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外来で診る不明熱―Dr.Kの発熱カレンダーでよくわかる不明熱のミカタ

  • ページ数 : 255頁
  • 書籍発行日 : 2017年7月
  • 電子版発売日 : 2020年7月29日
3,850
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商品情報

内容

総合病院DPC化の今日,外来で不明熱を診ないのは発熱の全景をまだ見ていないと言える.
国立国際医療研究センター病院総合診療科では2014年以来,「不明熱外来」を開設し,原因不明の発熱患者を診察している.
多くの不明熱患者を診療して見えてきたことは?
“発熱パターン”と“発熱カレンダー”で不明熱を診よう!

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序文

はじめに


「外来で不明熱を診る」ということをしたことがあるだろうか?


最初に思い切って言おう.外来で不明熱を診ていない医師は,不明熱を富士山の景色に例えれば富士山全体をまだ見ていない.富士の静岡側,例えば東海道新幹線車内から見る,片側の裾野に宝永火口を備えて非対称となった,味があって,かつ王道の富士を眺めるにとどまり,山梨側からの赤富士の趣を知らないのである.

外来に「熱が下がらない」という患者がきたとき,「とにかくもう入院!」というジャッジを下す医師をみたことはあるだろう.私が知る限り,それは入院精査のできる大病院で多い傾向にある.また外来医師自身がある種の熱恐怖症であるためか,その熱はどんな原因が考えられるのか,入院によってどういうことをしようと考えているのか,などが入院時に不透明である傾向にもある.いや,当の担当医たちにとっては,やることは明確なのかもしれない.

「不明熱でしょ? 全部調べればいい」


軽症と思えないから,外来ではそんなゆっくり診ていられないから,という意見もあるだろう.それはそれでよいが,私は,今後外来における不明熱診療の1回1回の質を上げていく努力が必要であると考えている.もう少しだけ,「外来で診る不明熱」の診療をbrush up すべき理由について述べさせて欲しい.

1つ目は,総合病院における入院診療のDPC化である.以前は,大学病院などではある種のパターナリズムで「とにかく入院精査」というのがまかり通ったが,折しも当院のような元々国立病院であるような病院ですら採算性を問われるようになった.大学病院も然りであろう.病名ベースの包括診療というのは,「入院で不明熱精査」のコンセプトのまさに逆をいく.できれば外来で精査的なものはしっかり詰めておき,入院するしないは患者コンディション如何で決めていきたい.

2つ目は,患者側の要請がある.これは仕方のない趨勢だが,昨今医療者に対する,なかなか問題が解決しないことへの不満が強くなってきている.したがって,患者のほうこそ“見通しの見えない”入院精査に拒否的なことがあるのだ.「不明熱といえば入院」というドグマが通用しなくなってきている.包括診療ではあっても,入院中の検査のない日,熱型だけを見ている日々というものへのコスト意識が高い患者もいて,それ自体は多忙な臨床医を悩ませるが,医師側にあまりにコスト意識がないのもまた問題である.また,不明熱の患者には若年者も多く,学生だったり,子育てやお勤めがあったりして,納得のできる理由もなしにすぐの入院には同意していただけない場合も多い.「できることなら外来で」という患者側の要請に応えねばならない場面がある.


最後に,これは全体を読んでいただければわかることであるが,本書の主テーマの一つと大きく関わる点である.すなわち「元気な時期がある不明熱」というものがあるのだ.どうだろうか.これを聞いてハイハイと早速いくつかの例が挙がってしまうような読者はもうあまり本書を読む必要がないかもしれない.「?」とキョトンとしてしまうような方は,ぜひ本書を最後まで読んで欲しい.「熱で困っている」という臨床状況は,必ずしも3週間も4週間も毎日ベッドで熱にうなされているものとは限らない.1年前からの微熱でつらい,5年前から2か月に1回数日だけ熱が出て残りの日はまったく元気など,患者の悩み・相談内容は実に人それぞれである.ともかく,外来受診時に熱が出ているとは限らない,でも患者は困っているという状況が確かにあるのだ.このニーズを満たすには外来診療しかない.熱もなく,今つらくもないのに入院する理由もない.「外来で診る」必要がある.

不明熱というと,それだけでもうnegativeな印象を受けてしまわないだろうか.何というか,ちょっと逃げたくなるような.それではダメで,果敢に,最短時間で患者の苦痛を取らねばならない.「不明熱」となって本当に困っているのは,医師ではなく患者だということをいつも忘れずにいたい.


つらい不明熱診療を支えるのは好奇心だと思う.私は,多彩な表情と姿をみせる「富士」を,これからも少しでも多くコレクションしていきたい.「不明熱診療医」に必要な本来の心性は“収集家” なのかなと最近思うようになった.


