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- Cブックス 労力を無駄にしないための 臨床研究テーマの選び方
商品情報
内容
臨床研究についての書籍はさまざまあるが、本書は「テーマの選び方」についての本である。没ネタ回避のための最重要ポイントである「選び方」について、著者の苦い経験も含めた実例を赤裸々に公開。また、没ネタに踏み込んでしまったときの労力回収方法についても紹介する、本音だらけの一冊!
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序文
はじめに
~適切な題材を選ぶコツ~
マニュアル本について
昨今、「臨床研究の進め方」「論文の書き方」などのマニュアル本が医学書売り場に溢れています。筆者は、神戸大学小児科の新生児グループで研修医・大学院生指導に携わっていますが、彼らにこれらの本を読ませたからといってすぐに英語論文を執筆できるようにはならないのではないかという疑問を長年にわたって抱いてきました。
その理由は、いわゆるマニュアル本に記載されている手引きというのは、そもそも「論文の書き方」さえ指導すればちゃんとした査読誌に英語論文としてアクセプトされるような適切な研究テーマが選択されている場合を前提として書かれているからです。そのため、「学会発表した内容はそこで満足するのではなく、英語論文として報告して初めて一件落着」みたいなストーリーが展開されます。しかしながら、欠陥のある研究テーマ(いわゆる没ネタ)をチョイスしていた場合は、仮に学会発表はできたとしても、マニュアルに則り適切な論文を書いたところでいつまでもアクセプトされないだろうと思うのです。
初学者は没ネタを掴む
学会発表・論文作成に際して、研修医・大学院生に研究テーマの選択を任せると、往々にして“何でその症例を選ぶの?”といったケースや、せっかくのいい題材を“なぜその角度で切り取るの?”というようなパターンが多いように思います。そのまま突き進んでしまった場合、箸にも棒にもかからない内容になってしまい、労力が無駄になるだけだろうなと思うことがあります。
大学院生N さんの場合
最近の筆者の実例では、当科の大学院生のN さんに「腹水を呈した新生児消化管アレルギーの1 例」についての症例報告の草稿を執筆してもらった際に、序文と考察の大半が消化管アレルギーの免疫学的機序の説明と診断方法に割かれている一方、実際には本症例では負荷試験などの正式な確定診断を行えていないというパターンを経験しました。その結果、「このような診断方法を行う必要がある」と大風呂敷を広げたうえで、「実際に、我々の症例では施行していないですが……」と言い訳する流れになってしまい、自らの正論が自らの首を絞めるというよくわからない考察になっていました。
「言い訳」というのは一般に他者に批判されたときに使う論法であり、自らの論旨に自ら言い訳しないといけなくなるような話の持っていき方は「自己ツッコミ」をしたい関西の芸人さん以外は絶対にやるべきではないと思います。N さんが消化管アレルギーの診断について長々と草稿を執筆してしまったのは、十中八九、最初に読んだ参考文献に記載されていた内容が診断にフォーカスしたものだったからだと思います。症例報告の執筆に関して、何も考えずに他者の論文を引用してしまうとこのようなパターンに陥りがちなので、最初に方向性を決めたうえでそれにフィットする参考文献を探すべきだったのだろうと思います。
大学院生F さんの場合3>
また、新生児の尿中バイオマーカーを用いた後方視的観察研究において、当科の大学院生のF さんが、「早産児と正期産児を比較すると、出生当日の値には差がありませんでしたが、生後3 〜5 日の値は早産児でやや高い結果が出ました」と報告してきました。しかし、一般に生後3 〜5 日の早産児というのは人工呼吸管理をしていたり、循環作動薬を使っていたりという集中治療の真っ最中である反面、生後3 〜5 日の正期産児というのはミルクを飲んでお母さんと同じ部屋ですごしているような場合がほとんどです。
