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- Z形成術とその他の皮膚形成術
商品情報
内容
序文
克誠堂出版株式会社の依頼で本書の原稿を脱稿したのが昨年4月であった。同社の形成外科手術手技シリーズ「遊離植皮」の拙著を出版して10年目である。前書は幸い好評をいただいたので,本書も,同じく図のみとし,写真をいっさい使用しないこととした。写真は真実を写しているけれども手術手技そのものを的確に表現しにくく,本書の目的にそぐわないからである。今回は自験例も写真より転写した図を作り,各手術の末尾に載せたので,参考にしていただきたい。
私がZ形成術をはじめておこなったのは,東京警察病院で恩師大森清一先生のお教えをいただいていた昭和29年であった。若い女性の頸部瘢痕拘縮で,その後も経験したことのないような,Z形成術に最適の瘢痕であった。大きなZ形成術をひとつおこない,すばらしい効果があがった。私の形成外科への「のめりこみ」にいっそう拍車をかけさせた手術であった。しかし,参考とした文献の名はまったく覚えていない。
顔面の線状瘢痕に連続Z形成術を用いたのは昭和34年5月である。自信もなく,不安に戦きながらの手術であったが,Marino やBorgeS のいうとおり,チックザック創痕は不思議に目立たなかった。私はこれらの臨牀経験と文献の紹介を兼ねて,「Z形成術」という題の総説を,昭和34年の形成美容外科2巻に執筆した。
昭和35年10月の第3回日本形成外科学会学術大会(新潟市)のパネルディスカッションに,私は「線状瘢痕の取扱い方」という題で演説の機会を与えられた。このとき私は「チックザック創痕の目立たぬ理由のひとつとして,視覚心理学的効果も見逃せない」と発表した。
この発表の準備のため慶応大学文学部の心理学教室に通ったことは,私にとって医学とは別の世界の考え方に触れた貴重な体験であった。
このように私は30年前からZ形成術にとり憑かれ,これらの積み重ねが本書となったのかもしれない。
私は学生時代から幾何学だけが得意だった。それでLimberg の原著のコピーを手に入れ,露語が読めないので図だけを眺めて楽しんでいた。また,丹下一郎先生(順天堂大学〉や尾郷 賢先生(杏林大学)らのペーパーモデルを用いた形成手術の解説には共感と敬意を抱いていた。「皮膚と紙とは性質が違うから,ペーパーモデルの説明などは紙上の空論にすぎない」といわれる方もあるだろう。しかし,各種の皮膚形成術で生ずる皮膚の不足部と余剰部はペーパーモデlレにより明確に示されており,実際の手術では皮膚の弾力性や伸展性により隠蔽されているにすぎない。ペーパーモデルにより示された,幾何学的に厳然として存在する変形を理解したうえで手術をおこなえば,皮弁の過緊張,余剰(dog ear),そして縫合創の開大や肥厚化などの防止に役立つはずである。このような理由から,私は本書にはペーパーモデルを使用して解説をおこなった。
克誠堂出版の希望もあって,本書にはZ形成術とともに,各種の皮膚形成術を加えることとした。今までにこのような形式の単行本もなかったため,私は内外の文献を漁って執筆したが,とりこぼしがあるかもしれない。
また,本書では皮膚の縫合手技を割愛した。同じ形成外科手術手技シリーズの福田 修先生著の「新しい縫合法」をお読みになられて,立派な手術をしていただきたい。
本書を執筆して,私は人間の智恵の無限さにおどろかされている。
たとえば,Z形成術という手術は位置の変換を目的として考案されたが,150年間のうちにまったく別の目的(二点間延長効果,四面体効果,線状瘢痕の修正など)に用いられるように変貌をとげている。また,当初の単一Z形成術は連続Z形成術,4皮弁Z形成術,6皮弁Z形成術へと発展して,その効果を増大している。
菱形皮膚欠損の補修にLimberg (1946) は菱形皮弁法を考案した。Dufourmentel (1962) はLimberg皮弁を改良して,より自由に使用できて無理の少ないLLL皮弁を考案した。尾郷ら(1980)はLimberg皮弁とLLL皮弁で生ずる緊張と「ゆとり」の偏在を緩和するため,菱形皮弁を三角皮弁に変更した。同じころ,Becker (1979)は尾郷らの皮弁と同じ三角皮弁を菱形皮膚欠損の両側に作製して,無理の少ないrhomboid-to-W形成術を発表した。そしてCuono (1983)はrhomboid-to-W 形成術の補助切開線を菱形創の辺と等長にして,菱形皮膚欠損の両側でZ形成術をおこなう形式で,2個の三角皮弁が皮膚欠損部を補修する合理的なdouble-Z rhomboid 形成術を発表した。
このように,人間の智恵は,既存の知識を源として無限に拡がっている。このようにして,今後も新しい皮膚形成術が数多く考案されるであろう。私は本書がこのような目的のひとつの「まとめ」と「ふみ台」になれば幸いとねがっている。
おわりに,克誠堂出版株式会社・今井 彰社長,編集のお世話をいただいた林 靖英氏,そして多くの下絵を描いて下さった宮本 博氏のみな様にお礼を申しあげます。
1984年4月
息子の結婚式も間近き春の日
倉田 喜一郎
目次
I. Dog earの発生とその処理
A. Dog ear形成の機序
B. Dog earの処理
C. 創縁の長さのちがう創の横錐の処理
D. Dog earの利用
II. Z形成術
A. Z形成術とは
B. Z形成術の歴史
C. Z形成術の効果とその理論
D. Z形成術の作図
E. 重複Z形成術
F. Z形成術の実際
G. 実例
H. Double-Z rhomboid 法
III. W形成術
A. W形成術とは
B. W形成術の理論と効果
C. W形成術の作図
D. W形成術と連続Z形成術のちがい
E. W形成術の実際
F. 特殊なW形成術
G. 実例
IV. V-Y 形成術
A. V-Y 形成術とは
B. V-Y 形成術の効果と理論
C. V-Y形成術の実際
D. 特殊なV-Y 形成術
E. 実例
V. Y-V形成術
A. Y-V 形成術とはい
B. Y-V 形成術の効果と理論
C. 手術で問題となること
D. 特殊なY-V形成術
E. 実例
VI. V-W 形成術とY-M 形成術
A. V-W 形成術
B. Y-M 形成術
VII . 菱形皮弁
A. 菱形皮弁rhomboid flap とは
B. Limberg flap
C. Dufourmentel 皮弁(LLL 皮弁)
D. 尾郷らの皮弁
E. Rhomboid-to-W 法
F. 実例
VIII. T形成術
A. T形成術とは
B. T形成術の理論と効果
C. 実例
IX. 王冠切除法
A. 王冠切除法とは
B. 王冠切除法の理論と効果
C. 実例
X. 皮下茎島状皮弁
A 皮下茎島状皮弁(subcutaneous island flap) とは
B. 皮下茎島状皮弁の基本手技
C. 伸展皮弁形式皮下茎島状皮弁
D. 横転皮弁形式皮下茎島状皮弁
XI. 皮膚欠損の形とその閉鎖法
A. 皮膚創の形の変更
B. 円形創の閉鎖法
C. 三角創の閉鎖法
D. 方形創の閉鎖法
E. 菱形創の閉鎖法
F. 楕円形創の閉鎖法
G. 半円形創の閉鎖法
参考文献
索引
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書籍情報
- ISBN:9784771900003
- ページ数:253頁
- 書籍発行日:1984年7月
- 電子版発売日:2012年2月3日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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