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序文
巻頭言
妊孕性温存(fertility preservation)とは,男女を問わずこの先の人生で妊娠を計画する前に何らかの病気に罹患してしまい,その治療内容によっては妊娠するための手段を喪失する可能性があり,せっかく病気は克服できてもQOLが大きく損なわれるという状況において,当該患者さんやご家族と,主治医を含めた医療チームが将来の妊娠について一緒に考え,あらかじめ男性では精子や精巣を,女性では卵子や卵巣を採取して保存したり,生殖臓器の手術に際してはできる限りその温存をはかる方法です.
本書では妊孕性温存を必要とするさまざまな場面を想定し,良性婦人科腫瘍や悪性婦人科腫瘍(遺伝性も含む)の治療,異所性・正所性妊娠の治療,最近注目されているがん・生殖医療(oncofertility)については女性側・男性側の現状と実際について,また今後の臨床応用に向けた最先端研究の現況についてなどを中心として取り上げ,各々の方面でご活躍されているご専門の先生方からご執筆をいただきました.
幅広い領域を網羅できたことは他に類を見ず,また初学者にとっても非常に有用な知識や技術をご紹介いただくことを目標として本書を企画致しましたが,今後は妊孕性温存に関するバイブルとして,末永くお手に取っていただける内容として完成したと考えています.
最後に本書のご執筆にあたられました先生方,並びに企画・編集をご担当下さいました中外医学社の皆様方に,深甚の謝意を表します.
令和3年5月
兵庫医科大学産科婦人科学講座主任教授
柴原浩章
目次
1章 婦人科腫瘍の治療と妊孕性温存
1 良性腫瘍に対する妊孕性温存手術の留意点
A 卵巣チョコレート囊胞〔明樂重夫〕
B 子宮腺筋症〔福井淳史〕
C 子宮筋腫〔大野田 晋,杉本公平〕
2 婦人科がんに対する妊孕性温存
A 子宮頸がん
1 円錐切除術〔井上佳代〕
2 子宮頸部・腟前がん病変(CIN,VAIN)に対する薬物焼灼療法(フェノール・トリクロール酢酸:TCA)〔笹川寿之〕
3 広汎子宮頸部摘出術〔西尾 浩,岩田 卓,青木大輔〕
4 子宮頸がん治療における卵巣温存手術(卵巣移動術も含む)〔竹中基記,森重健一郎〕
B 子宮体がん
1 子宮内膜異型増殖症および子宮体がんの薬物療法〔高橋詳史,藤原寛行〕
C 卵巣がん
1 上皮性卵巣がん〔濱西潤三,万代昌紀〕
2 上皮性境界悪性卵巣腫瘍〔竹井裕二〕
3 悪性卵巣胚細胞腫瘍〔梶山広明〕
4 性索間質性腫瘍〔藤原聡枝,大道正英〕
D 絨毛性疾患
1 胞状奇胎〔井箟一彦〕
2 侵入奇胎・絨毛がんに対する治療後の妊娠〔碓井宏和,佐藤明日香〕
2章 遺伝性腫瘍と妊孕性温存
1 遺伝性腫瘍―最近の動向〔浦川優作,平沢 晃〕
2 遺伝性腫瘍と妊孕性温存の実践
A HBOCと妊孕性温存〔矢内原 臨,岡本愛光〕
B さまざまな遺伝性腫瘍と妊孕性温存〔上田真子〕
3 遺伝カウンセリングの実践〔神原容子,三宅秀彦〕
3章 異所性妊娠の治療と妊孕性温存
1 卵管妊娠〔泉谷知明〕
2 頸管妊娠〔森實真由美〕
4章 子宮内容除去術と妊孕性温存
1 子宮内容除去術と妊孕性温存〔原 鐵晃〕
5章 社会的適応による妊孕性温存
1 社会的適応による妊孕性温存〔船曳美也子〕
6章 がん・生殖医療(Oncofertility)
I 医学的適応による妊孕性温存(女性側)
1 がん・生殖医療に関する世界の動向〔中村健太郎,鈴木 直〕
2 卵巣の機能
A 卵の成熟と受精機構〔川合智子,島田昌之〕
B 女性の生殖内分泌機構〔岩佐 武,鎌田周平〕
C 思春期における卵の質の変化〔楠原淳子,岸 裕司〕
D 卵巣機能とその評価〔堀江昭史〕
3 がん治療による卵巣毒性
A 放射線照射による卵巣毒性〔上紺屋憲彦〕
B 抗がん剤による卵巣毒性〔古井辰郎,山本扇里,飯原大稔,寺澤恵子,森重健一郎〕
C がん治療開始後の妊孕性温存〔前沢忠志〕
D 化学療法後の卵巣機能の回復〔脇本 裕,荻野奈々〕
E 薬物療法による卵巣保護〔折坂 誠,宮崎有美子,白藤 文〕
4 妊孕性温存とチーム医療
A 医師の役割〔正木希世,杉本公平〕
B 看護師の役割〔渡邊知映〕
C 薬剤師の役割〔日置三紀〕
D 心理士の役割〔奈良和子〕
E 遺伝カウンセラーの役割〔大瀬戸久美子,吉本有希子〕
5 妊孕性温存における連携
