監修者改訂の序

2006年6月に「エコ蔵じいさんの楽しい超音波診断Handy Text①」が誕生し，今回改訂2版が刊行されることになりました．したがって，今回の第2版の刊行まで約6年間を経過したことになります．やや長時間を費やすことになったわけですが，当方にとっては誠に有難いことで，いずれにしても改訂2版の発行が遂行されたことを素直に喜んでおります．

その理由は，日進月歩の画像診断の領域では改訂版を出版することは，なかなか至難の業であると思われるからです．この場を借り金芳堂に対して敬意を表したいと思います．

Handy Textシリーズは，白衣のポケットにも入れて，気軽に活用していただくことを願って発刊された手軽な超音波診断シリーズなのですが，これまで①腹部，②心臓，③乳腺・甲状腺・唾液腺，④頸動脈，⑤下肢動静脈と既刊されています．本書は，このHandey Textシリーズの中でも，保守本流とも言うべき，シリーズ最初の腹部の成書なのです．

ところで，今回の改訂2版の特徴ですが，これまでの第1版に加えて，種々の領域から大幅に新たな症例数（38症例）を増加して内容を充実させたことがまず挙げられます．

次に，目前の超音波像を患者さんの背景を考慮させるために，「患者背景を知る」という概念を追加記載したことです．すなわち，超音波検査の本質は，予め定められた超音波画像を提供するという消極的な検査法ではなく，目の前の患者さんの背景から「おそらく，このような所見が得られるはずであるので，その画像を必ず探し出す」という積極的な姿勢で臨むことが大切であるからです．

もちろん，「エコ蔵じいさんの楽しい超音波診断」の最大の特色である，漫画チックなエコ蔵じいさんの人形キャラクターを存分に活用しています．文字や写真だけを提供している成書は数多くあると思われますが，本書はそれだけではなく，エコ蔵じいさんの人形キャラクターを介して，3Dのイラストが作成されているので，非常に判りやすく，かつ容易に，楽しみながら超音波診断をマスターしていただけることが特徴です．その裏付けとしては，CTデータの再構成画像を利用したMPRを活用することにより，自信をもってイラスト画像を作成できたものと考えられるわけですが，これも中村滋先生のアイデアによるもので感服せずにはおれません．

また，超音波写真を理解するための，解説ナビとも言うべき，イラスト画像は他の成書では絶対に得ることができないものです．必要な情報は強調し，不必要な情報は徹底して省略させているのが特徴です（機会あるごとに言及しておりますが，中村滋先生はこのような効果的な超音波イラストを描くことができる世界で唯一人の人物であると確信しております）．その証拠に，韓国や中国から出版させてほしいという夢のような話が進んでいることを言及させていただきたいとおもいます．

また，初版で記載されている「すぐに役立つ各種疾患のUS像のまとめ」や「腹部エコーの臨床現場で便利な英略語集」などの参考資料はいずれも残存させており，超音波診断に関する十分なる情報は得ることが出来るはずです．

以上のように，本書はこれまでの十分納得していただける内容にプラスして，さらに新しい知見を存分に加えて，かつこれまでかつてなかったような充実した内容の成書に完成することができたのが「エコ蔵じいさんの楽しい超音波診断Handy Text①　腹部」改訂2版ということです．

したがって，これまで，残念ながら超音波検査に従事する機会がなかった医療関係者（医師や技師の先生方をはじめ，検査のアシストに従事されている看護師さんなど），さらにはこれから超音波検査に従事したい，否従事しなければならない学生諸君にも大いに活用していただきたいと切望しております．