つまり、本ケースのように明らかに在胎週数ごとに患者背景が異なる場合は、バイオマーカーに差が生じる原因が内因性(在胎週数の違い)によるものか外因性(治療介入)によるものかを簡単に証明することはできない訳です。また、呼吸管理などの集中治療なしにはこういった早産児は生存できない訳なので、治療を受けていない群というのが理論上存在せず、多変量解析などを行っても多分簡単にはうまくはいかないように思います。加えて、在胎週数の違いがバイオマーカーに有意な影響を及ぼすのであれば、出生当日も差があるように思います。
この場合のF さんの誤りは、データ解析をして最初に目についた有意差のある着眼点をなんとか掘り下げようとしてしまったことだと思います。後方視的研究というのはある意味有意差を探す作業のようなところがあるので、いろいろ探して差が出ることは当たり前です。では、その差に本当に意味があるのか、その差に基づく論理的なストーリーを作成できるのかという点を考えないといけません。「労力を無駄にしない」という観点からは、パッと見最初は簡単に勝ち進めそうなトーナメントであっても、山の反対側にゴリゴリの強豪校が控えているような場合は、あえて頑張らずにそのトーナメントは捨てるという考え方も必要なのだと思います。
没ネタの回避と労力の回収に向けて
そこで本書では、「臨床研究の題材(研究テーマ)の選択」に特化した解説を行い、どういった症例・研究課題には手をつけないほうがよいのかについて述べたいと思います。本書を読んだうえで「お蔵入りリスク」が高い「没ネタ」を掴むことを回避し、真っ当な研究テーマを選択することができれば、それ以降は市販のどのマニュアル本を参考にしても、必要な労力をかけさえすればきっと英語論文のアクセプトまで到達できるのではないかと考えます。
また同時に筆者も、若いころに今なら絶対に労力を注ごうと思わないような典型的「没ネタ」に多大な労力をつぎ込んだ経験があり、それらを苦労して何らかの形にしたという経緯があります(ほとんど英語論文になっていませんが)。せっかくなので、そういった没ネタの回収法についても説明しようと思います。
2021年7月
神戸大学医学部附属病院小児科 講師
藤岡一路
目次
Chapter 1
<本書で扱う研究の種類>
前方視的研究は扱いません
Systematic Reviewも扱わない
症例報告と後方視的研究
没ネタも論文化したい!
Chapter 2
<没ネタ回避のコツと実例集~症例報告編~>
(1)症例報告における没ネタ回避のコツ
どういう症例が報告になり得るか
新規性の欠如
検査・手順の不足
共著者の許諾
(2)症例報告の没ネタ実例集
【新規性の欠如①】
筆者の記念すべき1本目の症例報告(症例を直接担当した訳ではないですが……)
【新規性の欠如②】
自らの知識不足を世に知らしめた先天性トキソプラズマ症の誤診例
【診断の不確かさ①】
査読者の独自調査により、より詳細な患者背景が明らかとなり、結果として内容を訂正する必要が生じ、平謝りすることになった症例報告
【診断の不確かさ②】
当初英文誌への投稿を企図していたが、勉強するに従って論旨への自信が揺らいでいった症例
【有益性の欠如①】
初学者の“思い入れバイアス”のため報告することになったが、これといったテイクホーム・メッセージのない症例報告
【有益性の欠如②】
資格維持のために普通の症例を無理やり論文発表したケース
【臨床管理上の不備①】
筆者が初めて経験した血小板減少症の新生児への対応に大わらわした際の経験をまとめた1例
【臨床管理上の不備②】
あのとき必要な検査をしておけば……と強く後悔した症例
【手続き上の不備①】
「顔面と脳所見の不一致が興味深い」にもかかわらず、顔写真がないケース
【手続き上の不備②】
薬剤適応外使用の奏効例で症例報告の難しさを痛感したケース
【共著者の承諾の不備①】
筆者が大学院生時代に経験した症例を、指導者として大学病院の研修医に発表させた1例
【共著者の承諾の不備②】
筆者が専攻医時代に経験した症例を、指導者として同施設勤務歴のあるスタッフに発表させた1例
(3)自験例を通じた感想
没ネタの論文化は宝くじ!?
