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CTGエボリューション ー胎児生理学からコンピュータ判読までー

  • ページ数 : 235頁
  • 書籍発行日 : 2021年7月
  • 電子版発売日 : 2021年7月6日
8,580
(税込)
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商品情報

内容

産科医療補償制度に関わるすべての医療関係者,必読

胎児心拍数陣痛図(CTG)は簡便な検査法として広く普及しており,胎児機能が健常を保っていることを示すのに有効である一方,その所見から障害の有無を確定診断するには不向きである.本書ではそのようなCTGの特性を深く理解し臨床の現場で適切に活用するため,胎盤循環や胎児生理学といったCTGの周辺知識,胎児機能検査法のなかでの位置づけや様々な症例における所見の解釈法など,CTGに関する情報を幅広く網羅し解説した.

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序文


胎児心拍数陣痛図(CTG)は,わが国のほぼ全ての分娩に使用されており,最も使用頻度の高い周産期の検査です.周産期学の黎明期に発明され,60 年以上に渡る歴史を持ちます.聴診法とのランダム化比較試験において,周産期死亡率や新生児の予後を有意に良くするというエビデンスが示されなかったにも関わらず,臨床の現場での必要性を感じられ,広く普及している,極めてユニークな検査です.これまで,CTGに関するハンディな解説書は数々発刊され,現場に役立ってきました.私たちが,本書で目指したものは,周辺知識をも幅広く包含し,最新の問題点と展望まで深く掘り下げた,総合的な教科書です.これら内容の習得により,CTG検査への見方を変え,より良い臨床成績へとつながるとともに,次世代の周産期学の発展に寄与すると考えたからです.以下が,その内容です.

第1章はCTG検査がたどってきた数々の歴史と今後に期待される役割を概観しました.

第2章と第3章では,CTGを理解する上で必要な母体と胎児生理学を述べています.

第4章で,胎児が低酸素症・アスフィキシアに対応するメカニズムと,それが破綻した場合に脳障害が起こる病態生理を解説しました.

第5章では,CTGの原理と装置に関して学び,第6章はそれぞれのCTGパターンの発生機序とその生理学的意義を述べています.

第7章では,CTGパターンと胎児アシドーシスとの関連性として4つの基本項目を示します.すなわち,①基線細変動が正常であれば98%に胎児アシドーシスを認めない,②基線細変動が減少,消失し,一過性徐脈を認める場合には23%に胎児アシドーシスを認める,③一過性徐脈の深度は,胎児アシドーシスと関連する,④繰り返す一過性徐脈は,約1時間以上の経過で胎児アシドーシスへ進行する可能性がある,です.ただ,最後の項目は,比較的徐々に(段階的にphased)悪化していく場合であり,一方,突然(sudden)悪化するケースもあります.これら2つのCTGの経時的変化,すなわちエボリューションについて第8章で,疾患例を含めて解説しました.そして,第9章で,エボリューションの応用編として,産科医療補償制度の重度脳性麻痺ケースを,分類し分析しました.

CTG波形の判読とそれに基づく臨床対応を標準化する取り組みが,1980年代後半から世界的に行われてきました.CTG波形を,胎児アシドーシスのリスク度と娩出を急ぐ度合いという2 つの観点から分類して,それぞれの段階に応じた対応を取ることを目指す試みです.世界的に3段階分類(3—tier)が使用されていますが,わが国では2011年版産科婦人科診療ガイドライン(日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会)にあるように5段階(5‒tier)が取り入られています.その理由を,第10章で詳しく述べています.

疾患背景を考慮にいれたCTG判読することは極めて重要です.第11章①では,早産期,子宮内感染,胎児発育不全および薬剤の影響を,第11章②では,双胎妊娠と胎児不整脈があるときの判読法について解説しました.

第12章は, 妊娠中の胎児健康度の評価法として,CST,NST,BPP,Doppler velocimetryなどの検査について,対象,結果の取り扱い方を中心に述べています.

第13章では,分娩管理法について,娩出時期,分娩誘発法,分娩進行の見方,帝王切開への移行時期について具体的に記述しました.特に胎児下降度と回旋を判断する,経会陰超音波法も含めました.

CTG判読には再現性が低いことが問題であり,近年,コンピュータ解析が発展してきています.第14章では,われわれが開発に関わった,日本産科婦人科学会ガイドラインに基づいたCTGコンピュータ判読システムであるTriumシステムを中心に,この分野の世界の動向を解説しました.

第15章は,医療現場のスタッフがどのようにCTG判読のレベルを向上させていくかについて,振り返りシナリオシミュレーションについて述べました.


執筆陣は,三重大学産科婦人科学教室で学んだ,臨床と研究の第一線で活躍する若手医師にお願いいたしました.われわれは,関連病院7施設をテレビ回線で結んだテレビカンファレンスを,10年近く,月曜日から金曜日まで毎日,行っています.CTGの判読と胎児生理学的解釈に関するデスカッションは,そのカンファレンスの中心的な位置を占めています.また,われわれは,ヒツジ胎仔を使った胎児脳障害研究のトップクラスの研究室であるニュージーランドのオークランド大学と共同研究を継続的に行っています.したがって,本書の内容は,基礎から臨床にわたる,世界的な最前線の話題とともに,内容の一貫性を担保していると考えています.本書が,読者の一層の臨床的レベルアップとともに,次世代の周産期研究に繋がることを期待しております.


