特集：発育期遺残障害－遺残させない，見逃さないー

発育期の多くのスポーツ障害では，成長軟骨板を巻き込んだ障害を引き起こします．成長軟骨が障害されると，生涯にわたり脚長不等や変形などを遺残することになります．発育期のアスリートの診察機会が少なく，成人アスリートを中心に診療しているドクターは，この発育期に生じた遺残変形が成人以降に痛みの原因となっているかどうか判断に悩むことがあります．発症初期をみていないからです．

例えば脊椎障害でいえば，分離症・分離すべり症あるいは発育期骨端輪骨折です．これらはいずれも発育期に生じます．ジュニアを中心にみているスポーツドクターにとって，これら疾患の診断と治療は，日常的に行われており，問題となることはありません．一方，大学生や成人アスリートをみていると，これらの遺残変形が気になります．この遺残変形がpaingenerator になっているのか？ あるいは，痛みとは関係ないものか？ と悩むケースが多いようです．実際，このすべりは進行するのか？ あるいは，脊柱管内に骨片があるが，スポーツは大丈夫か？ などの問い合わせを受けます．

スポーツドクターの理想をいえば，ジュニアからシニアまでのすべてのアスリートをみられることが求められますが，現実はそういうわけにはいきません．そこで今回，ジュニアの障害に造詣の深いドクターには，成人期に遺残させない診断と治療法について，また，成人以降のアスリートサポートに詳しいドクターには，遺残変形を見逃さない診断方法について解説していただきました．総論では，なぜ発育期特有の障害があるのか？ について四肢と脊椎に分けて解説していただきました．また実際の現場での診断ピットフォールにも言及していただいています．各論としては部位別に，発育期障害を遺残させない，そして成人期に見つかる遺残障害を見逃さない方策について，問題点を明らかにしていただきました．このような観点から一つの障害を見つめた特集号はこれまで見当たりません．

東京オリンピック・パラリンピックが終わり，アスリートは次のステップに進んでいます．未来のオリンピアン育成のために，すべてのスポーツドクターには，ジュニア世代では障害を成人期に遺残させないように治療に臨み，さらに，不幸にも遺残した場合でも成人期以降では的確な処置が取れることを期待しております．本特集号がそのための一助となれば幸甚に存じます．国内最前線を走るスポーツドクターによる発育期遺残障害の新しい「ミカタ」，ご堪能ください．

特集編集：西良浩一（徳島大学教授）