未熟児網膜症

  • ページ数 : 280頁
  • 書籍発行日 : 2018年10月
  • 電子版発売日 : 2019年9月6日
19,800
(税込)
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商品情報

内容

未熟児網膜症を深く理解し、的確に見極め、時期を逃さず治療する方法を学びとる !

未熟児網膜症のすべてにわたるわが国初めての教科書。
診療に現在かかわっている、あるいはこれからかかわる多くの医療従事者、この疾患に興味をもつ読者に向けて書かれ、病態を理解し診療技術を高めるための“実践編”と、疾患をより深く理解するための“基礎編”で構成。
未熟児網膜症は、きちんとした検査と経過観察を行い、時期を逃さず治療することが何よりも重要である。そのタイミングをいかに逃さないか、本書ではわが国を代表する未熟児網膜症診療を専門とする医師が700点以上の豊富な画像をもとに、長年にわたって培ってきたノウハウを解説。

序文

未熟児網膜症は,小児の視覚障害の大きな原因である.発達途上の網膜血管の成長が障害されることによって生じ,硝子体内に病的新生血管が増殖して牽引性網膜剝離を起こす.一定期間を経て網膜症は自然に鎮静化し瘢痕化するが,血管増殖と網膜剝離は短期間のうちに進行するので,その活動期の間に的確に診断して治療を行い,疾患の後遺症である瘢痕をいかに軽度に収めるかが診療の目的となる.

未熟児網膜症の発症は,周産期医療の進歩によって体重が非常に少ない児の生存が可能となり,近年増加するとともに,重症網膜症も多くみられるようになった.したがって,治療のタイミングが以前より短期間に限られ,さらなる的確な診断と治療が必要である.その検査や治療には技術習得の訓練が必要であるが,残念ながら教育を受けることができる施設が限られ,指導する専門医師の数も十分とはいいがたい.全身状態に問題がある患児が対象では,教育の効率が悪く,技術の習得に時間がかかる.全身の管理は,新生児科,麻酔科,その他の関連する診療科医師との連携が必須である.一方で,新生児集中治療室の整備が全国で進み,多くの医師が未熟児網膜症の診療にかかわる状況となっている.


そこで本書は,未熟児網膜症について,検査と病態の理解,治療までを広く扱うとともに,さらに疾患の基礎的理解までを網羅する内容とすべく企画した.通常の教科書と構成を異にし,診療技術や診方,考え方を詳しく述べた実践編を前半に置き,疾患をさらに深く理解するための基礎編を後半に置いた.未熟児網膜症の診療で近年の最も大きな進歩は,広画角眼底カメラによる眼底撮影である.眼底全体を把握することができるので,眼底周辺部を含めて広く病変が起こる未熟児網膜症では,この撮影の意義はとても大きい.本書の大部分はこの写真が用いられている.カラー写真だけで病状がわかるように心がけたが,蛍光眼底造影写真も多く並列させた.ことに重症網膜症では,予想もつかない循環病態が起こっていることがおわかりいただけると思う.

最も頻見されるであろう病期分類を扱った3 章は,頁肩の章を示す色を明瞭にして,すぐに開けるようにした.病状の一瞬を写しとっただけでは実際の疾患の進行過程や治療における逡巡はわかりにくいので,症例の経過を多数載せた.さらにここでは,印刷された写真では判別しにくい微細な病変を理解するために,解説のためのシェーマを配した.病期分類については,厚生省分類と国際分類はともに優れているが,一長一短がある.厚生省分類は病変の位置と広がりを記載できず,国際分類は瘢痕期の記載が不十分である.そこで本書では,活動期は国際分類,瘢痕期は厚生省分類を用いた.網膜剝離についてはstage 4,stage 5 だけでは複雑な増殖組織や網膜剝離の進行過程の詳細を表現しきれないので,独自の記載を行った.また,増殖組織の立ち上がりと網膜剝離の範囲を理解しやすいように,眼球の概念図を置いた.

治療に関しては,最も基本となる光凝固,繊細な器具の使用によって長足の進歩を遂げた網膜硝子体手術について詳しく解説している.近年,未熟児網膜症に対しても,成人の網膜血管疾患と同様に抗血管内皮増殖因子治療が試みられるようになって,薬剤の国際治験が進行中であり,新しい治療の選択肢になると考えられる.

