実験医学別冊 もっとよくわかる!免疫学

  • ページ数 : 222頁
  • 書籍発行日 : 2011年2月
  • 電子版発売日 : 2012年12月29日
4,620
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商品情報

内容

今度こそ免疫学がわかる!

◎基本編
詳細すぎる情報は最小限に抑え、免疫学特有の概念や考え方を解説

◎展開編
基本編を踏まえて、一歩踏み込んだ詳細なメカニズムを解説

◎応用編
免疫の破綻がもたらす病気や、医療との関わりについて解説

最新レビューもみるみる理解でき、強力な基礎固めがこの一冊で可能です!

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序文

「免疫学は難しい」と思われがちである.確かに,免疫学には,免疫学でしか使わない概念が沢山ある.それと,やたらと分子の名前が出てくる.免疫学の標準的な教科書をみわたしても,難しいものが多い.一方,入門書レベルの本をながめてみると,今度は間違いが多かったり,免疫学の本質が書かれていなかったりする.情報量を減らすことによってわかりやすくすることは可能かもしれない.しかし,わかりやすくするからといって,本質的な部分を避けては免疫「学」ではなくなってしまう.

本書は,免疫学の入門書として,わかりやすさを心がけたが,平易でありながらも免疫学の本質をもらすことなく伝えることを意図して書いた.「わかりやすいが,中身はしっかり」ということを目指したつもりである.

免疫学とは,「抗原特異性」を主題として扱う学問である.「抗原特異性」とは何だろうか.例えば,ある人が悪人かどうかを見定めるのに,あやしい風体をしているというレベルの見分け方もあれば,写真入り指名手配書で見分けるという方法もある.抗原特異性というのは指名手配で犯人を探すようなものである.

この抗原特異性を発揮するために,免疫系はとても複雑な仕組みを用いている.しかし,複雑だからこそ,免疫学は「学問」として生命科学をリードしてきたのである.

複雑ではあるが,実は,免疫学の基本原理自体は順序よく学べばそう難解なものではない.ところが,昨今の免疫学では,あまりに多くの種類の細胞,分子が登場していて,テキストを読んでも本質的な枠組みがわかりづらくなっている.

本書は,既存の教科書や入門書と比べると,かなり異なる構成にした.目指したことは「基本原理をまず理解する」ということである.そのために本書で心がけた一番の特徴は,細かい周辺情報(ディーテイル)を極力抑えたことである.何事にも本質的な仕組みとそれを修飾する仕組み,さらに仕組みを動かす部品に関するディーテイルがある.修飾的な仕組みやディーテイルはときに雑音になって,肝腎の本質の理解を妨げることがある.ともすると,ディーテイルの情報だけをざっと眺めて,いろいろなことを学んだ気になってしまうという危険性すらある.本書では,むしろそういう雑音を極力抑えることにより,初学者でも免疫学の中核的な概念をきちんと理解できるように書いたつもりである.

基本編では抗原特異的な反応の仕組みの解説を中心に,細かい情報は最小限に抑えて解説している.

基本編でひととおり免疫の仕組みを理解したうえで,展開編・応用編では,トピックごとに,ややつっこんだ解説をする.このような話の進め方をすると,例えば胸腺の中でT 細胞がつくられる過程については,前半の基本的な話と,後半のテーマ別の掘り下げた話と,2 回でてきてしまう.それでも,基本原理の理解のために,あえてそういう構成にしてあるので,ご了承願いたい.

また,本書は,読み進めると出て来る疑問やつっこみにも,その都度対応するように心がけた.例えば,それぞれの項目の中で,「もっと詳しく」というコーナーを設け,やや詳しい解説を加えた.この「もっと詳しく」コーナーは,読み飛ばして先に進んでも問題ないようになっている.また,Column という形の記事は,考察を中心に書いており,これもスキップしていただいてよい.