Chapter 3
<没ネタ回避のコツと実例集~後方視的研究編~>
(1)後方視的研究における没ネタ回避のコツ
どういう後方視的研究が論文になり得るか
充分な症例数
明確な対象設定
手続き上の問題、共著者の許諾
後方視的研究は後出しジャンケン
Negative Data
(2)後方視的研究の没ネタ実例集
【より大規模な既報が存在したケース】
筆者が初めて取り組んだ臨床研究:最大級の労力を要したにもかかわらず、学会発表止まりで論文化できなかった痛恨の没ネタ
【診断・治療基準のあいまいさ】
筆者が2回目に取り組んだ臨床研究:研究対象疾患に関する詳細な記録がなかったケース
【共著者の許諾関連①】
筆者が外勤(バイト)先の病院の外来のデータをまとめた仕事
【手続き上の不備】
当時未承認薬であった輸入不活化ポリオワクチン接種の経験について報告した研究
【研究デザインの問題】
研究デザインに致命的な欠陥を抱えた後方視的研究
【共著者の許諾関連②】
筆者の大学院時代の仕事を大学院生の専門医要件に転用した仕事
【Negative Data関連①】
大学院基礎研究時代の負の遺産を10年越しに成仏させた研究
【Negative Data関連②】
英文誌は厳しいだろうと和文誌に投稿したら、思わぬ大当たりでびっくりした論文
【Negative Data関連③】
仮説を書き換えて論文化にこぎつけた学位論文
【Negative Data関連④】
スタンフォード大学の底力を感じた圧巻の没ネタ回収術
(3)自験例を通じた感想
パターン化しにくい後方視的研究の没ネタ
功名心は最大の落とし穴
Chapter 4
<臨床研究のTips>
(1)上司・同僚の承諾・協力が得られないパターンをもう一度本音で解説する
共著者の許諾に関する問題
指導医の日常について理解する
指導医に気持ちよく研究指導してもらうためには
実録!スタンフォード
結局は可能な限り自分で完成度を高めるべき
それでもやっぱり自分は上司に恵まれていないと思っているあなたへ
上司の理解がないためポシャった研究テーマは……あります
査読者のほうがよっぽど上司よりわかってくれない
(2)学会発表のコツ
学会発表の意義
学会発表は一体どれだけの人の目に触れるのか
学会発表は抄録がすべて
抄録の半分以上は症例または方法・結果に費やす
発表学会の選定について
本番スライドは白黒で作成
(3)学会発表の内容を論文化するときの注意点
論文著者は誰なのか
投稿先ジャーナルの選定
和文の学会誌か商業誌か?
英文校正会社について
査読への対応
オープンアクセス誌に投稿すべきか
いわゆるプレデタージャーナルについての個人的感想
(4)専攻医クラスの臨床研究のTips
個人的なTips
倫理委員会って必要ですか?
うまい文献検索の仕方を教えてください!
統計って一回腰を据えて勉強しないと駄目ですか?
<番外編>
依頼原稿と投稿論文で求められるものの違い
学会発表・論文作成のチャンスが得られるかは、学級委員長になるのに似ている!?
なぜ勝手に臨床研究を始められないのか?
いつから研究できるかは運次第なのか?
自分から「研究したい」と提案するのはどうか
偶然のチャンスを能動的に手繰り寄せる方法とは
論文をなぜ書くのか
医学への貢献は無理でも、自分と同じような境遇の医師に貢献できるかもしれない
意識は、低いほうがいい
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書籍情報
- ISBN:9784840475785
- ページ数:224頁
- 書籍発行日:2021年9月
- 電子版発売日:2021年9月22日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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