これらの病態や治療の経過を理解するためには眼底写真に勝るものはないが,良質な写真を揃えることはとても難しい.筆者らはこれまで,広画角眼底撮影によるカラー眼底写真と蛍光眼底造影写真を集積してきた.今回,以前上梓した『未熟児網膜症眼底アトラス』(エルゼビア・ジャパン;2009 年)等で用いた版権上使用できる優れたものも含めて,すべての病態にわたる写真を揃えさらに新たに撮影した多くを加えたので,きわめて充実したものとなっている.

さらに,全身管理や家族へのインフォームド・コンセント,新しい機器や遠隔医療などの最近のトピックスから,鎮静化後のリハビリテーション・ロービジョンケアや晩期合併症に対する経過観察まで,診療にかかわる重要な項目が網羅されている.

後半の基礎編では,疾患の歴史や疫学で周産期管理と未熟児網膜症発症の推移が理解できるとともに,その診断・治療の発展にわが国の多くの医師がかかわってきたことがご理解いただけると思う.病理や類似疾患は,眼底を観察するときに網膜硝子体で起こっているであろう病態を想定するのに役立ち,基礎研究は網膜血管疾患の研究を志す方々の参考になると期待される.


著者はわが国を代表する未熟児網膜症診療を専門とする医師が揃っており,長年にわたって培ってきたノウハウが十全に記載されている.


本書が未熟児網膜症の診療にかかわるすべての方々の一助となれば幸いである.


2018年10月

国立成育医療研究センター

東 範行

目次

実践編―診療の向上のために

1章 未熟児網膜症とは――その診療における心がけ

疾患の概念を理解する

・発達途上の網膜血管に起こる増殖疾患である

・病的血管新生と増殖には血管内皮増殖因子が関与している

・病的血管新生と増殖が進行すると網膜剥離になって失明する

・活動期と瘢痕期がある

・発現頻度や重症度を決める最も大きな要因は網膜血管の未熟性である

・高濃度酸素は未熟児網膜症を悪化させる誘因である

・ほかにも発生に関与する多くの因子が考えられている

・近年は軽症例の減少と重症例の増加の二極化がみられる

病態理解のために,病期分類を正確に知り現状を的確に診断することが重要である

未熟児網膜症診療の目標と心構え

血管新生を抑えるための治療

・光凝固

・冷凍凝固

・抗血管内皮増殖因子治療

網膜剥離に対する治療

未熟児網膜症診療の教育

2章 眼底検査法と写真撮影法

眼底検査法

・わが国の診療環境

・眼底検査の対象と時期

・検査の準備

・検査の方法

・観察時の注意点

写真撮影法

・RetCam®について

・撮影前の準備

・撮影の実際

・眼底写真の利用法

・手持ち眼底カメラでの撮影

その他の検査法

・超音波Bモード検査

・光干渉断層法

・レーザー走査広角眼底検査

3章 網膜症の進行と病期分類

厚生省分類と国際分類

・厚生省分類

・国際分類

活動期分類(国際分類)

・病変の位置と範囲(location and extent of disease)

・病期(stage)

・plus diseaseとpre-plus disease

・aggressive posterior ROP(厚生省分類Ⅱ型)

・網膜剥離の進行

非定型例

・特徴

・病態メカニズム

・治療法

瘢痕期分類(厚生省分類)

4章 光凝固

光凝固の適応と考え方

光凝固

・レーザー光凝固装置

・治療準備

・方法

・術直後の管理

・経過観察と追加凝固

・光凝固は十分行われているが増殖が起こった場合

・寛解の判定

光凝固例の眼底像

冷凍凝固

・方法

・合併症

5章 診断や治療適応に迷う場合

治療が必要かどうかの判断に迷う場合

・自然治癒

・治療適応

バックリング手術と硝子体手術でstage4の早期治療適応に迷う場合

・バックリング手術を優先する場合(硝子体手術が有効でない場合)

・バックリング手術が有効でない場合(硝子体手術を優先する場合)

6章 網膜剥離に対する治療

網膜剥離に対する治療の適応と考え方

・早期治療の重要性

・網膜剥離と増殖組織の進行過程

・classic ROP(厚生省分類Ⅰ型)とaggressive posterior ROP(APROP/Ⅱ型)の違い

・移送と全身麻酔に関わる問題

・手術に際しての基本的な考え方

・手術方針

・手術眼の選択とインフォームド・コンセント

光凝固を行っても増殖が進行(stage4前)あるいは網膜部分剥離(stage4)に対する早期手術

・classic ROP/厚生省分類Ⅰ型の早期手術

・APROP/厚生省分類Ⅱ型の早期手術

網膜全剥離(stage5)に対する硝子体手術

・水晶体切除と硝子体手術(lensectomy & vitrectomy)

