特集　スポーツ障害に対する運動療法

東京オリンピックの開催が決定し，スポーツに対する国民の関心は，日に日に高まっています．その一方で，スポーツ障害に対する患者のニードは高いものがあり，「使いすぎだから休んでいなさい」だけでは，全く納得してくれない現状があるのが事実です．スポーツ障害に関わる医療スタッフには，「障害発生のメカニズム」「回復までの適切なリハビリテーション」「再発予防」に関して，患者教育も踏まえながら対応する能力が求められます．スポーツ障害に対する治療では，局所病態に対する適切な対応とともに，運動連鎖をはじめとする局所以外の関節機能障害が障害発生に及ぼす影響を判断する力が求められます．「木を見て森を見ず」ではなく「木も見て森も見る」ことが大切です．

田島先生には，スポーツ障害の発症メカニズムについて，総論的に解説していただきました．松田先生には，女性アスリートにおいて知っておくべき，女性特有の問題について指摘していただきました．「月経」と「貧血」との微妙な関係について，すべての関係者が知っておくべき内容と考えます．スポーツ障害の治療には整形外科医による適切な診断が不可欠です．上肢スポーツ障害の診断は土屋先生に，下肢スポーツ障害の診断は髙橋先生にお願いしました．お二人の先生に共通したキーワードは，エコー画像を駆使した適切な診断であり，スポーツドクターにとっての「必須アイテム」と結論づけておられます．腰部・体幹のスポーツ障害の診断については，大久保先生に解説していただきました．腰痛の85％が非特異的腰痛といわれる中で，病態別診断手順を用いた機能的検査を通して，その病態分類を行うことの重要性が述べられています．

各関節に関する各論は，その関節障害に精通した理学療法士にお願いしました．肩関節については，各投球相において必要な機能改善を中心に石川先生に解説していただきました．肘関節障害については，超音波を駆使した局所機能評価と運動療法を中心に，福吉先生に解説していただきました．腰部・体幹の障害は赤羽根先生にお願いし，各種腰痛原因疾患に対する具体的な運動療法についてまとめていただきました．建内先生には股関節機能障害を，可動性，安定性，骨盤・腰椎との関連性から考察することの必要性をご提示いただきました．三谷先生には，膝スポーツ障害の運動療法を，局所機能改善と姿勢・運動の誘導の両面から，下肢・骨盤・体幹の動的アライメントの是正を図ることの重要性を述べていただきました．中宿先生には下腿のスポーツ障害，園部先生には足部のスポーツ障害についてお願いしました．局所機能改善に加えて，足底挿板の重要性について解説されています．最後に鵜飼先生には，スポーツ障害対策の必須アイテムであるテーピングについて解説していただきました．関節の固定以外に病態評価のためのテーピングなど，その使用方法に一石を投じる興味深い内容です．

お忙しい中，執筆していただいた先生方には誌面を借りて感謝申し上げます．本特集がスポーツ障害で悩む選手のために，少しでもお役に立てば幸いです．

特集編集：林　典雄（中部学院大学看護リハビリテーション学部理学療法学科教授）