特集 小児スポーツ障害の治療と予防

特集編集：水田博志
（熊本大学大学院生命科学研究部整形外科学分野教授）

子どもの健全な心身の成長・発達に運動が大切であることはいうまでもない．しかしながら，今日では生活の利便性の向上や社会・生活環境などの変化により運動習慣のない子どもが増加し，心身の発育に深刻な影響をもたらしてきている一方で，過熱したスポーツ環境の中で障害を引き起こす子どもも後を絶たない．成長途上にある小児の運動器の力学的特性は成人と大きく異なり，その解剖学的特徴により関節内あるいは筋・腱付着部での骨・軟骨の障害が発生しやすい．これらの障害は初期に適切な対応が行われれば元通りに回復するものの，診断が遅れたり対応を誤るとさまざまな後遺障害を残し，スポーツ活動の継続は困難となる．その結果，子どもの心に深刻な影響を与えたり，さらには日常生活に支障をきたす場合もある．

本特集の前半では，小児スポーツ障害に関する総論として，まず鳥居俊先生に小・中学生の運動器の特性を解説いただき，この特性に起因するスポーツ障害の特徴について述べていただいた．次いで内尾祐司先生に島根県下での運動器検診の結果に基づいて児童・生徒のスポーツ障害の実態を示していただいた．また内田良平先生には成長期スポーツ障害の発生要因を内的因子と外的因子に分けて解説いただき，比較的エビデンスの高い要因について予防法を述べていただいた．さらに中嶋耕平先生には小児スポーツにおけるメディカルサポート体制について練習環境，遠征や合宿帯同，競技会運営に分けてまとめていただいた．

後半では，それぞれの部位で代表的な小児スポーツ障害の診断や治療，予防などについて執筆いただいた．河合伸昭先生にはリトルリーグショルダーについて解説いただき，肘については内側・後方障害と上腕骨小頭離断性骨軟骨炎に分け，山崎哲也先生と松浦哲也先生にそれぞれまとめていただいた．竹林庸雄先生には小児の代表的な障害である腰椎分離症と終板障害について，田島卓也先生には骨盤・股関節の障害についてまとめていただいた．膝では平野篤先生に膝伸展機構障害を，吉矢晋一先生に代表的な関節内障害である離断性骨軟骨炎と円板状半月板障害について執筆いただいた．黒川紘章先生には足関節・足部の障害を解説いただき，最後に小児の疲労骨折について経験例を交えて津田英一先生にまとめていただいた．

本特集で執筆いただいた先生方はいずれも各分野で造詣の深い先生方であり，小児スポーツ障害に関して大変充実した内容になっている．ご多忙の中，執筆いただいた先生方に深謝するとともに，本特集が小児スポーツ障害の予防や早期回復に貢献し，未来を担う子ども達の健全な成長・発達に繫がることを祈念している．