特集：アスリートの椎間板－椎間板を制するものは腰痛を制す－

この度，特集号『アスリートの椎間板』を編集させていただきました．アスリートの腰痛には大きく2種類あります．前方要素の腰痛と後方要素の腰痛です．発育期では，腰椎分離症を代表とする後方要素が障害され腰痛の原因となります．一方，成人期以降の腰痛のほとんどが椎間板や周囲の障害による腰痛です．そのため，今回は成人期以降の腰痛を鑑み，サブタイトルとして，「椎間板を制するものは腰痛を制す」としました．

まず，総論として正常椎間板の解剖とバイオメカニクス，椎間板変性，画像評価を取り上げました．アスリートの椎間板を語る前に必ず知っておくべき情報です．次に代表的スポーツ（水泳，野球，ラグビー）における特徴的椎間板変化を解説していただきました．一口にスポーツと言っても競技によりさまざまな特徴があることがご理解いただけると思います．

椎間板性腰痛，Modic変化が椎間板周囲由来のpain generatorとしては代表的です．この2つを熟知することが，成人の非特異的腰痛を制することにつながります．非特異的腰痛における椎間板の位置づけ，椎間板性腰痛の基礎知識，そして最近話題のtoxic annular tearとhigh signal intensity zone，さらにModicが腰痛の原因になるメカニズムもご執筆いただいております．この章を熟知するとpain generatorの知識が深まり，次の章の手術療法につながります．これら病態の根治療法は固定術がゴールドスタンダードです．しかしながらアスリートは固定術を回避したい，と誰しも願っています．ここでは非固定術で最小侵襲な内視鏡手術を紹介しております．椎間板性腰痛にはthermal annuloplastyを，Modic腰痛にはクリーニング手術を，さらにそれらの基本手技としての全内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア摘出術が詳細に解説されております．いずれも最近の手法であり，長期成績は未確定ですが，最小侵襲非固定手術のため，アスリートには至適であり，さらなる報告が待たれます．

最後が運動療法です．手術を行う外科医に絶対に身につけてほしい理論です．最高の運動療法の理論を知れば外科医としての幅も広がります．また，術後再発予防には運動療法は欠かせません．確定診断，最小侵襲motion preservation手術，最先端運動療法，これらが揃って初めてアスリートが100％を超える復帰が可能となるのです．ぜひ，ご堪能ください．

特集編集：西良浩一（徳島大学教授）