症例から学ぶ がん患者の感染症入門

  • ページ数 : 236頁
  • 書籍発行日 : 2021年4月
  • 電子版発売日 : 2021年3月26日
4,840
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商品情報

内容

がん患者さんの発熱と聞くとため息が出てしまう.そんな先生も多いのではないでしょうか?(本書に登場するDr.古谷もそうだったとか.)そんな悩みは本書で解決! 診療機会の多い固形腫瘍にフォーカスし,基本事項を踏まえつつ,複雑な問題をロジカルかつ華麗に解説します.Dr.伊東×Dr.古谷のコントさながらのやり取りを楽しく読むだけで,がん患者の感染症が得意になること間違いなしです.

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序文

巻頭言

がん研究振興財団によるがんの統計*によれば,2019年がん罹患数推計値は,約101万7千200例である.国民の2人に1人は生涯のうちにがんに罹患するとされ,日常診療の中でがん患者の発熱診療を避けては通れない.

一方現場の声を聴くとがん患者の感染症を苦手とする研修医は多い.がん患者の発熱は重症化しやすそう,医療曝露が多いから耐性菌が多そうなどの声を聴く.がん患者の発熱は常にカルバペネムというプラクティスもたまに目にする.広域抗菌薬使用が増えれば耐性菌も増加する.がん患者の診療においても抗菌薬適正使用が求められる時代である.

感染症のロジックは?患者背景,?どの臓器の感染症か,?原因菌推定,?抗菌薬選択,?適切な経過観察であり,これはがん患者においても共通する.がん患者においても「患者背景」を整理することが重要であるが,様々な免疫不全(抗がん剤,ステロイド),治療手段の多様化(免疫チェックポイント阻害剤,手術,放射線治療など)など様々な要因を考えなければならない.固形腫瘍の場合は高齢者が多く,薬剤熱や結晶性関節炎など非感染性の鑑別も必要とされる.

本書は感染症のロジックに基づき,複雑ながん患者の背景を整理するポイントがコンパクトにまとまっている.また,がんと間違えられるような感染症の鑑別,ワクチンなどかゆいところにも手が届く一冊である.軽快な対話を楽しみながら目を通すだけで,明日からのがん患者の感染症診療ががらりと変わることを保証する.


2021年2月

静岡県立静岡がんセンター感染症内科
倉井華子



はじめに

本書を手にとってくださったみなさん,はじめまして.愛知県がんセンター病院感染症内科の伊東直哉と申します.本書“症例から学ぶがん患者の感染症入門”は,中外医学社のJ-COSMOという雑誌で連載していた“Dr.伊東のがん患者の感染症ただいま診断中!”に大幅加筆し,まとめたものです.がん患者さんをみる機会がある初期研修医・後期研修医の先生や,院内の抗菌薬適正使用支援チームに関わる職種の方を対象に,とっつきにくいがん患者さんの感染症を,短期間で基礎をマスターできるように作成しました.

多くの臨床医にとって,血液腫瘍に比べて固形腫瘍の方が実臨床で圧倒的に見る機会が多いため,本書は主に固形腫瘍にフォーカスしました.実際に,私が静岡がんセンターに勤務していた時のデータでも,感染症内科にコンサルテーションがあった患者さんの約9割が固形腫瘍でした.もちろん施設によって状況は異なると思いますが,がんセンターの感染症内科医ですら,圧倒的に固形腫瘍を見る機会が多いのです(もちろん施設的な偏りはあると思います).ですから,初学者にとっては,まず遭遇する可能性が高いことから勉強するほうが効率が良いのではないかと思います.

本書は,私と総合診療医の古谷君との対話形式で進んでいきます.連載当時は,古谷のできが良すぎて感情移入できないとご意見をいただいていたので,本書では古谷をコミカルなボケ担当に変更しました(本当の彼は優秀な医師です,ちゃんとフォロー).本書がみなさまの診療に少しでも役に立てば幸いです.


2020年12月

伊東直哉



古谷からの挨拶

「◯◯がんの患者さんが発熱しました!」と看護師さんからcallがあったとき,みなさんはどのように思うでしょうか? 初期研修医のころの私はため息しかでませんでした.その理由としては抗がん剤やステロイドが使用されていたり,術後でドレーンが複数本挿入されていたりと患者背景が複雑であり,どう診療していいかよくわからなかったからだと思います.

