忙しい人のための代謝学

  • 書籍発行日 : 2020年3月
  • 電子版発売日 : 2020年4月15日
3,520
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商品情報

内容

時間に追われる臨床・研究の現場で必要な「代謝」の知識を,身近な例えでわかりやすくまとめました.「代謝は苦手」「覚えることが多すぎて難しい」――そんな印象をがらりと変える,学び直しに最適な1冊!

序文

はじめに

私はいろいろな病院で優秀な研修医の先生をはじめ若手の先生方とお話しする機会が増えてきましたが、気になることが一つあります。医師は人間の体というれっきとした動物を扱う専門職であるにもかかわらず、ある分野の基本的な生物学の知識が全く高校生レベルにとどまっているということが度々ありました。

それはミトコンドリアが関与する生化学の分野ですが、例えば自分は糖尿病の専門医になりたいと希望している若手医師の方に解糖系のことを聞くと、「グルコースがピルビン酸になること」と 、高校生と同じことしか言えないというようなことがあったのです。糖尿病や代謝疾患を専門にしようと志した若手医師でさえそのありさまですから、他の分野をきわめようとする医師の方々に至っては言うまでもありません。皆さんはグルコースの欠乏状態でグリコーゲンや中性脂肪がどのようにエネルギー代謝をバックアップしているか答えられるでしょうか。

これは若手医師の方々が不勉強である、あるいは学生時代に不勉強であったということを言っているのではありません。医学研究の進歩があまりにも早すぎたために、医学部の教科内容が高校生物の段階をずっと超えて、遠い遠いはるか先の彼方へ行ってしまったからなのです。高校生物を修了して医学部に進学してきた学生にとって、やっと数を数えられるようになったばかりの子どもが九九演算も知らないまま、因数分解や微分積分を学習させられるような状況かもしれません。さらに悪いことに、医学部で教鞭をとられる教員の方々にしてもご自身の学生時代は同様だったはずです。高校生物の終着点と現代医学の最前線のギャップがあまりにも大きく、自分も学習しなかったこと、教えて貰えなかったことを、次の世代に学習させられない、教えてあげられない、しかも自分は医学の最前線で研究の成果を上げたことで医学部教員に抜擢されたわけだから、高校生物と現代医学の狭間の部分をどのように教えてよいかわからない、そういう悪循環はたぶん私が医学部学生だった頃からすでにはじまっていた構造的な問題なのだろうと思います。

私は生化学が専門ではありません。医学部卒業後 7年間は小児科や産科で特に周産期医療に従事しました。それから 30年以上は病理診断を仕事にしてきました。しかし幸いなことに、私は学生時代にハーパーの生化学の原書を一気に読んで生化学にはずっと興味をもち続けてきました。素人なりに生化学を学んできたのです。素人なりに広く浅く(薄っぺらく)興味をもっていると、周産期医療をやっていても、病理診断をやっていても、生化学こそ医学の基本だと思えるようになりました。生化学、それも人間はどうして動けるのかというエネルギー代謝の視点が大事なのです。この視点をもたないとたいへんな過ちに陥る恐れがあります。例えば中性脂肪を減らすために油っこい食事をやめるだけでは不充分です。

私は 10年以上 、臨床検査技師の学生を教える立場にもいました。私はそこで病理学と一緒に、エネルギー代謝を中心にした基本的な生化学の講義をしてきました。昔の卒業生が何人も、あの講義のお陰で生化学が理解できたと言ってくれますが、素人なりに広くまとめた生化学の講義だったからこそ、学生たちには理解しやすかったのかもしれません。そこで最近の優秀な研修医の先生方や医学生にもそれと同じ内容の講義をしてあげたいという思いで書いたのがこの本です。何しろ他の勉強も忙しい人たちのことですから、1 日か 2 日のうちに一気に読めるような本、また手元に置いておけば将来何かにつけて見直すこともできる本、そんな都合のよい本にするつもりで書いてみました。素晴らしい業績のある教員の先生方は、医学の最前線の講義をされながらも、その内容が高校生物の知識とどのような接点をもっているのかを意識しながら、さらに素晴らしい講義にするための一助にしていただけたら幸いです。