A がん治療施設の対応〔山口 聡〕
B 生殖医療施設の対応〔岡本恵理〕
6 妊孕性温存の対象疾患
A 乳がんと妊孕性温存〔文 亜也子,三好康雄〕
B 女性血液腫瘍疾患と妊孕性温存〔神田善伸〕
C 小児がんと妊孕性温存〔宮地 充,細井 創〕
D 骨軟部腫瘍と妊孕性温存〔星 学〕
E 脳腫瘍と妊孕性温存〔清谷知賀子〕
F 消化器がんと妊孕性温存〔岡田真央,庄司広和,朴 成和〕
G 自己免疫・自己炎症性疾患と妊孕性温存〔松井 聖〕
H 造血幹細胞移植と妊孕性温存〔平光史朗〕
I POIの原因となる疾患と妊孕性温存〔菊地 盤〕
7 妊孕性温存とカウンセリング
A AYA世代の意思決定とその支援〔田中恭子〕
B 妊娠許可からの支援〔渡邉裕美〕
8 妊孕性温存の実際
A 卵子凍結と胚凍結〈卵巣刺激法と合併症〉
1 卵巣刺激法(short法,long法,antagonist法,PPOS法)〔辻 勲〕
2 最近の卵巣刺激法(ランダムスタート法,DuoStim法)〔柴原浩章〕
3 アロマターゼ阻害薬の併用〔塩谷雅英〕
4 OHSSの発症予防法〔鈴木達也〕
5 採卵と麻酔法〔吉田 淳〕
6 精子調整と媒精法(IVF,ICSI)〔泊 博幸,詠田由美〕
7 卵子および胚の凍結・融解法〔緒方洋美〕
8 胚移植法〔宇津宮隆史〕
B 卵巣凍結
1 腹腔鏡下卵巣切除術・移植術〔高江正道,鈴木 直〕
2 卵巣凍結・融解法〔桑山正成〕
3 MRDの診断〔脇本 裕,大杉夕子〕
4 Onco-IVM:IVMの妊孕性温存への応用〔福田愛作〕
5 HOPE(日本卵巣組織保存センター)の運営状況〔京野廣一,橋本朋子〕
C 妊孕性温存の成功
1 妊娠許可後の治療成績(胚凍結,卵子凍結,卵巣凍結)〔伊藤 歩,片桐由起子〕
2 妊孕性温存後妊娠における周産期リスクと管理上の留意点〔安岡稔晃,杉山 隆〕
9 がん・生殖医療のさらなる発展のために
A がん・生殖医療連携の地域ネットワークシステムの現状〔杉下陽堂,鈴木 直〕
B 公的助成制度〔重松幸佑,高井 泰〕
C 登録システム〔筒井建紀〕
D 安全管理〔古井辰郎,福田愛作,水野里志,山本晃央,森重健一郎〕
II 医学的適応による妊孕性温存(男性側)
1 精巣の機能
A 精子の形成と受精機構〔宮本敏伸,宇津野泰弘〕
B 男性の生殖内分泌機構〔加藤繭子,市川智彦〕
2 がん治療による精巣毒性
A 放射線照射による精巣毒性〔上紺屋憲彦〕
B 抗がん剤による精巣毒性〔千葉公嗣,藤澤正人〕
C 化学療法後の精巣機能回復〔湯村 寧〕
3 妊孕性温存の実際
A 射出精子の凍結・融解法〔堀口菜保子〕
B 精巣内精子採取術(TESE)における精細管処理と精子凍結・融解法〔水田真平〕
C 凍結精子を用いるICSIのコツ〔柳田 薫,酒井智康〕
D 男性悪性腫瘍患者に対するOnco-TESE〔小堀善友〕
4 妊孕性温存とカウンセリング
A 男性患者の心理カウンセリング〔小泉智恵〕
7章 GnRH agonistによる卵巣・精巣の休眠療法
1 GnRH agonistによる卵巣の休眠療法〔堀江昭史〕
8章 臨床応用に向けた最先端研究の現況
1 未発育卵母細胞の体外発育(IVG)・体外成熟(IVM)〔長谷川昭子〕
2 人工卵巣〔脇本 裕,児島輝仁〕
3 POIとIVA(IVAとdrug-free IVA:富山大学での経験)〔伊東雅美,中島彰俊,河村和弘〕
4 卵子幹細胞(oogonial stem cells:OSCs)を用いた妊孕性温存法の開発〔赤堀太一,高井 泰〕
5 iPS細胞からの機能的な卵子の分化誘導〔林 克彦〕
6 核移植技術のがん・生殖医療への応用〔菅原淳史,立花眞仁〕
7 子宮再生医療〔平岡毅大,廣田 泰,大須賀 穣〕
8 精巣組織凍結保存〔大坂晃由,岡田 弘,岩端威之,小堀善友,杉本公平〕
9 In vitro精子形成〔橋本雪司,小川毅彦〕
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書籍情報
- ISBN:9784498160163
- ページ数:526頁
- 書籍発行日:2021年7月
- 電子版発売日:2021年7月9日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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