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- 症例から学ぶ高齢者疾患の特徴とその対応
商品情報
内容
老健施設にて高齢者特有の疾患を日常的に多数診療している著者による、専門家や一般医家とは違った観点から、高齢者の特徴を踏まえた治療学書。この一冊を手元におけば、質の高い高齢者医療を自信をもって実践できることまちがいなし。
序文
序
わが国の65歳以上の高齢化率は2010年度で23.1%,そして2050年には39.6% に上ると推測されている.トップを走って老いている.高齢社会は色々な問題を生み出す.医療の面でも新たに解決しなければならない難問は次から次に出てくるであろう. 高齢者は他の年代に比較して有病率や有訴者率がきわめて高い.このことを踏まえて高齢者のための適切な医療対策を立てることも緊急な課題となるであろう.高齢患者は色々な疾患を持っているが,入院をして高度の治療を受けるのは稀である.外来で経過観察を受けているのが一般的である.ただ慢性で複数の疾患にかかっている高齢者が5 分間診療といわれている外来の経過観察だけで,質の高い医療が確保できるのか,色々な方面から検討されるべきであろう.最近発売された糖尿病新薬のインクレチン関連薬による低血糖発作や高血糖による死亡事故は高齢者に集中的に認められた.これは,高齢者の特徴を踏まえた医療が臨床の場で必ずしも行われていないことを示すのかもしれない.
私ごとではあるが,大学を辞めて残りの人生をどう送ろうかと考えたとき,超高齢社会を迎える現実を前にして,高齢者の医療に貢献ができれば罪の多い人生を送ってきたものの,ささやかな罪滅ぼしになると考え介護老人保健(老健)施設で働くことにした.それまでは,県立病院での5年間の消化器医長の時代を除いて,専門領域である血液疾患だけを診ていればよかった.しかし現在の職場は,高血圧,脳卒中後遺症,心不全,呼吸器疾患,糖尿病,尿路疾患,皮膚疾患そして認知症と幅広いレパートリーの多臓器の疾患を診なければならない.今振り返ると,老健施設での4年間は,それまでの40年間で学んだことよりはるかに多くのことを学ぶことができた.学会から出ているガイドラインを参考にしながら患者の診察に当たったが,ガイドラインは必ずしも臨床の場で直面する問題点にはっきり答えていない.解決しなければならない問題については,外国の臨床データを使った解説が多かった.
このような事情であれば,治療学の参考書を手元に置いて困ったことを自分で工夫していく以外ないと腹をくくり,色々な失敗を重ねながら,職場がら主に治療学を磨きあげることに集中した.幸い5 分間で診断し治療するという離れ業をしなくても,24 時間,最低1 カ月間位は容態を観察できるところで働いている.患者は在宅復帰を目指すものから,施設での死の看取りを希望するものと幅広い.2年くらいたった頃,自分なりの高齢者医療のイメージができ上がってきた.そしてその後の2年間は,私の治療方針が本当に役立つのかの検証をした.そして専門家や一般医家とは違った観点から,高齢者の特徴を踏まえた治療学を提案できると確信した.
今回,その成果を医学書という形で世に出す機会が与えられた.プライマリー・ケアに携わる医師も,今回紹介した症例にご苦労されているであろう.高齢者を多く預かる高齢者施設で働かれる医師も,広範囲にわたる疾患の対応に苦慮されていることであろう.本来ならすべての医師がどのような医療を行っているかの記録を出し,複数の医師でその内容を検討して望ましい高齢者医療を作り上げていくべきであろう.残念ながら,臨床に即した実際の記録は私が渉猟した中にはなかった.よりよい高齢者医療を作り上げるための議論のたたき台として,大いに本書を使っていただきたい.
どのような批判も歓迎する.高齢者医療は医師が担えばうまくいくという領域ではない.加齢現象というすべてのものが避けがたい,現代の医療では十分対応できない病態はいくらでもある.高齢者医療はある時点でcure からcare へと力点を移していかなければならない.Cure からcare に移るとき,看護師,介護福祉士そしてリハビリスタッフなどのケアスタッフの果たす役割は大変重要である.高齢者医療は医師だけで行うものではなく,ケアスタッフとの共同作業,いやケアスタッフが主役として活躍する場合も多い.今回の本をケアスタッフの方々にも読んでいただき,ケアの質を上げるためにも是非役立ててほしい.医師が頭脳明晰で特別なことをしているのではない.医療知識を理解すれば,今まで以上のきめ細かいケアを安心して行えるようになるであろう.高齢社会でのケアスタッフの果たす役割の重要性を再認識していただきたい.
本書の中の高齢者は,70歳以上の方,超高齢者は85歳以上の方を対象とした.ただ70歳くらいで肉体的にも精神的にも超高齢者と呼んでいい人や,逆に100歳近くでも肉体年齢は70歳代前半の方もおられる.高齢者,超高齢者と呼んでも厳密な定義があるわけではない.また治療学は日々新しくなる.今回紹介した治療薬は現時点で私自身が手ごたえを感じているものをあげた.将来より有効な新しい薬が登場するであろう.処方を繰り返し見直し,より効果のある薬を使用していただきたい.
