特集 スポーツと感染症
－今求められる対策と今後の課題－

特集編集：島田和典（順天堂大学客員教授）

人類と感染症との闘いは，紀元前から今日まで幾度となく繰り返されてきた．歴史上の探検や交易，民族や地域間の紛争，植民による民族の大移動の裏には，外来者がもたらす感染症による多くの犠牲者が存在した．人類が根絶した唯一の感染症である天然痘は，15世紀末のコロンブスによる新大陸発見と植民地化により，アメリカ大陸やカリブ海地域の先住民族に壊滅的な影響を与え，その後，半世紀で人口は8分の1に減少した．19世紀後半から感染症の原因や対処法が次第に明らかとなり，感染症による犠牲者は著しく減少した．しかし，1970年以降，後天性免疫不全症候群（AIDS）やプリオン病，高病原性鳥インフルエンザなどの新興感染症や，結核やマラリアなどの再興感染症が，発展途上国のみならず先進国においても大きな問題となっている．

近代スポーツは，1896年のクーベルタンによる近代オリンピックの復活後から発展を遂げた．2013年9月7日，ブエノスアイレスで開催された第125次国際オリンピック委員会総会にて，2020年のオリンピック・パラリンピック競技大会の開催都市が東京に決定した．しかし，その後の新型コロナウイルス感染症（COVID-19）の世界的流行のため史上初めて1年延期となった．2019年末，中国武漢市で発生したCOVID-19は，人々の移動により瞬く間に全世界に拡散した．2021年7月1日時点で，感染者数は1億8千万人，死亡者数397万人に上り，その勢いは未だ留まるところを知らない．

今回の特集では，スポーツと感染症について，今求められる対策と今後の課題について，最新の知見も含めそれぞれの領域におけるエキスパートの先生方にご執筆いただいた．日々さまざまな対応でご多用にもかかわらずご快諾いただいたことに心より感謝を申し上げるとともに，玉稿を拝読し，紙面から伝わるスポーツや感染症に対する高邁な精神に感銘を受けた次第である．

近年の人類史上未曾有のパンデミックと化したCOVID-19であるが，今求められる重要なポイントは，正しい情報を収集し正しい理解を深め，日々刻々と変化する感染状況を正確に見極め，スピード感を持って対応することではないだろうか．人類が初めて遭遇する経験である．ときには斬新な挑戦も必要である．スポーツを実践する際も同様であろう．スポーツに対する正しい知識や理解，瞬時の判断，ときには常識にとらわれない発想も必要である．COVID-19が我々の生活感や価値観を変化させた現在，スポーツにおいても感染症においても志の高いたおやかな対応が求められている．本特集が，読者の皆様の一助になれば幸いである．