耳鼻咽喉科の診療を行っていて，これはどのように検査・診断・治療を進めていけば良いか苦慮することがあります．そのような場合，陥りやすい落とし穴（ピットフォール）について の知識があり，それに対処するコツを知っていると的確な診療を行うことが可能です．本書は，ピットフォールとその対処法について，クイズ感覚で読んで頂ける書籍として企画しました．　通常の教科書とは異なり，症例ごとにQuestion ＆ Answer という形式をとり，どこからでも気楽にパラパラとめくりながら読んで頂けるように，それぞれ2 頁または4 頁の読み切りとしました．日常臨床に即した形で疑似体験をして頂くために，病歴および局所写真や画像写真などをQuestion とともに最初の頁に提示しました．そして，鑑別すべき疾患を思い巡らして頂いた上で，次頁にAnswer として，検査・診断・治療について解説を行うというスタイルにしました．

症例は，「耳」「鼻副鼻腔」「咽頭」「喉頭」「頭頸部」「その他」の6 つの部位に分類し，全部で50 の症例を挙げています．内訳は，「見逃しやすい症例」「注意すべき症例」「診断に苦慮した症例」「新しい疾患概念が確立された症例」「新しい検査方法や治療方法が開発された 症例」「比較的まれな症例」となっています．

時代のニーズに沿った耳鼻咽喉科診療の知識と最新の情報が満載されており，若手からベテランまで幅広い先生方のお役に立てるものと確信しています．日常診療の中でピットフォール となる盲点をついていますので，お手元に一冊おいて困った時に活用して頂ければ幸いです．

その他，診療に関することだけではなく，クレーマーや迷惑患者に対する応対や，送り付け図書への対策といった社会医学的な側面についても触れています．また，随所にコーヒーブレー クやトピックスを挿入しましたので，診療の合間に疲れた脳細胞をちょっと癒してください．

執筆者は，過去に広島市民病院に勤務した経験があり，現在は大学病院や基幹病院で豊富に診療をこなしておられる中堅医師，および現在の当院医師を核としました．さらに，編者 が岡山大学病院に在籍中に入局され，その後，各専門領域の第一線で活躍されている，岡野，福島，假谷，門田の4 名の先生方に加わって頂きました．熱意を持って症例を集め貴重な時間を割いて寄稿して頂いた16 名の執筆者に深謝致します．

本書を発行するに当たり，機会を与えてくださるとともに監修を御快諾くださいました自治医科大学副学長市村恵一先生に，心から謝意を表します．また，本書発行のきっかけを作ってくださいました滝口耳鼻咽喉科医院院長滝口峻先生に厚くお礼申し上げます．最後になりましたが，一冊の本として纏めて下さいました金芳堂の三島民子様に感謝申し上げます．

本書が耳鼻咽喉科診療の一助になれば望外の幸せです．

2012年4月

編集代表 井口 郁雄