特集

スポーツ現場におけるアイシングの活用を再考する

特集編集：山本利春（国際武道大学教授）

現在，冷却（アイシング）はスポーツ現場のさまざまな場面で活用されている．本邦では1980年頃より応急処置としてのアイシングがRICE処置として紹介され，さらに，1990年頃からコンディショニングとしてアイシングを活用する場合における知見や方法についても紹介され，障害予防を目的とした運動後のアイシングも広く活用されるようになった．近年ではパフォーマンス向上を目的とした戦略的なリカバリーの一手段として，競技（運動）間や運動中に早期疲労回復をねらいとしたアイシングが特に暑熱対策を中心に各競技の特性に応じて実施されている．夏期に開催予定のオリンピック・パラリンピックの暑熱下対策としても，コンディショニングおよび熱中症対応は重要な課題である．一方でアイシングの効果を疑問視する研究結果や現場の指導者の意見もあり，特に海外の文献的情報をもとにアイシングを否定する意見がWEB情報で氾濫して混乱を招いている．その大きな原因は，応急処置としてのアイシングとコンディショニングとしてのアイシングを混同していることである．応急処置としてのアイシングとコンディショニングとしてのアイシングはねらいとする効果や方法も異なる．すなわち，目的に応じてアイシングの方法を変えるべきであるといえる．例えば，筋力トレーニングでは筋肥大，筋持久力向上，最大筋力向上など，目的に応じてトレーニング変数は変わる．アイシングにおいても同じように考えると，応急処置を目的とした場合とパフォーマンス向上や傷害予防などのコンディショニングを目的としたアイシングでは時間，温度，タイミングなどの最適条件は異なり，目的や環境条件に応じて変えるべきであろう．応急処置，リカバリー，メンテナンス，あるいは予防など，どのような目的のためにアイシングのどのような効果を利用するのかを明確にすべきであり，トレーニング変数と同様に目的に応じてアイシング変数を考慮することで，アイシングの効果的な活用方法が明確になってくると思われる．

今回の特集ではスポーツ現場におけるアイシングの活用を再考し，アイシングに関連した最新の情報や研究結果などを目的や状況，競技特性などを踏まえて整理し，より効果的な活用方法について考えるための情報提供となるような内容について，各分野の専門家にご執筆いただいた．どの稿もこれまでにない新たな切り口でアイシングにかかわる有用な内容を示していただいている．この場をお借りして，ご多忙のなか，ご執筆の労をお取りいただいた先生方に深謝の意を表したい．

今回の特集がスポーツを行うさまざまな実践者の医科学サポートの一助になれば幸いである．