introduction

この度，「コンバージョンTHA のすべて」を企画しました。コンバージョンTHA とは，すでに手術を受けた後でのTHA（total hip arthroplasty，人工股関節全置換術）のことなので，少なくとも同部位への2 回目の手術であり，難易度の高いprimary THA ということになります。当然，複数回の手術ですから，前回の手術の術式にもよりますが，難易度は高くなります。つまり，変形が強いなどの骨形態が異なることからカップやステム設置が難しくなり，ミスマッチのリスクが生じ，さらに関節拘縮などが存在していれば，その癒着を剥がす操作があり，筋肉の走行異常も加われば，脱臼のリスクが上がります。Bonestock の減少，骨萎縮の存在などがあれば，術中操作によりインプラント周囲骨折のリスクも上がります。難易度が上がるために手術時間も長くなり，出血量も多くなります。さらに，骨形態異常に伴って血管の走行異常も伴うので，血管損傷を引き起こすリスクも上がり，大出血の恐れも危惧されます。神経損傷の発生率が多いことも懸念点です。コンピュータ支援技術の進歩により，その対策としてナビゲーションやロボットなどが使用できる機会も増えてきています。しかし，軟部組織までを十分に評価することはできず限界でもあります。このように，多くの落とし穴が待っています。それを回避するためのコツもあります。

そこで，前回に行われていた関節温存の股関節手術に造詣が深く，多く行っている施設の第一線の先生に今回のテーマの原稿をご依頼させていただきました。前回に行われていた関節温存手術と今回のコンバージョンTHA の両方の手術への知識，技術，経験ともに多く有しておられます。特に，アプローチ，選択するインプラント，コツと落とし穴，特に気を付けるべきポイントなど，自験例をご提示していただきながら，ご多忙のなかご解説を賜りました。この場をお借りして深く感謝を申し上げます。

股関節外科医とは患者の股関節を一生背負う覚悟で臨むドクターであると，今でも私はその信念を持っておりますが，グローバルな今の時代では，センター化など役割分担が必要であるという考え方もあります。また，初回の手術がtime-saving として長持ちすればするほど，時間は経過し，後進の先生が手術を行うことになります。従って，かなりニッチな領域の術式にはなりますが，これまではあまり取り上げてこられなかったテーマのためにこのような企画に至りました。しかし，教育的な意味も含めて確実に次世代に引き継がれる知識と技術になります。コンバージョンTHA は決して，骨切り術の後の尻拭いの手術ではありません。むしろ，初回の手術より低侵襲でリハビリテーションや入院期間が圧倒的に短く，術後疼痛も少なく，満足度が高い手術になるはずです。本手術に関わる施設の先生に少しでも参考になるように，お役に立てるように，患者さんにとって最良の手術になるように，強く心から願っております。

北里大学大学院医療系研究科
高平尚伸