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序文
はじめに
『ADHDクロストーク』と題した本書は,様々な職種の臨床家と,わが子や配偶者の注意欠如・多動症(attention-deficit/hyperactivity disorder: ADHD)をより詳しく理解したいと望んでいる当事者の保護者や配偶者,あるいは学校生活を支える教職員などの支援者に,ADHD臨床の生き生きとした息吹や手触りを直に感じ取ってもらえる書となることを目指し,児童精神科医2名と小児科医1名によるクロストーク(鼎談)の形を採ってまとめたものである.まずこのクロストークの発言者がなぜこの3名なのかについて述べておきたい.
飯田順三氏は奈良県立医科大学医学部看護学科の教授として発達障害の診療や神経生理学的研究を通じて子どものADHD臨床に貢献を続けてこられ,ADHDのガイドライン作成を目指す研究にも参加していただいた私の最も信頼する児童精神科医の一人である.また現在,東京家政大学子ども学部子ども支援学科の教授である宮島祐氏は日本ADHD学会の現理事長で,主に小児神経学の観点からADHD研究とその診療に長く取り組んでこられた小児科医である.また宮島氏とは,彼が東京医科大学小児科におられた頃から研究活動や研究会でご一緒させていただき,互いの考えをぶつけ合える関係を続けてきた.このように飯田氏と宮島氏は共にADHD研究においても,そしてその診療においても,さらに言えばその領域の啓発者としても,それぞれの専門領域で研鑽を積まれ,ADHD臨床の全体像を語るにふさわしい人材である.本書の企画を中外医学社から提案された際に迷わず両氏に声をかけさせていただいたのは,このような理由があってのことである.
3人目の私は,本書の編集を担当するという立場で,均衡のとれたADHDの臨床イメージを読者に伝えるために,クロストークが漫然とした雑談に終わらないように,議論の大まかな方向を企画し,機を見てそれを示す司会役を務めさせていただいた.その際に私が意識していたのは「注意欠如・多動症―ADHD― の診断・治療ガイドライン 第4版」が提案しているADHD臨床の原則について親しみやすい表現で語り合いたいということであった.この私の思いに飯田,宮島両氏の専門性と臨床経験に基づく自由で含蓄深い発言が交差し絡み合うことで,ガイドラインでは示しきれない知識の広がりと,ADHD臨床の繊細さが放つ魅力を二つながら表現しえたことは,当初の想定を超える成果であり,喜びでもある.
クロストークは準備のための回を含め計5回開催され,本書の第1章に関するクロストークが行われた2018年9月末から第4章のための最終回を行った2019年2月中旬まで,おおよそ4カ月間を要した.その後テープ起こしが行われ,発言者による各自の発言の取捨選択や推敲を経て,印刷に回せる水準に至ったのは2020年2月に入ってからであった.結果として最終回のクロストークからさらに1年を超える時間が経過していた.中外医学社の担当者,とりわけ企画部の佐渡眞歩氏と編集部の上村裕也氏には,クロストークの運営に始まり完成に至るまで3人の発言者を一貫して支え続け,手間のかかる編集作業の大半を担ってもらった.両氏への感謝は,発言者一同の率直かつ正直な思いである.
ところで,クロストーク実施時から本書が世に出るまでの期間に,ADHDの薬物療法を取り巻く環境に重大な変化が生じており,その点に触れておかないと読者に混乱を生じさせるおそれがある.第一の変化は,2019年12月に中枢刺激薬であるリスデキサンフェタミンメシル酸塩カプセル(商品名ビバンセ®カプセル)が販売開始となったことである.第二の変化はビバンセ®カプセルの販売開始に合わせコンサータ®錠とビバンセ®カプセルがADHD適正流通管理システムによって患者登録などの厳しい処方管理下に置かれることになったことである.特に第二の環境的な変化はADHD診療に重大な影響を与えるであろうことが予測されるが,それについてクロストークではほんのわずかしか取り上げることができなかった.その理由は,もっぱらクロストーク実施時と現在とのタイム・ラグにあることをご賢察いただければ幸いである.
2020年5月
齊藤 万比古
目次
第1章 ADHDの概念を問う
1 『ぼうぼうあたま』に描かれたADHD
2 ADHDの歴史
3 なぜADHDがこんなに注目されるのか
4 どうしたらゆとりのある社会になれるのか
5 現在わが国でADHDはどのように受け止められているのか
6 ADHD概念の来し方・行く末―ADHDは均質性の高い疾患か異種性の高い疾患か
7 ADHDとASDの併存について―過剰診断につながっていないか
8 自尊心(self-esteem)の向上について
9 ADHDの病因論と病態論
10 ADHDの症候,特に二次障害の出現過程
11 ADHDの子どものアタッチメント
12 生後の環境要因(特に児童虐待)はADHDとどう関連するか
13 ADHDを持つ子どもはどれくらいいるのか
参考文献
第2章 ADHDの診断・評価をめぐって
1 DSM-5による操作的診断によって診断を行うとはどういうことか
2 ADHDの主訴,どんな状態像や問題からADHDを疑うか
3 ADHDの成育歴の注目すべきポイント
4 ADHDの家族歴聴取で留意すべきポイント
5 子どもの年代によるADHD診断の配慮ないし留意すべきポイント
6 ADHDの併存症と鑑別すべき諸疾患(「鑑別か併存か」という問題を含む)
7 ADHD診断に必要な医学的検査はなにか
8 生物学的マーカーの可能性をめぐって
9 心理検査について
10 診断・評価の結果(見立て)を親,学校とどう共有するか
参考文献
第3章 ADHDの治療・支援をめぐって
1 治療・支援の現状について何を感じているか―ポジティブな点,ネガティブな点
2 治療・支援は何を目指して行うのか
3 治療・支援の流れ
4 心理社会的治療・支援について
5 薬物療法について
6 入院治療の位置づけ
7 教育,児童福祉,司法など他領域との連携について
参考文献
第4章 積み残しの課題とまとめ
参考文献
おわりに
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書籍情報
- ISBN:9784498229181
- ページ数:206頁
- 書籍発行日:2020年7月
- 電子版発売日:2020年7月17日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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