スポーツ疫学
－スポーツ外傷・障害の統計－

医療や医学の向上のために疫学的な評価や，統計学的な検証が重要なことは周知の事実であり，課題の抽出から始まり，介入と検証といった一連の作業を繰り返すことによって医療の方向性と推進力が定まってくるといえる．「スポーツ疫学」という名称が，学問や固有名詞として正式に確立しているかは定かでないが，スポーツ医科学の分野においても疫学的な評価は古くから行われており，「曝露」に該当するスポーツ活動は，その競技のルールや練習環境によって「規定」され，測定結果や，競技成績，あるいは罹患率や外傷発生率などによって「検証」が行われることで，「疫学」の定義とされる「規定された（人間）集団」としては非常に馴染みやすい領域であり，必然的に比較的限定された集団を対象として調査や研究が行われてきたといえる．

近年，スポーツに関わる様々な情報の国際化が加速しており，疫学的な分野では，母集団の拡大，すなわちスポーツの種類（競技），競技レベル，年代，地域などを対象として，国際的な利活用拡大に向けた取り組みが進んでおり，共通のルールや定義の重要性が認識されている．

本特集ではテーマを3段階に分け，①「スポーツ疫学の基礎知識」として，実際にスポーツ疫学研究の計画から始まり，データを分析して論文化するまでの基本的な知識を疫学の専門家の先生方にご教授いただき，②「各領域・分野別の統計」では，スポーツの社会医学的な接点ともいえる，各種スポーツ領域における疫学的研究の現状と今後の課題について解説していただいた．③「種目別の統計」では，スポーツの種目に特化して国内外の疫学的研究の取り組みの現状と課題についてご紹介いただいた．

勤勉実直な日本人の国民性は，緻密で信頼性の高いデータの蓄積という点ではスポーツ疫学への適性が高いと考えられる．例えば，わが国では学校体育や課外活動としてのスポーツ活動中の事故や災害発生時の給付金支給制度に基づき，外傷や疾病発生時の報告，および管理体制が非常に充実しているのが特徴として挙げられる．また，スポーツ医学における国際的なサーベイランスに参加した際にも，その協調性を称賛されることが多い．疫学研究に必要不可欠な素地は十分に備わっていると思われるので，研究計画を十分に吟味し，適切な分析手法によって得られた結果や成果を効率よく対象者や社会に還元することで，さらに有用な指針の確立へとつながり，結果的に「スポーツ疫学」の体系が確立するのではないかと考える．

（中嶋耕平）