筆者はもともとは血液内科医であったが,基礎医学の研究者になってからは造血初期の系列決定過程やT 細胞の分化過程を主な研究対象としている.T 細胞や他の免疫細胞がつくられる過程を理解するためには,それらの細胞の働きを理解しておく必要があり,そのために免疫学全体を学ばなければならなかった.学ぶ際に感じたことは,本質的な仕組みをわかりやすく書いてくれている本が少ないということだった.そのとき苦労したことが,本書を書く動機になっている.

本書は生命科学を学ぶ学生や他分野の研究者および臨床医向けの入門書を想定しているが,免疫学分野の研究者でも,専門の領域以外の分野の理解や,新しい情報のupdateに役立つのではないかと考えている.


末尾ながら,全編にわたって多くのアドバイスをいただいた桂義元先生,本書を企画され,脱線しがちな拙稿を鋭くかつ根気よく編集いただいた山下志乃舞氏に,心より感謝いたします.


2010年 12月

河本 宏

目次

◆ 基本編 ◆

1章 免疫学のおもしろさ

1.免疫学の本質とは ─ 獲得免疫系のもつ複雑な仕組み

2.学問としての位置づけ ─ 免疫学は生命科学をリードしてきた

3.医学としての免疫学 ─ 原因不明の病気の多くは免疫系が関与している

4.日本の免疫学 ─ 他の分野と比べて,日本の競争力が強い

5.免疫学の未来 ─ 免疫学はまだまだ発展し続ける

2章 獲得免疫とは?

1.免疫反応の基本型 ─ 免疫学は抗原特異性を扱う学問である

2.脊椎動物の持つ獲得免疫システム① ─ ひとつの細胞に1種類の分子という大原則

3.脊椎動物の持つ獲得免疫系② ─ 自己寛容と免疫記憶

4.食細胞,T細胞,B細胞の分業 ─ 病原体を食べる,感染細胞を殺す,抗体をつくる

3章 抗原情報の伝わり方

1.抗原レセプターは何をみているか ─ こんなすごい分子は他にない

2.獲得免疫系による免疫応答の概要 ─ 樹状細胞とヘルパーT細胞が登場!

