序

救急に特徴的な疾病って確かにあるよね．多発外傷，環境救急（熱中症），尿管結石などはうまい具合に救急にやってくる．予約をして外来に来る多発外傷なんてないけどね...．救急現場では見逃しが直接患者の予後に影響を及ぼしたり，手順ひとつが遅いと患者の満足度に影響を及ぼしたりする．なかなか教科書どおりには行かないのが臨床だ．ポストレジデントは一通りの診断や治療法は学んでいるが，果たしてそれが世界の標準かどうか，アップデートされた内容なのかどうかが気になるもの．「日々是，精進」しかないのが，医者と言う職業の宿命か...．

文献も新たに「ステップビヨンドレジデント３」を世に出すことになった．文献やエビデンスは確かに大事で，目の前の患者に「世界的標準的治療をしていますよ」って医者が胸をはれるかどうかは，医者のプライドにもかかわってくるものである．また，研修医に『自分の病院だけにしか通用しない偏ったエビデンス』を提供しているのではないことを示すにも役に立つ．ただし，ちょっと待った．ただ勉強好きなおっさん，おばさんと思われたのではしゃくに障る．あくまでこれらエビデンスは臨床に応用するからこそ意味があるのであって，動物実験でこねくり合わせた実験結果をおっかけているわけでないことを証明しなければならない．「臨床家は臨床，命」であって，文献検索やお作法シミュレーションにうつつを抜かしている暇はないのだ．研修医教育もOff thejob training（仕事場を離れて行う講演会やシミュレーション訓練）で楽しく和気あいあいと勉強するのはとても大事だが，あくまでも肝はOn the job training（仕事場で患者と対峙して勉強する）である．机上の知識はたかが机上の知識だ．知識と実践が融合しないと役に立つものではない．現場でこそ本物の力は磨かれ，現場でこそ本物の声が形成されるのだと信じている．一臨床家として，研修医に目の前の患者にベストなことは何かを議論できる知識と技術と態度を見せつけられるような臨床家がひとりでも多く育つことを願う．私も「日々是，精進」の毎日で，まだまだ発展途上の人間であり生意気なことを言うのは恥ずかしい限りだが，「ステップビヨンドレジデント」の読者のポストレジデントにはぜひ，研修医のロールモデルになって欲しい．臨床力をひけらかして研修医にいばってもらえるように，少しでもこの「ステップビヨンドレジデント」が役立てればと切に願う．いわば，「知識の武装」（シャキーン！）をして臨床現場に乗り込む突撃隊長の応援歌ってところかしらん．頑張れ，実働部隊のポストレジデント！

おぉっと，そこの研修医君，本書は君にはまだ早いよ．基礎固めのできたポストレジデントじゃないと理解できないから出直しといで．さぁ大人の世界「R指定：医学部卒後３～５年以上で臨床場数を踏んできたポストレジデント限定」へ，ようこそ．

いつもながら本の編集にお世話になった羊土社の久本氏，保坂氏，大政氏，そして久々に男性登場の中林氏に感謝する．アリガトネ！

平成18年 7月吉日
林 寛之