最後になりましたが，本書発刊に際して並々ならず努力をしていただき，最初から最後まで大変お世話になりました金芳堂の市井輝和社長に厚くお礼申し上げます．

2012年 8月

朝井 均

改訂版のまえがき

今から丁度10年ほど前になるでしょうか．本書の最も重要な「売り」である，人形イラスト：「エコ蔵じいさん」が誕生したのは，朝井先生にお教えを請いながら，本当に真っ暗闇のなかの手探りで，自分なりに初めて「本」という形で知識を纏める練習をし，初版「エコ蔵じいさんの楽しい腹部超音波診断」を完成させることが出来ました．そしてその数年後には，本書の初版である「エコ蔵じいさんの楽しい超音波診断Handy Text」なるシリーズ本の発行がスタートしました．小さなポケット本ながら，①腹部，②心臓，③乳腺・甲状腺・唾液腺，④頚動脈，⑤下肢動静脈と，連続して発行，あげくの果ては，「エコ蔵じいさんの歌」なるものにまで手を出してしまったという次第です．（楽譜は本シリーズ⑤下肢動静脈編に載せさせて頂きました．また，音は出版社と私が勤務する長吉総合病院の両方のホームページで聞くことが出来ます．）

『こんな本，本当に売れるんやろか？』当初はとても不安でしたが，発行した本は出版社の予想を覆す勢いで完売し，刷を重ね，今回の改訂に至っています．最近では，インターネットを通じて超音波技術に関する知識も，文字や写真だけの情報であれば，誰にでも実に簡単に手に入ります．ですから，本書の最大の特徴であるこの人形キャラクターエコ蔵じいさんの登場は，そのような手段ではなかなか入手出来ない，非常にユニークな，読者にとっては魅力のある情報なのかも知れません．最近，近隣の勉強会では，しばしばこのキャラクターイラストが「引用」されるのも事実です．ですから今では，自信をもってこのイラストを描いています．腹部エコーは，私にとって超音波検査に関わる最初の領域でした．こうして，もう一度，腹部に焦点を当てて超音波検査を纏め直してみると，他領域をも含めた超音波検査知見に限定せず，解剖・生理機能や疾患の成り立ちなど，様々な領域の知識が見事に有機的に繋がっているのが良く分かりました．それは，それほど超音波検査が，実地臨床と強い繋がりを持ち，検者を「臨床家」に育て上げる力を持っているという事の証ではないでしょうか．

最近特に感じる事ですが，同僚の中西美紀主任の超音波へののめりこみ具合には「はっと」させられます．個々の症例整理は勿論のこと，特定の疾患に関する知見をいとも簡単に纏め上げ，機会あるごとに発表し，実にたおやかに日常の超音波検査を「楽しんで」います．日常の患者様との対応は滑らかで，奥深い知識に裏打ちされた言葉の全てが患者にスーッと浸透していくのがすごく感じられます．『あっ，そうか，私が朝井先生から頂いた「エコーを楽しむ」という宝物を，私はもう，彼女にバトンタッチしたんだ．』

今回の改訂作業は，症例を増やして内容に少し幅を持たせました．また，「カルテの読み方」の項の扱いを改め，「患者背景を知る」という大きい概念の項に含ませました．それは，私が常々感じている事ですが，超音波検査というものが，ある一定のマニュアルに従い予め定められた設定断面の画像を保存するという受動的なものではなく，眼前の超音波像を患者背景に照らし合わせつつ，積極的に病変を探し求めるという能動的な行為であることを強調したかったからです．勿論，「親しみやすいコンパクトな腹部エコーの入門書」という，初版のコンセプトはそのままです．これから腹部超音波を勉強されたい方は，本当にこの本を，白衣のポケットにそっと忍ばせてあげて下さい．きっと，エコ蔵じいさんも喜んでくれる事と思います．

この本の改訂作業も終了し序文も締めくくりに入ります．とりわけ，出版社金芳堂の市井社長におかれましては，何度も何度も社長自ら当院にお越しいただいて校正を重ねてまいりました．本当に感謝しております．また言うまでもありません．イラストの元となった再構成ＣＴ画像撮影には臨床放射線科技師長代理の岩本明男技師に大変お世話になっております．梁瀬義章院長ならびに寺西恵子理事長・寺西シヅエ会長など，今回も多数の病院職員の皆様方にも大変お世話になりました．本当に有難う御座いました．

2012年 8月

中村 滋