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- 実験医学増刊 Vol.35 No.5 生命科学で使える はじめての数理モデルとシミュレーション
商品情報
内容
数理科学的な手法を取り入れてみたいけど,ハードルが高そう…とお思いの方は多いのではないでしょうか.本書は医学の実験や医療現場に携わる方々が,日頃考えておられる仮説や目標を数式であらわし,シミュレーションやデータを使って検証するにはどうすればよいかを,具体的に会得していただくことをめざして編集された一冊です。
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序文
~読者へのメッセージ~
数学と医学は,生体工学機器の動作原理や測定法,逆源探索技術の開発,実験データや電子データの分析,管理などにおいて協働してきた.本書が紹介するのはそれらとは異なる新しい協働,すなわち数理モデルを用いた生命科学研究である.
2015年にまとめられた数学協働プログラム提言「数理生命科学」(http://coop-math.ism.ac.jp/info/coop-math-life)は,数理モデルと生命科学の関係を詳細に分析したものである.そこでは最初に,生命科学が生命現象に対応して発達してきたことを,集団・群衆に対する集団遺伝学・進化生物学・生態学,個体(部分系)の生理現象に対する生理学・医科学,細胞集団(組織)・形態形成に対する発生学,細胞機能に対する細胞生物学,生体分子(遺伝子・酵素)に対する分子生物学・生化学として掲げ,次に「数理生命科学」はそれらとは異なり,幅広い現象に共通する概念・知識を確立するものであることが謳われている.また既知の情報から未知の機構の可能性を絞り込む方法として,モデルからトップダウンに絞り込むモデル科学(時間発展ダイナミクス,時空間ダイナミクス,エネルギー・ポテンシャル,制御・最適化・ゲーム)と,実験データからボトムアップに絞り込むデータ科学(情報処理,確率モデル,統計と機械学習,ネットワークとヒューマンインターフェイス)の2つの方向があるとしている.
本書の諸論文は,まさにそれらの最先端の状況を描写するものである.しかし,その目的とするところは数理生命科学自身ではなく,「実学としての数学」は医学にどのようにかかわっていくことができるかという,具体的方法の提示である.
ここで,2つのことを申し上げたい.1つは,基礎医学研究が理論の構築をめざしているということである.仮説を立て,実験を設定し,測定値から証明する実験医学のプロセスは,数学の定理を証明する営みと同一であり,それゆえに基礎医学の理論の多くは数式で記述することができるのである.2つ目は,臨床医学における理論の重要さである.患者が望むのは,基礎研究に基づく病態,治療戦略,予後予測についての,現在知りうる最善の方策の丁寧な説明であって,「こうなるのが定説である」という宣託ではない.
本書は,医学の実験や医療現場に携わる方々が,日頃考えておられる仮説や目標を数式であらわし,シミュレーションやデータを使って検証するにはどうすればよいかを,具体的に会得していただくことをめざして編集した.例えば,細胞,分子を文字であらわし,反応経路を数式で記述することは特別な技術が必要なことではない.また少しの努力で,シミュレーションも容易に行える環境を整えることができるようにもなっている.実験データの分析に,数式から演繹的に出てくることを加味すれば,医学研究は偶然よりも必然が支配的となり,あたかも鶴亀算から初等代数に跳躍したように,研究の進展は加速するに違いない.
現代は1~2年前には想像もできないことができるようになっている時代である.本書によって,多くの読者が数理モデルと数値シミュレーションに興味を抱くことを願っている.
2017年2月
鈴木 貴
目次
[Overview]生命科学研究に数理モデルとシミュレーションをとり入れる際の基礎知識
第1章 数理科学の基礎知識
~データから理論を導く代表的な考え方
1.システム生物学―数理科学を用いる「いろは」とめざすもの
2.バイオインフォマティクスの全体像
3.反応拡散型数理モデル―分岐構造を通した数理モデルに対する一考察
[Column]基礎研究における統計解析の重要性―Nature誌のチェックリストを紐解く
第2章 数理解析に適したデータの取得法と分析法を知る
1.医学研究における交絡と回帰モデルによるバイアスの調整
2.細胞内パラメータを測定するという研究志向
3.がん研究における定量生物学の重要性
4.ホモロジーの概念を用いた組織画像解析法
5.医用画像データの混合ガウス分布モデルによる分析
6.多チャネルからの生体磁気データの信号処理
7.臨床・医療データの活用
第3章 モデリング・シミュレーションの戦略と方法を知る
1.公共ハイスループットChIPデータを用いた遺伝子制御ネットワークの構築とその活用法
2.DNAバーコードによる生命科学実験の限界突破
3.数理モデル解析を用いたシグナル伝達機構の解明―ErbB受容体の負のフィードバック制御の解析事例
4.ライブイメージングに基づくシミュレーション解析
5.医工学技術開発における生体膜分子シミュレーション
6.高次現象のシミュレーション法―揺らぎを入れたシミュレーションによる血管新生の再現を例に
7.細胞変形の数理モデリングとシミュレーション法
8.生物機能のコンピューター支援設計(CAD)―大規模生体分子ネットワークのシミュレータ
第4章 生命科学・医学研究における事例に学ぶ
Ⅰ.分子動態
1.細胞接着分子CADM1複合体の動態解明―指数関数あてはめを用いたFRAPデータの解析
2.NF-κBの4D細胞シミュレーション
Ⅱ.シグナル伝達
3.血糖恒常性システムの数理モデル解析
4.炎症シグナルにおけるp38活性オシレーションの解析
5.確率的なERK活性化と細胞間伝搬現象の数理モデル
6.リン酸化プロテオミクスに基づく数理ネットワーク解析
Ⅲ.細胞動態
7.魚類個体発生で観察される周期的な細胞周期進行波―イメージングと数理モデルで隠れたパターンを推定する
8.ゼブラフィッシュのチューリングパターン形成メカニズムの解析
9.時空間的なシグナルの検出とは何か?―這いまわる細胞の走化性を例に
10.血管を伸長する細胞メカニズムの解析
11.上皮形態形成のメカニズム解明に向けた数理モデル
Ⅳ.代謝
12.細胞内中心代謝フラックスの解析
13.代謝ネットワークを用いた微生物生態系の可視化
Ⅴ.生理機能
14.神経応答のモデリング―Ca2+イメージングを用いて
15.睡眠研究における神経膜電位の数理モデリング
Ⅵ.その他の生命科学・医学応用
16.ウイルス感染の数理科学的理解
17.発がん過程の進化プロセスとしてのモデリング
18.データ駆動型の創薬―統計的手法を用いて
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書籍情報
- ISBN:9784758103619
- ページ数:239頁
- 書籍発行日:2017年3月
- 電子版発売日:2019年2月15日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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