しかしその苦手意識はひとりの医師により払拭されます.そう,伊東直哉先生です!

伊東先生は病歴・身体所見に加え,本書に書かれているがん患者さんを診察するうえでの基本事項を大切にし,華麗に診療を行っておりました.そんな姿に感銘をうけ感染症に興味を持つようになりました.そしてがん患者さんを診察するうえでの基本事項を学ぶことで,複雑にみえていたがん患者さんも普段の感染症診療同様にロジカルに考えることができるようになりました(まだまだ修行中の身ではありますが).その基本事項をまとめたものが本書になります!

がん患者さんを担当する機会は多いですが,がん患者さんの感染症をじっくり勉強する機会はあまりないため,臨床現場では私のように困っている医師が多いと思います.そのような方にぜひ本書が診療の一助となり,感染症で困っている患者さんたちに還元できればうれしいです.

※本文中のボケはすべて伊東先生作であり,実際の古谷とは関係ございません.


2020年12月

伊豆赤十字病院 内科
古谷賢人

目次

CHAPTER  1  がん患者の感染症総論

1 はじめに

2 救急を受診するがん患者の症状と原因

3 日本における固形腫瘍と血液悪性腫瘍の疫学

4 固形腫瘍患者の感染症

5 固形腫瘍患者における感染症のロジック

6 おわりに

Memo  カテーテル関連血流感染症の診断

Mini Lecture  リンパ囊胞感染

1 リンパ囊胞とは

2 リンパ囊胞感染

3 リンパ囊胞感染の原因微生物

4 リンパ囊胞感染の治療

Mini Lecture  免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策

CHAPTER  2  発熱性好中球減少症のマネージメント

1 はじめに

2 発熱性好中球減少症とは

3 発熱性好中球減少症の疫学・リスク因子

4 発熱性好中球減少症の臨床的特徴

5 発熱性好中球減少症の原因と微生物

6 発熱性好中球減少症のリスク分類

7 発熱性好中球減少症の初期対応

8 発熱性好中球減少症の治療期間

9 FNで広域抗菌薬開始後原因不明の発熱が3〜4日続く時

10 低リスク症例の外来治療

Mini Lecture  D-index

Mini Lecture  好中球減少時のG-CSF投与

1 G-CSFの一次的予防投与

2 G-CSFの二次的予防投与

3 G-CSFの治療的投与

CHAPTER  3  液性免疫不全を認識せよ!

1 はじめに

2 液性免疫不全とは

3 液性免疫不全に関連する微生物

4 脾機能の評価法

5 脾臓摘出後重症感染症とは

6 OPSIの予防のために

7 患者教育について

Colum  血液培養の偽陽性

CHAPTER  4  細胞性免疫不全を考える

1 はじめに

2 症例検討1

3 細胞性免疫不全とは

4 細胞性免疫不全に関連する微生物

5 細胞性免疫不全とびまん性すりガラス陰影

6 ニューモシスチス肺炎を疑った際の検査

7 症例検討1の経過

8 症例検討2

9 多発性骨髄腫とその治療薬

10 症例検討2のつづき

11 症例検討3

Mini Lecture  播種性帯状疱疹

Mini Lecture  ニューモシスチス肺炎

1 ニューモシスチス肺炎とは

2 診断のポイント

3 鑑別診断

Mini Lecture  サイトメガロウイルス肺炎

1 サイトメガロウイルス肺炎の特徴

2 サイトメガロウイルス肺炎の診断

3 サイトメガロウイルス肺炎の治療

Mini Lecture  粟粒結核

1 粟粒結核とは?

