introduction

スポーツ外傷・障害といえば，膝関節靱帯損傷，疲労骨折など，下肢の傷害がフォーカスされる傾向にあります。しかし，公益財団法人スポーツ安全協会の統計（2018 年度）では，野球肩・野球肘に代表される肩・肘関節（上腕・前腕を含む）の傷害はスポーツ外傷・障害全体の10.3％，そして，手・手指の傷害は26.0％を占めており，身体部位別に最多です。

本特集は｢上肢のスポーツ外傷・障害Up to date｣というテーマで，上肢のスポーツ外傷・障害の診療における最新の知識，ノウハウを各分野の第一線でご活躍の先生方に解説していただきました。そのなかには，最近の研究により明らかになった病態や発生機序に関する知見や治療成績の向上を目標とした新しい治療法のほか，｢最新｣ではありませんが，普遍的で重要な知識もあります。また，規則改定により本年度から整形外科医が診療の際に対応に注意を払わなければならない事項もあります。

肩関節については，豊富な屍体研究の知見に基づく骨頭求心位の不全発生のメカニズム（三幡輝久先生），新たな術式である前方関節包靱帯再建術（船越忠直先生），投球に伴う上方関節唇損傷（superior labrum anterior and posterior lesion；SLAP 損傷）の成因と手術適応・方法（菅谷啓之先生），肩峰下インピンジメントの病態，評価方法から機能訓練まで含めた治療法の最新知見（八木敏雄先生），胸郭出口症候群の病態・治療，手術の適応，合併症予防の工夫（下河邉久雄先生）をご教示いただきました。

肘関節に関しては，解剖学的な知見と回内屈筋群の機能評価・構造破綻の評価（星加昭太先生），投球肘の成因からその予防法までについて最新のバイオメカニクス研究（門間太輔先生），肘内側側副靱帯損傷に対する治療の工夫（岩堀裕介先生），肘離断性骨軟骨炎の発症メカニズムに関する新知見と自験例の治療成績（高原政利先生），テニス肘に対する効果的な治療法について多血小板血漿（platelet rich plasma；PRP）療法を含めた最新知見（鈴木拓先生）を詳述いただきました。

手・手指は，アスリートの三角線維軟骨複合体（triangular fibrocartilage complex；TFCC）損傷の診断・治療，早期復帰のための工夫など最新の知見（中村俊康先生），アスリートの舟状骨骨折治療，早期復帰に向けての工夫，リハビリテーション（中尾悦宏先生），そして，富田一誠先生には腱鞘炎の病態と診断，治療について，世界アンチドーピング機構（World Anti-Doping Agency；WADA）による糖質コルチコイド注射製剤禁止への対応を含めて解説いただきました。

各稿とも執筆された先生の豊富な経験と最新の知識と研究成果をふんだんに盛り込んだup to date な力作です。編集を担当させていただきました私自身も存知上げなかった知識がたくさんあり，大変勉強になりました。

本号が，整形外科医，理学療法士，アスレティックトレーナー，その他スポーツ外傷・障害診療に携わるすべての方の一助になれば幸甚です。

末筆ではありますが，日頃の診療でお忙しいなかご執筆の労をおとりいただいた先生方に心より御礼申し上げます。

慶應義塾大学医学部スポーツ医学総合センター
佐藤和毅