スポーツ選手の半月板損傷に対する治療戦略

スポーツ活動では，急な発進や方向転換，急停止など，日常生活とは異なった動作をするため，バランスを崩したり，少しの判断ミスをしたりすることが大きな怪我となります．さらに，練習量や運動量が多くなると，疲労の蓄積や筋緊張の亢進などにより，怪我をしやすい状態にもなります．なかでも，膝関節における半月板損傷は比較的頻度の高い外傷・障害で，損傷形態によっては手術が必要です．半月板損傷は，靱帯損傷に合併するものと単独損傷とがあり，膝関節の外傷・障害を訴える選手を診る際には，疼痛の度合いや部位，受傷機転をしっかりと聴取し，半月板損傷の有無および損傷形態の予測ができることが望ましいと考えます．

半月板損傷の治療には，保存療法と手術療法（切除，修復，置換，移植など）があり，愁訴，半月板の損傷形態や受傷機転，症状出現から期間，社会的立場，復帰までの時間などから総合的に判断し，治療方針を決めます．手術を選択した場合，切除術にて早期復帰は可能ですが，長期的には変形性膝関節症性変化を生じることが報告されており，最近では半月板温存が提唱されています．しかし，縫合術はスポーツ復帰までに時間を要することや再損傷の可能性などがあり，個々の社会的立場や状況にあった治療が必要となります．一方で，保存療法でも症状が軽快し，スポーツ復帰できることから，正しい知識を持って治療方針を決定することが望まれます．

靱帯再建術と同時に行う半月板縫合術は良好な治療成績が期待できますが，半月板単独損傷に対する縫合術は，縫合部への血流の有無が成績に大きく影響を与えます．また，半月板は大腿骨と脛骨の間に存在して，荷重伝達・分散機能を有することから，縫合術後のリハビリテーションには慎重になる必要もあります．そのため，半月板の解剖を理解し，半月板内での線維走行や血流に関する知識は大変重要であり，さらには生体力学的な知識も治療からスポーツ復帰までの期間において重要です．また，半月板損傷予防や術後のリハビリテーションに関する知識は，スポーツ選手の外傷・障害の治療全般にも有用であり，すべての運動の基本となると考え，本特集内項目より参考になる運動療法を取り入れていただければ幸いです．

スポーツ活動により，半月板損傷を含む膝関節の外傷・障害を診る際には，いかに迅速かつ適切に対応し，早期にスポーツ復帰させるか，が重要です．選手の希望は，症状の改善と同時に，早期スポーツ復帰です．本特集が，無駄に時間だけを要する治療を減らし，長期にわたってスポーツ活動を楽しめるような治療を行ううえでの一助となることを願います．

特集編集：前　達雄（大阪大学特任教授）