2 疫学

3 基礎疾患・リスク因子

4 臨床症状

5 診断アプローチ

6 検査所見

7 治療

CHAPTER  5  バリア障害

1 はじめに

2 皮膚のバリア障害

3 粘膜のバリア障害

4 おわりに

Mini Lecture  中心静脈カテーテル関連血流感染症の治療

1 治療のポイント

2 至適治療期間

3 治療に伴う問題点? 黄色ブドウ球菌が原因の場合の治療期間

4 治療に伴う問題点? 黄色ブドウ球菌が原因の場合の内服変更

CHAPTER  6  構造異常

1 管腔の閉塞による感染症

2 瘻孔形成による感染症

3 手術による解剖学的変化に伴う感染症

4 おわりに

Mini Lecture  リンパ浮腫における蜂窩織炎

1 がん治療とリンパ浮腫

2 リンパ浮腫における蜂窩織炎

3 リンパ浮腫における蜂窩織炎の原因微生物

4 リンパ浮腫における蜂窩織炎の治療

5 抗菌薬の予防内服について

CHAPTER  7  がん患者とワクチン

1 はじめに

2 がん患者とインフルエンザワクチン

3 がん患者のインフルエンザワクチンの有効性

4 インフルエンザワクチン接種の安全性

5 インフルエンザワクチンの接種時期

6 外科手術前のインフルエンザワクチンの接種時期

7 肺炎球菌ワクチン

CHAPTER  8  がんを模倣する感染症

1 はじめに

2 肺がん疑いで紹介受診する患者の最終診断

3 結核の疑いがあれば空気感染対策を行う

4 おわりに

Colum  寄生虫とがん

Mini Lecture  がんを示唆する微生物

1 Streptococcus gallolyticus subspecies gallolyticus

2 Aeromonas caviae

3 Clostridium septicum

CHAPTER  9  手術と感染症

1 はじめに

2 術後の発熱とは

3 術後患者の発熱の原因と診断アプローチ

4 時期別にみた発熱のアプローチ

5 おわりに

Mini Lecture  腹腔内感染症の治療

1 はじめに

2 国内・国外のガイドライン

3 どういった微生物をカバーするのか

4 1 軽症〜中等症の市中感染症で想定すべき微生物と経験的治療

4 2 重症市中感染症あるいは医療関連感染症で想定すべき微生物と経験的治療

4 3 腸球菌,カンジダ,MRSAの治療オプション

5 治療期間はどうするのか

CHAPTER  10  腫瘍熱

1 はじめに

2 腫瘍熱の疫学

3 腫瘍熱の定義

4 腫瘍熱のメカニズム

5 腫瘍熱におけるバイオマーカー

6 腫瘍熱診断のアルゴリズム

7 ナプロキセンテスト

8 おわりに

Mini Lecture  がん患者と薬剤熱

1 はじめに

2 薬剤熱の定義

3 薬剤熱の発症機序

4 薬剤熱の症状

5 がん患者において薬剤熱を起こしやすい薬剤は?

CHAPTER  11  新規がん薬物療法と感染症

1 はじめに

2 免疫関連有害事象とは?

3 免疫チェックポイント阻害薬使用中の下痢

4 VEGF阻害薬/ VEGF受容体阻害薬

Colum  感染症治療中の化学療法

Mini Lecture  膀胱内BCG注入療法後のBCG感染症

1 BCGと膀胱がんに対する膀胱内BCG注入療法

2 膀胱内BCG注入療法の合併症

3 いつBCG感染症を疑うか

4 BCG感染症の診断アプローチ

5 BCG感染症の治療法

CHAPTER  12  放射線治療と感染症

1 はじめに

2 放射線による急性反応と晩期反応

3 化学放射線療法による急性細菌性耳下腺炎

4 放射線治療による嚥下機能障害

5 放射線治療による遅発性縫合不全

Mini Lecture  誤嚥性肺臓炎と誤嚥性肺炎

1 誤嚥性肺臓炎と誤嚥性肺炎は違う

2 誤嚥性肺炎の起因菌として嫌気性菌が検出される割合は低い

CHAPTER  13  終末期のがん患者と感染症

1 はじめに

2 終末期がん患者の特徴

3 終末期がん患者の感染症部位・微生物・抗菌薬治療

4 終末期がん患者の感染症診断

5 終末期がん患者に抗菌薬は使用すべきか

6 終末期がん患者における抗菌薬使用の決定

7 おわりに


あとがき


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書籍情報

  • ISBN:9784498021365
  • ページ数:236頁
  • 書籍発行日:2021年4月
  • 電子版発売日:2021年3月26日
  • 判:A5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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