統合失調症<講座 精神疾患の臨床2>

  • ページ数 : 344頁
  • 書籍発行日 : 2020年6月
  • 電子版発売日 : 2020年11月27日
16,500
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商品情報

内容

統合失調症の病因・病態,治療,支援などについて,現在までの到達点(わかっていること),解明すべき点(わかっていないこと),課題などの最新情報を盛り込み,最新の国際疾病分類ICD-11に準拠して,解説.精神科医のスペシャリストはもちろん,当事者,当事者を取り囲む支援者たちが,明日からの診療や研究,支援をよりよいものにしていくことを目指して執筆している.

あわせて読む → 「講座 精神疾患の臨床」シリーズ

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序文

統合失調症の理解・支援の理念構築や研究は,編者が駆け出しの医師であった四半世紀前には想定していなかった進歩がみられる.しかし一方で,研究の成果を臨床実践と普及に結びつけるところで行きつ戻りつしているように思われる.たとえば編者自身が関わってきた研究分野では,統合失調症の未治療期間と予後の関係や早期脳病態が明らかにされ,早期支援の有効性も明らかとなった.しかし,統合失調症の発症をat-risk mental state( ARMS)基準によって予測し,早期介入しようとする「絞り込み」モデルは,地域における思春期精神保健というより広大なニーズのなかで,修正を迫られている.また,脳機能,認知機能,動機づけ,社会機能の階層的関係性の研究が進み,これらの介入法の開発が盛んとなったが,実臨床における普及には程遠い状況にある.

本人中心の支援(person-centered care)の原則に基づき,症状や社会生活機能の改善といった医学的・他覚的なアウトカムだけでなく,主体的な生活と人生の回復過程を重視する,リカバリー概念が生まれてきた.また,当事者の主体的意思決定が重視されるようになり,当事者と専門職の関係性における勾配を変えていくコプロダクション(共同創造)の理念が叫ばれるようになった.さらに,児童思春期までのトラウマ体験が統合失調症のリスクファクターとなることや症状形成に影響を与える可能性,身体拘束などがトラウマの再体験となる可能性が示唆されるようになり,トラウマインフォームドケアの重要性が指摘されはじめた.ここ10年で,当事者や家族,ケアラーの立場の専門職,著名人による体験の公表,マンガや映像などのメディアを活用した分かりやすい解説や体験の発信,社会福祉法人やユーザーリサーチャーの先導による当事者研究の推進など,アンチスティグマ上,画期的な動きが起きている.一方で,これらの理念や知見はごく一部の支援者らに共有されるにとどまり,広く実践に生かされているとは到底言えないのが,日本の当事者や家族の率直な思いである.

本書は,主に精神科専門医,および専門医を目指す若い医師が,統合失調症をもつ人や家族の理解と支援について現在の到達点を知り,明日からの診療や研究を一歩ずつよりよいものにしていくことの一助を目指している.1章の執筆者ら(当事者や家族など)の声を一人ひとりの専門職がどう受けとめ,どう行動するか.統合失調症の理解と支援に関する国際的潮流をふまえつつ,それをいかに日本の医療や社会の現状に合わせて根づかせ,普及させるか.日本の精神科医療改革のカギはここにある.

コプロダクションの時代を意識して,統合失調症臨床・研究の専門職と当事者・家族が共同で創りあげるような編集を心がけた.10年前には当たり前ではなかったことが,今は当たり前になっている.それでもまだ,編者のような専門職が,当事者や家族に執筆を呼びかけたという,不完全なコプロダクションであり,実践と研究の民主化に向けた対話の第一歩に過ぎない.10年後に,編者が執筆した「はじめに」の「わかっていないこと」「できていないこと」が大幅に「わかったこと」「できたこと」に移行し,より人間的・民主的で新たな問いが生まれていることを願っている.


2020年6月

東京大学大学院医学系研究科精神医学分野
笠井清登

目次

1章 当事者・家族に学ぶ統合失調症の理解と支援

支援の原点 (島本禎子)

統合失調症になってもだいじょうぶな社会を願って (岡田久実子)

ピアサポート (佐々木理恵)

家族の視点 (糸川昌成)

当事者・家族が望む診療姿勢 (夏苅郁子)

2章 専門職に学ぶ統合失調症の理解と支援

統合失調症の基礎知識Update (澤井大和,金原明子,福田正人)

診断の歴史 (三嶋 亮,村井俊哉)

認知・行動特徴 (住吉チカ)

陰性症状再考 (兼子幸一)

早期精神症概念 (高橋 努,鈴木道雄)

統合失調症の早期段階の診療 (根本隆洋,水野雅文)

海外の診療ガイドライン (森田健太郎)

リカバリー支援のためのガイドライン (宇野晃人,熊倉陽介,福田正人)

統合失調症の薬物治療 (久住一郎)

認知行動療法 (松本和紀,濱家由美子)

生活臨床から主体価値支援へ (池淵恵美)

家族療法と家族支援 (市橋香代)

身体的健康 (近藤伸介)

病態解明に向けて (柳下 祥)

22q11.2欠失症候群-3障害の併存を統合的に理解し支援する (田宗秀隆,熊倉陽介,笠井清登)

3章 ライフステージに沿った統合失調症の理解と支援

統合失調症の経過―発症率・再発率・回復率・就労率を中心に (渡邉博幸)

学校精神保健 (金田 渉)

AYA世代の支援 (多田真理子)

女性当事者の支援-恋愛・結婚・子育てを通しての主体価値の成長 (池淵恵美)

就労支援 (管 心)

高齢発症のサイコーシス症候群 (古茶大樹)

4章 共に創る統合失調症の理解と支援に向けた対話

治療の課題と当事者要望を取り入れた研究の方向性 (大森哲郎)

パーソナルリカバリー概念 (金原明子)

精神保健サービスにおける患者・市民参画(patient and public involvement:PPI) (熊倉陽介)

当事者研究 (熊谷晋一郎)

アンチスティグマ (山口創生)

リカバリーカレッジ (宮本有紀,佐々木理恵)

地域移行 (田尾有樹子)

5章 Topics-変革に向けて

トラウマインフォームドケア (亀岡智美)

EPAガイダンスペーパー (森田健太郎)

ブレインバンク (國井泰人)

新規治療法開発 (新井 誠,宮下光弘)

精神科病院と私-アウトリーチや障がい者スポーツ,組織づくりを通しての雑文 (井上秀之)

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書籍情報

  • ISBN:9784521748221
  • ページ数:344頁
  • 書籍発行日:2020年6月
  • 電子版発売日:2020年11月27日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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