また本文中では,実際使っている商品名を身近に感じていただくために書いた.□□®と記載するのが一般的であるが,煩雑な印象を与えるので本文中は省いたことをお許しいただきたい.
本書は,私の同僚であるすべての諸君の助けででき上がった.とくに直接貴重な情報をくれた看護師の高橋雅人,泉田策示,西原壽恵子,片山優子氏,介護福祉士の竹村真一,廣瀬和美,辻井佑介,樋口健太郎氏,理学療法士の牧勝広氏,管理栄養士の太田知見氏そして薬剤師の成田妙子,掘岡恵氏の協力なければ書き上げられなかった.深く感謝したい.また貴重な患者情報を提供して下さった京都桂病院,洛西ニュータウン病院そして洛西シミズ病院の諸先生方にもお礼を申し上げたい.
最後に,老年学の権威でもない私の原稿を読んで,出版の決断をして下さった金芳堂の三島民子氏の編集に際しての貴重な助言に深く感謝する.氏の見識と編集上の工夫がなければこの本は日の目を見ることはなかったであろう.
ともあれ世界に先駆けて高齢社会に突入するわが国は,どのようにしてコストの低い質の高い高齢者医療を確保しているかについて,世界に模範を示すべきであろう.そのような役割をこの本が果たしてくれることを心から願っている.
平成23年 4月
寮 隆吉
目次
1.心疾患
A.高齢者の心疾患の特徴
B.頻拍性心房細動を来たした症例
C.無症候で亜急性心筋梗塞であった症例
D.血管確保
2.呼吸器疾患
A.緊急な対応を要する呼吸器疾患
B.誤嚥あるいは嘔吐によって誤嚥性肺炎を来たした症例
3.意識障害
A.心房細動に合併した脳塞栓症の症例
B.抗血栓療法
C.高血糖と肝障害に合併した意識障害の症例
D.肺がんの脳転移による意識障害を来たした症例
4.血液疾患
A.貧血―鉄欠乏性貧血
B.MCHCが低下していた鉄欠乏性貧血の症例
C.鉄欠乏性貧血があったが鉄剤投与だけで原因検索を行わなかった症例
D.鉄欠乏性貧血以外の貧血
E.白血球増多症
5.認知症
A.認知症の症状
B.認知症の種類
C.幻視に対してリスペリドン投与が増悪を招来したレビー小体型認知症の症例
D.認知症のステージング
E.認知症の治療
F.改変センター方式
G.認知機能検査
H.せん妄
6.高血圧症
A.高齢者高血圧の特徴
B.高齢者高血圧の治療
7.2型糖尿病
A.食事療法の原則
B.経口糖尿病治療薬の特徴と使い方
C.インスリン注射を拒否して経口糖尿病治療薬だけで血糖管理ができた症例
8.高齢者によく見られる電解質異常
A.低ナトリウム血症を来たした症例
B.低カリウム血症を来たした症例
C.高カリウム血症を来たした症例
9.皮膚疾患
A.老人性乾皮症と老人性掻痒症
B.脂漏性皮膚炎の症例
C.皮脂減少性皮膚炎の症例
D.蕁麻疹の症例
E.白癬症
F.疥 癬
10.感染症
A.発熱患者の鑑別診断
B.DICの合併が疑われた蜂窩織炎の症例
C.弛張熱を認め肺結核症であった症例
11.ノロウイルス感染症
A.嘔吐が続いたノロウイルス感染症の症例
B.嘔吐と下痢が続いたノロウイルス感染症の症例
C.ノロウイルス感染症発症時の対策
12.経皮内視鏡的胃ろう造設術(PEG)
A.PEGの適応
B.PEGを勧められて拒否したが,その後経口摂取が可能となった症例
C.家族間や医師の間で意見が分かれてPEGを行った症例
13.死の看取り
A.リビングウイル
B.積極的な医療処置をしないで看取りを行った症例
C.経口摂取が不可能になってから維持液輸液,脂肪製剤そして出血傾向に活性型ビタミンKの投与を要した症例
D.口腔ケア
E.褥瘡対策
14.ケアに難渋するケース
A.転 倒
B.転倒を繰り返した超高齢者の症例
C.頻 尿
D.前立腺肥大症
E.アリセプトを中止して頻尿が改善した症例
F.神経因性膀胱と過活動膀胱
15.高齢者への投薬
A.入所時の処方と入所中の処方の比較
B.先発医薬品と後発医薬品
●付録・資料
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書籍情報
- ISBN:9784765314855
- ページ数:120頁
- 書籍発行日:2011年6月
- 電子版発売日:2012年6月21日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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