2021年7月1日明

三重大学産科婦人科教授
池田智明

目次

第1章 胎児心拍数陣痛図(CTG)の歴史と展望 〈池田智明〉

1.胎児健康度モニタリングの始まり

2.臨床現場における使用の広がりと期待感

Column わが国へのCTG の導入と「Late の恐怖」

3.分娩前の胎児健康度検査としても使用

4.CTG 受難期

5.新たな出発: 臨床医の対応,医療訴訟,用語の統一

6.分娩時の対応まで含んだガイドラインを求めて

7.日本では5段階分類がガイドラインとして採用

8.2008 年以後の臨床的エビデンス

9.問題点と今後の方向性

第2章 胎盤循環 〈山口瑞希,真川祥一〉

1.胎盤の解剖と血液循環

2.胎盤での物質交換のメカニズム

3.拡散を規定する因子

4.胎児への酸素供給

5.二酸化炭素の胎盤輸送

6.酸塩基平衡

7.臨床との関連

Topic 胎盤トランスポーターとmTOR 〈山口瑞希〉

1.胎盤トランスポーター

2.胎盤における細胞内シグナリング(主にmTOR)

第3章 胎児生理学 〈山口恭平,前田佳紀〉

1.胎児循環の特徴

2.血流の分配と調節機構

3.心拍出量と血圧の変化

4.心拍数の調整メカニズム

5.胎児脳循環と代謝

Column 胎児とホメオスタシス 〈山口恭平〉

Topic Circadian Rhythm(サーカディアンリズム) 〈前田佳紀〉

1.サーカディアンリズムとその調整機構

2.胎児とサーカディアンリズム

3.CTG とサーカディアンリズム

第4章 胎児アスフィキシアと脳障害 〈桂木真司,前田佳紀,中尾真大〉

1.胎児アスフィキシアの病態生理

2.周産期脳障害と臨床

Topic 胎盤BOLD 〈真川祥一,二井理文〉

第5章 胎児心拍数モニタリングの原理 〈前田佳紀〉

1.胎児心拍数の測定原理

2.子宮収縮の測定

第6章 胎児心拍数変化— 定義と病態 〈山口恭平〉

1.胎児心拍数基線(Baseline fetal heart rate)

2.胎児心拍数一過性変動

3.心拍数基線の変化

Column 30 秒ルール

4.特殊な胎児心拍数波形パターン

Topic 心拍数細変動解析 〈前田佳紀〉

1. Time domain analysis(時間領域解析)とFrequency domain analysis(周波数領域解析)

2.非線形解析法(エントロピー解析)

第7章 CTG モニタリングパターンによる胎児アシドーシスの予測 〈田中博明〉

1.CTG パターンと胎児・新生児アシドーシスの関係:4つの基本エビデンス

Column 一過性徐脈の持続時間と深度の計測と新生児アシドーシス

第8章 CTG 波形の経時的変化(エボリューション) 〈中尾真大,村林奈緒,桂木真司〉

1.<パターン1>段階的変化(Phased evolution): Hon のパターン

2.<パターン2>突発的変化(Sudden evolution)

3.段階的/突発的変化の原因

第9章 脳性麻痺児のCTG モニタリング 〈中尾真大〉

1.CTG パターンと脳障害の発生時期

2.日本における脳性麻痺の現状~産科医療補償制度のデータ~

3.脳性麻痺発症を防ぐために行うべきこと: CTG パターンに基づいた対策

Column 脳障害の受傷タイミング―基礎実験から 〈山口恭平〉

第10章 分娩時のモニタリング管理: 日本産科婦人科学会5段階分類 〈村林奈緒〉

1.3段階分類の特徴

2.3段階分類の問題点

3.5段階分類~原案~

Column CTG モニタリングとトリアージ

4.5段階と3段階の違い

5.日本での5段階分類成立までの経緯

6.波形レベルに基づく対応と処置

7.保存的処置

8.5段階分類による分娩管理の妥当性・有用性

9.分娩中アシドーシス その他の評価法について

第11章 疾患背景を考慮した胎児心拍数波形パターンの読み方 ① 〈村林奈緒,真木晋太郎〉

1.早産期の胎児

2.感染と炎症

3.胎児発育不全(FGR)

4.薬剤

第11章 疾患背景を考慮した胎児心拍数波形パターンの読み方 ② 〈山口恭平,桂木真司,三好剛一〉

1.双胎妊娠

2.徐脈性不整脈

3.頻脈性不整脈

第12章 妊娠中の胎児健康度評価 〈二井理文,古橋芙美〉

1.妊娠中の胎児評価の意義

2.Contraction stress test

3.Non stress test

4.Biophysical profile

5.Modified biophysical profile

Column 胎児の睡眠サイクル

6.胎動カウント

7.Doppler velocimetry

8.妊娠中における検査の適応疾患と開始時期,頻度

第13章 分娩管理 〈池田智明,榎本尚助〉

1.分娩誘発時期の問題

2.分娩進行の見方

3.子宮収縮の評価

4.児先進部下降度と回旋の正確な評価

5.器械分娩(吸引,鉗子分娩)

6.分娩誘発

第14章 コンピュータ解析 〈真川祥一〉

1.コンピュータ解析の歴史

2.各種コンピュータ解析システムについて

3.CTG モニタリングにおけるコンピュータ解析のエビデンス(システムごとのエビデンスについて)

4.コンピュータ分析と機械学習

第15章 振り返りとシナリオシミュレーション 〈中尾真大〉

1.CTG モニタリングの問題点: 現場における知識と認識のギャップ

シナリオ1‒CTG(受講者用)

シナリオ1‒進行例(指導者用)

シナリオ2‒CTG(受講者用)

シナリオ2‒進行例(指導者用)


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書籍情報

  • ISBN:9784498160187
  • ページ数:235頁
  • 書籍発行日:2021年7月
  • 電子版発売日:2021年7月6日
  • 判:A4判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
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