・開放式硝子体手術(open sky vitrectomy)

再手術

新しい手術機器

・広角眼底撮影装置

・光干渉断層法

・OCT angiography

・手術用顕微鏡の発展

7章 抗血管内皮増殖因子治療

抗血管内皮増殖因子治療と薬物の選択

・治療の考え方

・治療に用いる薬物の種類と違い

・治療に用いる薬物の選択

・適応外使用と倫理委員会

・国際治験

治療手技

治療の適応と実際

・pre-vitrectomy adjunct

・salvage therapy

・monotherapy

治療の問題点

・硝子体注射に伴う眼局所の合併症

・牽引性網膜剥離の進行

・全身の合併症

・再燃

8章 診療情報の伝達・共有と遠隔医療

搬送時に必要な診療情報

・まず最初に伝えるべき眼科情報

・全身状態についての情報

・NICU間での情報伝達

・その他の重要事項

画像の伝達法

遠隔医療の必要性

これからの遠隔医療

9章 NICUでの管理と麻酔,患児の移送

NICUでの管理

眼底検査や光凝固の際の管理

・未熟児網膜症に対する眼底検査の対象と検査時期

・NICUでの未熟児に対する眼底検査の実際

・光凝固の際の特記事項

未熟児の全身麻酔

・新生児医療の進歩と未熟児網膜症の増加

・未熟児の全身麻酔の問題点

・いつ手術を行うべきか

・未熟児の全身麻酔の麻酔手技

新生児搬送

・搬送前の情報共有

・術前・術後の搬送方法

10章 家族に対する説明とインフォームド・コンセント

病態

治療

・光凝固

・抗血管内皮増殖因子治療

・網膜剥離に対する手術

治療後の経過観察

11章 リハビリテーション・ロービジョンケア

屈折矯正と視能訓練

・屈折異常

・斜視

重篤な視覚障害をもつ乳幼児に対して

・視反応の見方

・早期からのロービジョンケア

・羞明

・身体障害者手帳

重複障害

就学相談と学校での対応

・未熟児網膜症による視覚障害児の就学

・医療機関から教育機関への連携

・就学相談の実際

12章 晩期合併症

角膜混濁

白内障

緑内障

硝子体出血

裂孔原性網膜剥離

小眼球, 眼球萎縮

・小眼球

・眼球萎縮

斜視


基礎編―疾患のさらなる理解のために

13章 疾患概念の成立と診断治療の歴史

疾患概念成立の歴史と発症頻度の変遷

・海外での遷移

・わが国での遷移

厚生省分類と国際分類の制定の歴史

治療の変遷

・光凝固と冷凍凝固

・硝子体手術

・抗血管内皮増殖因子治療

14章 発症率と治療率の変遷(疫学)

出生数の減少と低出生体重児の割合

未熟児網膜症の発症率と治療率の推移

全国視覚特別支援学校調査にみる未熟児網膜症の推移と現況

まとめ

15章 病理

病理を理解する重要性

・stage1(demarcation line : 境界線)

・stage2(ridge : 隆起)

・stage3(extraretinal neovascularization : 網膜外線維血管増殖)

・stage4(partial retinal detachment : 網膜部分剥離)

・stage5(total retinal detachment : 網膜全剥離)

16章 未熟児網膜症の基礎研究

遺伝子解析

・未熟児網膜症の遺伝素因と遺伝子研究

・未熟児網膜症の発症に関連する遺伝子

・未熟児網膜症の鑑別診断と遺伝子診断

動物モデル

・動物モデルの必要性

・未熟児網膜症の動物モデル

・発生期の網膜血管新生

・マウス酸素誘導網膜症モデル

・展望

17章 診断に迷う類似疾患

新生児硝子体出血

家族性滲出性硝子体網膜症

・臨床所見

・病態生理と遺伝子

色素失調症

・疾患の概念と特徴

・眼所見

・診断と治療

・全身症状と管理

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書籍情報

  • ISBN:9784895906432
  • ページ数:280頁
  • 書籍発行日:2018年10月
  • 電子版発売日:2019年9月6日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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