早期食道癌 そのコンセンサスと最前線

  • ページ数 : 178頁
  • 書籍発行日 : 2012年1月
  • 電子版発売日 : 2012年8月18日
8,360
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商品情報

内容

消化器癌の中で食道癌は難治性癌の一つとされてきた。しかし、診断技術の進歩による早期発見、内視鏡的治療の普及、新たな外科術式の確立等により「治癒しうる癌」となりつつある。このような背景を踏まえ本書では、「早期食道癌」の臨床につきエキスパートの最新知見を1冊に纏めた。食道疾患・消化器病に関わる全ての医師必携の1冊。
電子書籍版では全文検索、収録内容から南山堂医学大辞典へのリンク参照、文献もPubMedへのワンタッチリンクなど電子ならではの機能を搭載し、立体的な参照を実現いたしました。

序文

本書の巻頭のことばを述べるにあたり,個人的なことから述べるのはいささか,躊躇されることではあるが,私が昭和53年卒業以来最初に書かせていただいた症例報告の論文は「燕麦細胞癌の像を呈した早期食道癌の1例」(臨床外科,第36巻,10号,1981年10月20日発行,医学書院)であった.食道癌取扱い規約第3版(1973年9月)以降,当時の第5版(1976年7月)においても,「早期食道癌」は「st 0癌stage 0 carcinomaを早期癌とも称する.」として「st 0癌を用い,早期癌なる言葉を用いないようにしたい.」とされ,定義されていた.これは「胃癌取扱い規約」に準じて「癌浸潤が粘膜下層までにとどまる癌」である「早期胃癌」に準じたものであるが,食道癌のリンパ節転移の特殊性からいささか変則的であったが「リンパ節転移のない粘膜下層までの癌」をstage 0癌としていわゆる「早期癌」としたものである.そのような定義のもとにおいて,すなわち「粘膜下層浸潤癌」が「燕麦細胞癌」という組織学的特殊性はあったにしても,「早期食道癌」という病態として,症例報告として意義を有する時代であった.

その後,早期癌の定義を,あくまで原発病巣の病変の進行度に基づくものという観点から,食道癌取扱い規約,第10版(2007年4月)で,「早期食道癌の定義を変更した.原発巣の壁深達度が粘膜内にとどまる食道癌を早期食道癌と呼ぶ.リンパ節転移の有無は問わない.」とされ,また「表在癌」は従来の如く「癌性の壁深達度が粘膜下層までにとどまるものをsuperficial carcinomaと呼ぶ.リンパ節転移の有無は問わない.」とされて今日に至っている.

食道癌も,消化器癌の中では,膵癌,胆道癌とともに難治性癌の一つであったが,診断技術の進歩による早期病変の発見の機会の増加と内視鏡的治療の普及,また外科において3領域リンパ節郭清に代表される手術術式の確立,さらに放射線療法,化学療法の長足の進歩により「難治性癌」から「治癒しうる癌」となりつつある.特に各種診断技術の飛躍的進歩により,早期病変の発見が広く行われ,以前の「早期食道癌」しかも「粘膜下層浸潤癌」が症例報告する意義があった時代からみると隔世の感を禁じ得ない.さらに前述したそれらの進歩に基づいた食道癌発生の分子生物学や病理診断学による癌発生のメカニズムの解明が試みられ,それらによる更なる画像診断法,そして治療法の進歩の数々には枚挙にいとまがない.

このような背景から「早期食道癌」を中心に一部「表在癌」も含めて,最新の知見をもとに著書として世に出すことは,きわめて意義深いものと考え,各々の分野のトップリーダーの方々に執筆を依頼し,発刊する運びとなった.また本書の特徴として主に診断における肉眼像(マクロ)の所見と組織像(ミクロ)の所見を対比して双方向的に両者の「接点」を学んでいただくべく工夫・企画した.

多くの食道疾患に携わる医師のみならず,消化器病を専門とする方々,さらには一般臨床医や医学生の皆様にも理解できるよう配慮しつつ,up-to-dateな先進的内容をもった書物として完成することができた.幅広く多くの方々の理解を深め,ひいては全ての患者さんのお役に立つことができれば幸いと存ずる次第である.

最後に,企画から発刊までご尽力いただいた,中外医学社の五月女謙一氏,小川孝志氏に深甚の謝意を捧げたい.


2011年 12月

群馬大学大学院病態総合外科
桑野博行

目次

Ⅰ 病 態

1.早期食道癌の病態

1.早期食道癌とは

2.早期食道癌の病態

a.食道の発癌

b.早期食道癌の発育,進展

c.転移,特にリンパ節転移

3.「早期食道癌」の臨床病理学的位置づけ

2.早期食道癌の病理診断

1.上皮内癌の概念

2.上皮内病変の診断―上皮内癌と異形成―

3.早期食道癌の病理組織診断―実例から―

a.上皮内癌の病理組織診断:癌腫が粘膜上皮内にとどまる病変(T1a-EP or Tis)の病理組織診断

b.癌腫が粘膜固有層にとどまる病変(T1a-LPM)の病理診断

4.癌腫が粘膜筋板に達する病変(T1a-MM)の病理診断

Ⅱ 診 断

1.食道扁平上皮癌の内視鏡診断

1.食道表在癌の拾い上げ診断

a.食道癌の高危険群

b.拾い上げ診断の現況

c.ヨード染色による拾い上げ診断

d.狭帯域内視鏡システムによる拾い上げ診断

e.拾い上げ診断の目標

2.食道表在癌の深達度診断

a.深達度亜分類

b.深達度診断の目標

c.内視鏡病型と深達度

d.病型別深達度診断

2.食道腺癌の内視鏡診断

1.Squamo columnar junction(SCJ)とesophago gastric junction(EGJ)