また本書は必ずしも医療・生物学の専門家や専攻学生だけのためのものでなく、高校生物の教科書やテレビの科学番組などの知識に物足りなさを感じている一般の方々にも読んでいただけるよう、なるべく難しい専門用語を避けて平易な言葉で解説するよう心掛けました。どうぞ手にとっておもしろそうだと感じたら、さっき食べたものは今頃どうなっているだろうなどと、具体的にご自分の体の内部に思いを巡らせながら読んでいただければ幸いです。

田中文彦

目次

はじめに

第1章 植物と動物

もし生まれ変われたら

植物と動物の本質

植物と動物の決定的な細胞内小器官

葉緑体とミトコンドリアの起源

電子伝達系は細胞の発電所

酸化反応と還元反応の定義

生体のエネルギー通貨:ATP

第2章 動物エネルギー産生

血液中から細胞内に取り込まれたグルコースはまず解糖系へ

各代謝産物に含まれる炭素原子数は必須知識

解糖系では1分子のグルコースから2分子のATPが得られる

解糖系からTCA回路への受け渡し

TCA回路の脱水素反応

ATP産生の総決算

動物のATPは3つの化学反応以外では産生されない

第3章 肉食動物の場合

ライオンはパンで生きるにあらず

糖新生における最大の難関

リンゴ酸はシャトルに乗って

アミノ酸からの糖新生

アミノ酸からの糖新生にはアミノ基転移反応が必要

糖新生を介した肝臓と筋肉の協調

腎臓は有力な糖新生臓器

第4章 補助燃料タンク(グリコーゲン)

食物は常にあるわけではない

グルコースは細胞内の囚人である

グリコーゲンを貯めて絶食に備える

肝臓と筋肉ではグリコーゲンの利用法が異なる

グリコーゲンを利用できない糖原病

第5章 補助燃料タンク(中性脂肪の分解)

中性脂肪とは

グリセロールは糖新生へ

脂肪酸はβ酸化でアセチルCoAを経てTCA回路へ

脂肪酸のβ酸化だけではTCA回路が空焚き状態になる

糖尿病の本質

トランスポーターとチャネル

糖尿病とは細胞内飢餓である

第6章 補助燃料タンク(中性脂肪とコレステロールの合成)

中性脂肪分解はミトコンドリアの内、合成は外

クエン酸もシャトルに乗って

脂肪酸は分解も合成も炭素2個ずつ

肥満対策はまず運動

コレステロールもアセチルCoAが原料

脂肪やコレステロールの特殊運搬車リポタンパク質

第7章 ビタミンB群の関与

ビタミンとは何か

支離滅裂なビタミンB

かつては国民病だったB1欠乏症の脚気

B2とB3は酸化還元反応の立役者

コエンザイムAの部品となるB5

その他のビタミンB群

第8章 アミノ基転移反応とアンモニアの処理

トランスアミナーゼの働き

酸化的脱アミノ

尿素回路でアンモニアを無害化

尿素回路は二酸化炭素でスタート

肝門脈がなければ人は即死する

肝臓のさまざまな機能を支える構造

肝硬変の危険性

アンモニアは生体に必要な素材でもある

グルタミンとグルタミン酸

第9章 ヘムの合成

ヘモグロビンの構造

ヘムはミトコンドリアの中で生まれる

ヘムはミトコンドリアの外で成長する

なぜ胎児期の造血は肝臓と脾臓でなければいけないのか

ヘムは再びミトコンドリアに帰る

ヘムはミトコンドリアの中で鉄と出会う

第10章 赤血球の代謝と機能

赤芽球の脱核とは

解糖系だけが赤血球の命綱

赤血球の解糖系の特殊性

ヘモグロビンの酸素解離曲線

酸素解離曲線の右方移動

赤血球は自己犠牲の健気な細胞

第11章 素材としてのグルコース

燃料にならないグルコース〜五炭糖経路

五炭糖経路の産物

第12章 代謝各論

解糖系しか使えない細胞もある

赤筋と白筋

代謝は脳が最優先

がん細胞は解糖系優位

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書籍情報

  • ISBN:9784758118729
  • ページ数:0頁
  • 書籍発行日:2020年3月
  • 電子版発売日:2020年4月15日
  • 判:A5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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