疑われる主婦に遭遇した
Case C 内科外来で ネットゲーム依存が疑われる高校生を診た
Part Ⅱ
装備ゼロからはじめる依存/アディクションへの援助
1.患者に対する援助
A.患者に接するときの基本的な心得/態度とは?
B.プライマリ・ケア医が知っておくべき治療的介入あれこれ
C.依存/アディクションと自殺予防
D.おっかない依存症患者から殴られないために
2.家族への援助/介入のコツ
A.プライマリ・ケア医の立場から
B.精神科専門医の立場から
3.地域ネットワークを活かす
A.精神科医とプライマリ・ケア医の上手な連携―アルコール患者を中心に
ミニ紙上討論会「断酒か? 節酒か? それが問題だ」
B.薬剤師との連携
C.保健師/行政サービスとの連携
D.ネットワークの実際(実例)紹介
E.プライマリ・ケア医ならできるアルコール問題への予防介入
F.知っておいてほしい自助グループと民間リハビリ施設のこと
4.プライマリ・ケア医が知っておくべき司法上の問題
「司法上の問題 Q&A」
コラム 患者・家族からのメッセージ①~⑩
資料
一般医・救急医・産業医・関連スタッフのためのSBIRTの進め方
用語集
各種相談窓口
おわりに
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書籍情報
- ISBN:9784525202910
- ページ数:256頁
- 書籍発行日:2015年6月
- 電子版発売日:2019年6月5日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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