2017年5月吉日

国立国際医療研究センター病院 総合診療科
國松淳和

目次

第1章 不明熱を外来で診る

 私の不明熱論

  古典的不明熱

  私の考える不明熱

  診断できない不明熱

 古典的不明熱の定義の抜け穴

  古典的不明熱の定義

  古典的不明熱の定義の抜け穴

 外来で診る不明熱患者の一般的傾向

  外来で診る不明熱の熱源候補の捉え方

  外来で診る不明熱患者の一般的傾向

   悪性疾患よりも良性疾患が多い傾向がある

   重症というよりむしろ元気である

   ウイルス性が多い

   あらゆる熱性疾患の初期症状である可能性

   熱の「相談」

   経過が年・月単位である

 入院させることを考慮するとき

  入院診療が望ましい状況

   入院とすべきもの

   入院としてもよいもの

第2章 「不明熱外来」を開いたらこうなった

 不明熱外来

  不明熱外来の開設

  不明熱外来開設2年の概況

  不明熱外来を受診した患者の疾患別内訳

   1 自己炎症性疾患

   2 機能性高体温症

   3 確定診断できなかった群

   4 非感染性炎症性疾患/自己免疫性疾患

   5 雑多なその他的疾患

  不明熱外来:まとめ

第3章 発熱パターン別「外来で診る不明熱」の診断マトリックス

 発熱パターンの類型化

  従来型の熱型についての考察

  外来の不明熱で把握すべき発熱パターン

   A ウイルス感染型

   B 高体温型

   C 完全な間欠期を伴う反復型

 マトリックスの全貌と注意点

  外来でつかうマトリックス

  マトリックス別の解説

   A ウイルス感染型

   B 高体温型

   C 完全な間欠期を伴う反復型

 反復するということ

第4章 「 発熱カレンダー」で分析しよう 外来で診るちょっと難しい不明熱

 熱が出たり下がったりする不明熱への対応

  周期性を見抜くために

 「発熱カレンダー」をつくろう

  発熱カレンダーをつける

  つくり方の実際

  発熱カレンダーの経過の把握以外の効能

第5章  外来で遭遇する不明熱 5 つの臨床的カテゴリー

 病態別・難易度別 Case-based Learning

  その1 ウイルス感染症 ウイルス感染症の正診率を上げ, 不明熱にしない

   Case 1 37歳男性 発熱と頸部リンパ節腫脹 (EBV 初感染に伴う伝染性単核球症)

   Case 2 37歳男性 発熱,下痢,皮疹と頸部リンパ節腫脹 (急性HIV感染症)

   Case 3 37歳男性10日間続く発熱と関節痛 (ヒトパルボウイルスB19感染症)

  まとめ

  その2  良性の全身性炎症性病態 疾患なのか? 反応なのか? 典型例の熟知が重要?広義の反応性病態

   Case 4 26歳女性 最初は発熱のみだった 〔結節性紅斑(特発性疑い)〕

   Case 5 20歳女性 全体像で考える 〔菊池病(組織球性壊死性リンパ節炎)〕

   Case 6 60歳女性 入院中に何が起こった? 〔アロプリノールによる薬剤熱(allopurinol hypersensitivity syndrome)〕

  まとめ

  その3 リウマチ性疾患/自己免疫性疾患の例外 非典型な経過でくる自己免疫性疾患について考える

   Case 7 84歳女性 抗菌薬が効かない高齢者 (顕微鏡学的多発血管炎)

   Case 8 60歳女性 治療が要ることはわかる〔Crohn 病(疑い)〕

   Case 9 20歳男性 単なる結節性紅斑と思ったら 〔MDS関連Behcet病(不完全型・腸管Behcet)〕

  まとめ

  その4 “ 発熱+炎症反応上昇”を繰り返すもの 経過の長い繰り返す発熱から自己炎症性疾患を見抜く

   Case 10 25歳女性 繰り返す発熱と腸炎・関節痛のエピソード 〔家族性地中海熱(非典型)〕

   Case 11 74歳女性 繰り返す発熱・左腰背部痛のエピソード (椎間関節偽痛風)

   Case 12 49歳男性 発熱と側胸部痛の反復 〔家族性地中海熱(おそらく典型)〕

  まとめ

  その5  炎症反応が陰性でmedical に消耗していない熱 発熱とは言い難く,機能性高体温症と呼ぶほかない困った熱

   Case 13 16歳女性 高熱をずっと反復している 〔機能性高体温症(小児・思春期型)〕

   Case 14 40歳女性 熱がずっと続いている 〔機能性高体温症(成人型,脳器質因あり)

   Case 15 45歳男性 熱・倦怠感がずっとある 〔機能性高体温症(成人型,身体因あり)〕

  まとめ

  番外編 コンサルトされる不明熱 炎症か腫瘍か,それが問題だ

   Case 16 62歳男性 「 それでも罠はなかった」(急性骨髄性白血病)

   Case 17 57歳男性 「 降格・交代しかない」(急性骨髄性白血病)

   Case 18 69歳男性 「 どれも甘いような気がする」 (MDS/MPN に伴う,無菌性膿瘍様の多発病変)

  まとめ

第6章 不明熱を治療する

 不明熱を診断するのではなく,「治療」する

 ステロイドで治療する病気

  一般診療における“ 臨床ステロイド学” のボトムライン

  ステロイドを使う疾患の処方例

   1 菊池病

   2 結節性紅斑

   3 亜急性甲状腺炎

   4 リウマチ性多発筋痛症

   5 PFAPA症候群

   6 TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)

 コルヒチンで治療する病気

  一般診療における“臨床コルヒチン学”のボトムライン

  コルヒチンを使う疾患の処方例

   1 痛風(急性発作と発作予防)

   2 家族性地中海熱(FMF)

   3 偽痛風

   4 Behcet病

   5 心膜炎

   6 PFAPA症候群

 機能性高体温症の治療

  総論と非薬物療法

   診断に際しての説明?治療に入る前に?

   治療に際しての心構え?「熱」以外のことも積極的な治療対象

   治療の軌道に乗せる?単発の治療では治らない

  薬物療法

   1 漢方治療

   2 モノアミン仮説に従った薬物療法

 薬物治療中,気をつけること

  お薬ファイル

   コルヒチン(コルヒチン(R))

   セルトラリン(ジェイゾロフト(R))

   エスシタロプラム(レクサプロ(R))

   デュロキセチン(サインバルタ(R))

   アマンタジン(シンメトレル(R))

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書籍情報

  • ISBN:9784521745398
  • ページ数:255頁
  • 書籍発行日:2017年7月
  • 電子版発売日:2020年7月29日
  • 判:A5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
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