新WHO胸部腫瘍分類におけるupdate

骨軟部腫瘍，婦人科腫瘍に続いて，胸部腫瘍のWHO 分類が2021 年4 月に改訂された．今回はIARC の編集者がDr. Ian A Cree に変わり，これまでのWHO Blue Book とは異なった編集方針で改訂されている．新しいバージョンのBlue Book はオンライン（https : //tumourclassification.iarc.who.int/）で全てアクセス可能（有料）であるとともに，通常の病理画像とともに集められたデジタルスライドを参照することができるようになっている．胸部腫瘍のupdate では，新型コロナウイルスの感染の広がりの真っただ中で執り行われ，編集会議は全てWeb 会議で，IARC の職員もテレワークにて校正作業が行われるなどの多くの障害があり，大幅にその刊行が遅延した．今回のupdate は，ほぼ5 年後の改訂ということもあり，今回の改訂では骨軟部・婦人科と同じく，フレームワークを変えるような大きな変革はなかった．しかしながら，細部での変更などが加えられているほか，新しく取り入れられた疾患もあり，知識の更新が必要となった部分も多い．

そこで，この特集では，それらupdate されたところを中心に，主要疾患について診断や疾患の理解に必要な情報のupdate を行うとともに，新たに加えられた疾患についてより詳細に解説をお願いした．主要疾患では疾患の定義と，新たに加えられた項目である“Essential and desirable diagnostic criteria”を中心に疾患の診断ポイント，鑑別疾患を記述いただいた．また，免疫染色や遺伝子解析などでは，5 年間に得られた新たな情報が加わるとともに，病理診断医が知っておかなければならない臨床的な背景も変化し，関連する情報についても必要に応じて説明いただいた．新たに加えられた疾患については，その背景やこれまではどのような疾患に分類されていたか，新たに加えられた理由，臨床的なインパクトについて解説いただいた．

なお，胸部に発生する骨軟部腫瘍および造血器腫瘍においても改訂がなされているが，主たる臓器での変更に準じた形になっており，詳細についてはそれぞれの臓器で確認されたい．肺癌はありふれた疾患でありながら，専門的に用いられる用語は他の腫瘍とは異なる（腺房/acinar など）こともあり，この特集を通じて知識のupdate と毎日の診断に役立てていただけると我々の意図が達せられることになる．

谷田部 恭 ［国立がん研究センター中央病院 病理診断科］
野口 雅之 ［筑波大学医学医療系 診断病理学］