2.食道胃接合部の内視鏡観察

a.柵状血管と胃襞上縁

b.なぜEGJに2つの定義が必要か?

3.Barrett食道

a.Barrett食道の定義

b.Columnar lined esophagus

c.Long segment Barrett's esophagusとshort segment Barrett's esophagus

d.Barrett粘膜の組織型

4.Barrett食道癌

a.Barrett食道癌の発見

b.拡大内視鏡によるBarrett食道癌の診断

c.Barrett食道腺癌の側方進展範囲診断

d.Barrett食道癌の深達度診断

3.超音波内視鏡診断

1.EUSの機種と目的

2.EUSによる正常食道壁層構造

3.細径プロ ーブによる表在食道癌の深達度診断

4.EUS専用機による3領域リンパ節の検索

a.リンパ節転移診断規準

4.食道造影

1.食道の解剖―周辺臓器との解剖学的位置関係

2.食道造影検査法

a.前処置

b.造影手技

3.食道癌の造影所見

a.粘膜癌(m 1)

b.粘膜癌(m 2-3)

c.粘膜下層癌(sm)

d.IIc病変における深達度診断の指標となる所見

4.食道癌特有の注意点

5.その他の画像診断

1.ガイドラインに基づいた食道癌の診断

2.食道癌のリンパ節転移頻度

3.各種画像診断の特徴

a.PET/CT

b.CT

c.MRI

Ⅲ 治 療

1.内視鏡治療EMR

1.内視鏡的粘膜切除術(EMR)の適応症例

2.EMRの治療手技

3.EMRとESDの位置付けと適応選別

4.EMRの治療成績

5.EMRにおける食道穿孔の予防と対策

2.早期食道癌に対するESD

1.適 応

2.器 具

3.ESDによる食道粘膜全周切除術

a.背 景

b.食道粘膜全周切除の実際

c.予防的拡張術

d.成 績

4.食道ESDの合併症とその予防

a.出 血

b.穿 孔

c.狭 窄

3.内視鏡的治療PDT

1.PDTの歴史と原理

2.PDTのこれまでの治療成績の報告

3.具体的な治療方法

4.PDTが適応となる食道癌

5.Barrett粘膜

6.PDTを行 った食道癌症例

4.手術療法―食道抜去術

1.手術適応

2.手術手技

a.非開胸経食道裂孔的食道切除・再建術

b.食道抜去術(翻転食道抜去術)

5.手術療法―食道抜去術を除く開胸手術

1.食道表在癌リンパ節転移の特徴

2.食道表在癌に対する手術療法

a.頸部食道癌

b.胸部食道癌

c.腹部食道癌

6.手術療法―内視鏡下食道手術 早期食道癌に対する内視鏡下手術―腹臥位による胸腔鏡下食道切除術―

1.特徴と歴史

2.手術適応

3.手術の実際

a.胸部操作

b.胸腔内手術操作

c.腹腔内手術操作と頸部手術操作

d.腹臥位による胸腔鏡下食道切除術の利点と注意点

e.左側臥位

7.放射線療法および化学放射線療法

1.治療成績

a.根治的照射

b.内視鏡的治療との併用

2.表在癌に対する放射線治療

3.合併症と経過観察

8.化学療法

1.これまでのCRTの報告

2.CRTの新しい臨床試験

3.化学療法の副作用とその対策

9.内視鏡治療にて残存が疑われる場合

1.水平切離断端の遺残

2.垂直切離断端の遺残

10.Barrett食道癌に対する治療

1.Barrett食道・Barrett食道癌の頻度

2.Barrett食道癌の初期内視鏡像

3.表在性Barrett食道癌の治療方針

4.症例

11.食道癌診断治療ガイドラインからみた早期食道癌の診療

1.早期食道癌の定義

2.食道癌診断・治療ガイドラインの概要

a.食道癌の診断

b.食道癌の治療

12.インフォームド・コンセントと治療方針の決定

1.インフォームド・コンセント総論

a.インフォームド・コンセントの理念と目的

b.インフォームド・コンセントの具体的なあり方

c.インフォームド・コンセントの問題点

2.早期食道癌の治療法の選択とインフ ォ ームド・コンセントの実際

a.T1a-EP~T1a-LPM食道癌の治療法

b.T1a-MM~T1b(SM1)食道癌の治療法

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書籍情報

  • ISBN:9784498043480
  • ページ数:178頁
  • 書籍発行日:2012年1月
  • 電子版発売日:2012年8月18日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
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