刊行にあたって

平成19 年4 月の第5 次医療法改正に伴い，平成20 年度より厚生労働省は地域連携パスを使用したシームレスな医療連携を各自治体に義務づけました．これを受け全国の自治体ではそれまでの保健医療計画を見直し，特に生活とのかかわりの深い4疾病（脳卒中，がん，心筋梗塞，糖尿病）について重点的に地域連携を推進することになりました．具体的には「地域連携パス」を活用して急性期から回復期，維持期（在宅）に至るまで，患者の移動に伴って切れ目のない途切れない医療を提供することを推奨しています．この事業は医療にとどまらず，保健，福祉をも巻き込んだ地域連携を目指すものです．

都道府県の歯科医師会は生活との関わりの深い歯科医療をこれら4 つの疾患の連携内に組み入れることを要望し，厚生労働省も在宅医療の充実を推進する立場から「歯の健康力推進歯科医師等養成講習会」と銘打って在宅訪問歯科医療に積極的な支援を行っています．このため，今後在宅訪問歯科診療の需要は増加し，それに伴う全身管理の必要な患者の歯科治療も増加すると思われます．また，口腔ケアや摂食嚥下機能の改善に寄与する歯科医療も必要となります．私たちはこれらの口腔機能に関わる歯科治療，ケア，リハビリテーションなどを総称して「オーラルマネジメント」と称することを提案しています．

現在，在宅医療を希望する患者は多く，わが国の経済逼迫を招く医療費の増大をなんとしても食い止めたい政府は，今後在宅医療にその活路を見いだそうとしています．周術期の口腔機能管理が術後合併症を予防し，在院日数を減らすという病院医療にとって喜ばしい成果が，平成24 年度の診療報酬改定で保険収載されていましたが，在宅医療においても口腔の管理はQOL 向上には欠かせないものです．しかし，一方で在宅訪問歯科診療を実施している歯科医師は20％を切っている状態です．このため歯科医師，歯科衛生士の再教育が必要となり全国的に講習会が持たれ，そのテキストの上梓が待たれているところです．

全国に病院は約9000 ありますが，歯科を併設している病院数は1200 程度（13％）といわれています．医科－歯科連携が十分にとれている病院はさらに少ないと思われます．歯科を併設しない病院では，入院患者の口腔ケアを開業歯科医院に依頼することになります．開業医の先生方にとって病院は敷居の高い場所であり，訪問診療が進まない一因にもなっています．本書は急性期―回復期―維持期すべての病期にわたる口腔管理方法を網羅しているため，病院に訪問する歯科医師にとっても最良の書になると考えています．本書の刊行において，在宅，施設，病院への訪問歯科診療が活発になり，多くの国民がより安全に快適に歯科医療を受けることができるよう願っています．

最後に，本書は起案から刊行まで2 年余りを費やしたが，この間，叱咤激励しながら辛抱強く支えてくれた金芳堂の一堂芳恵さん，村上裕子さんに心よりお礼を申し上げます．

平成24 年5 月

神戸常盤大学短期大学部
口腔保健学科
教授　足立　了平