長期休養に伴うスポーツ活動の注意事項

スポーツ活動において，筋肉や骨などの骨格を形成する部位の強化や持久力に影響を与える心肺機能を向上させることは，上達するうえで重要です．しかし，その過程で怪我や障害により離脱すると，それらの機能が低下することは避けられず，選手生命に大きな影響を及ぼすこともあるため，いかにその低下を最小限に抑えるかが課題です．本特集は，最初に，長期休養による身体の構成体の変化を取り上げ，それらを理解することにより，長期休養中の過ごし方を考える手立てになってくれることを期待し，企画しました．筋肉・骨・心肺機能・精神面および体組成といった，スポーツ活動を行ううえで重要な構成体について，各分野の専門の先生に長期休養が及ぼす変化と，それらの機能低下に対する予防方法を解説していただいています．

一方で，ひとたび離脱しても，再度復帰することを目指して，スポーツ選手たちは治療期間を過ごします．離脱中や休養中は，どうしてもスポーツ活動継続へのモチベーションが低下し，ネガティブ思考が先行しがちです．スポーツ活動への復帰プロセスをしっかりと提示し，プレーができない期間を有効に利用することで，モチベーションの維持が可能となります．休養中は，日頃のトレーニングではできなかったメニューが組めるため，有意義に過ごせばパフォーマンス向上につなげることが可能です．さらに長期休養後の復帰直後は，怪我や障害が起こる可能性も高いため，各部位における外傷・障害を理解し，休養中にそれらに対する予防も考える必要があります．したがって，この期間には多角的なトレーニングプログラムの作成を行い，復帰に向けて取り組んでいくことが，怪我や障害を乗り越える最善策といえます．

2020 年春よりCOVID-19 が世界的に蔓延したことにより，怪我や障害のためではなく，スポーツ活動の長期間中断を余儀なくさせられました．学校への登校やクラブ活動が禁止となり，スポーツ選手にとっては大変厳しい時期を過ごされたことと思います．そのなかで，感染対策を行ってスポーツ活動を再開させていく取り組みがなされ，徐々にプロスポーツから学校スポーツまで行われるようになりましたが，ご尽力なさった2 名の先生に，感染対策とスポーツ活動における取り組みやルールを決めるうえでの苦労をご解説いただきました．プロスポーツにおける取り組みが中心となっていますが，学校スポーツにも有用な情報となりますので，参考にしていただければ幸いです．

2021 年は，1 年延期された東京2020 オリンピック・パラリンピックが開催され，日本はたくさんの金メダルを獲得し，盛り上がりを見せました．出場した選手は，運動制限下でのトレーニングを強いられたなかでも，上手に自己管理をしたことにより好成績を残せたものと思います．今後も感染対策をしながらのスポーツ大会が開催されることが想定されますが，本特集が，いかに長期離脱をせず，最高のパフォーマンスで試合に臨めるか，を考える一助になることを願っています．

特集編集：前　達雄（大阪大学特任教授）