3.MHCクラスⅠとクラスⅡ ─ 抗原提示法には2通りある

4.クラスⅡ分子を用いた抗原特異的な免疫反応 ─ ヘルパーT細胞はクラスⅡ分子上のペプチド抗原をみる

5.MHCクラスⅠ分子を介した抗原特異的な細胞傷害 ─ キラーT細胞は感染細胞を殺傷する

4章 多様性の創成と自己反応細胞の除去

1.T細胞がつくられるところ ─ 胸腺はT細胞をつくるための臓器

2.多様性の創出 ─ 遺伝子再構成という驚くべき仕組み

3.T細胞の正の選択と負の選択 ─ 役立つ細胞を選び,危険な細胞を取り除く

4.B細胞の分化と選択 ─ B細胞の負の選択と受容体再編成

5章 自己反応性を抑制するさまざまな調節系

1.自己反応性細胞の除去には漏れが多い ─ 負の選択は完全ではない

2.T細胞が活性化されるとき ─ 感染時だけ反応する仕組み

3.T細胞アナジーの成立 ─ 定常状態で自己反応性細胞を排除する

4.抑制性細胞による抑制 ─ 制御性T細胞による自己反応性細胞の抑制のメカニズム

5.活性化したT細胞を死なせるシステム ─ 免疫反応の終息点の制御

◆ 展開編 ◆

1章 血液細胞の発生と分化

1.造血細胞はどこから来るのか ─ 造血細胞は流浪の民

2.造血幹細胞 ─ 全ての免疫細胞のみなもと

3.造血幹細胞のニッチ ─ 隠れ家でほっこり

4.系列決定の進行過程 ─細胞分化の最もドラマチックな出来事

5.新しい造血モデル ─ ようやく骨組みがみえてきた

2章 免疫組織の発生とT細胞・B細胞の分化

1.胸腺の発生 ─ 極性を失った上皮細胞の塊

2.胸腺に移住する前駆細胞 ─ 胎生期の移住細胞は解明された

3.胸腺環境と骨髄環境の決定的な違い ─ 実はNotch だった

4.胸腺内初期T細胞分化① ─ 胸腺でT細胞系列への完全な決定が起こる

5.胸腺内初期T細胞分化② ─ TCR β鎖再構成のチェックポイント

6.正の選択の基本原理は? ─ いまとてもhot な話題

7.組織固有の抗原に対して胸腺で起こる負の選択 ─ 胸腺髄質に末梢組織が映し出されている

8.ヘルパーになるかキラーになるかの運命を選ぶとき ─ 動的シグナルモデルとは?

9.胸腺でつくられる他のT細胞 ─ T細胞はヘルパーとキラーだけじゃない

10.B細胞のつくられ方 ─ 抗原レセプターのつくられ方はT細胞と似ている

3章 さまざまな免疫応答の機序 ─ 抗原特異的反応を修飾するさまざまな要素

1.リンパ節/ 脾臓の構造と機能 ─ 免疫細胞の出会いの場

2.免疫細胞の移動 ─ リンパ球による巡回パトロール

3.リンパ節で起こること ─ 免疫細胞の出会いの場

4.親和性成熟 ─ リンパ節/ 脾臓で起こる抗体の「進化」

5.いろいろな抗体分子 ─ 体中でうまく使うための工夫

6.クラススイッチ ─ 抗体分子の抗原結合部位の使い回し

7.免疫記憶 ─ 二度目は速やかに

8.MHC の多型性 ─ 病原体とのせめぎあい

9.粘膜免疫 ─ 他の組織とひと味ちがう

10.ヘルパーT細胞のサブセット ─ Th1,Th2,Th17......どこまで増える?

11.サイトカイン ─ 至近距離で働くホルモンのようなもの

4章 自然免疫系の生体防御機構 ─ あらっぽいけど,すばやい反応

1.自然免疫系の基本型 ─ 獲得免疫系との関わりを抜きにしてみてみよう

2.自然免疫系と獲得免疫系の関わり方 ─ もちつもたれつ

3.病原体センサー ─ 獲得免疫系の始動役

4.補体はすごい ─ 強力な防衛線

5.NK細胞は自己と非自己を見分ける ─ キラーT細胞とは別の殺しのプロ集団

6.自然免疫から獲得免疫への橋渡しをする種々の細胞 ─ 役者は増えて来た

7.自然免疫と獲得免疫との中間的な細胞 ─ どっちやねん!

5章 いろいろな生物の免疫 ─ 免疫系の進化を考える

1.無脊椎動物の免疫 ─ 獲得免疫がなくてもどうということはない

2.ヤツメウナギの獲得免疫系の驚異 ─ 独自の獲得免疫系

3.獲得免疫の出現のシナリオ ─ サメでも哺乳類とほぼ同じ

4.B細胞のつくられ方は動物種によってこんなに違う ─ T細胞はほとんど同じなのに

◆ 応用編 ◆

1章 自己免疫疾患・アレルギー ─ 免疫反応が体に害を及ぼすとき

1.アレルギーのメカニズム ─ 抗体をまとった細胞達が大暴れ

2.自己免疫疾患とは ─ 免疫が自分を標的にする

3.自己寛容が破綻する仕組み ─ 一定の割合で起こりうるシステム上のエラー

2章 医療と免疫学 ─ 免疫学をどのように医療に活かすか

1.移植免疫のツボ ─ 免疫の仕組みについて教えてくれる

2.腫瘍免疫の問題点 ─ 免疫監視機構は本当にあるか

3.再生医療と免疫 ─ iPS細胞の光と影

● 文献一覧

● おわりに

● 索引

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書籍情報

  • ISBN:9784758122009
  • ページ数:222頁
  • 書籍発行日:2011年2月
  • 電子版発売日:2012年12月29日
  • 判:B5判
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