改訂版序

本書は， 大変好評中である 「エコ蔵じいさんの楽しい超音波診断Handy Text」シリーズの第2 弾－心臓編－改訂版です．

とくに，日進月歩の著しい医学書（特に画像診断の領域では）においてはその傾向が強いのですが， 改訂版を発行するよりも新書を発行する方が種々の面で，メリットがより大きいと考えられている中で， 改訂版を発行することは画期的なことと考えられます．

これも中村先生オリジナルによる漫画チックな 「エコ蔵」というキャラクターを介して，これまでになかった非常に判りやすい超音波診断テキスト「エコ蔵じいさんの楽しい超音波診断Handy Text」の評判が予想以上に（？）良いからだと思われます．とくに，心臓編のイラストは，これまで誰もなしえなかった成果であると考えられます． エコ蔵じいさんの人形，心尖部の回転模型，椎体模型のいわゆる「三種の神器」を使って，イラストをついに完成させた苦労が思い出されます．小生のような心臓領域の素人にとっても容易に理解が可能であるイラストです（冗談ですが，写真を飛ばして，ついイラストに目が移ってしまうほどです）．このようなイラストを作成できる人物は，日本はもちろん世界中を探しても中村先生ただ一人であると小生は信じております（超音波画像を理解して，必要なものだけを強調し，不必要なものは省略するといった手法で，素人でも非常に理解しやすいイラストに対して常々から感服いたしております）．

さて，最近の日常診療における超音波検査ですが，かなり変遷してきております．腹部領域，心臓領域や乳腺・甲状腺領域の超音波診断はもちろんのこと，頚動脈エコー，下肢血管エコーなどやシャントエコーに至るまで幅広く実施されるようになってきているのです．しかも医師が直接検査を施行することよりも臨床検査技師や放射線技師などのコメディカルの先生方が主導権を持って検査を実施する機会が増えてきているということです（小生は二，三十年前から予想し， 実行してきたつもりなので，その方向性は間違っていなかったと感慨深い思いを持っていますが...）．我々も既に，小生監修，中村先生著の本 Handy Text シリーズ（腹部， 心臓， 乳腺・甲状腺・唾液腺， 頚動脈， 下肢動静脈）を発刊しておりますので，おおいに活用していただければ幸いです．

ところで， 肥満症や高血圧， 糖尿病など生活習慣の乱れにより生じる生活習慣病が増えるに従い， 非侵襲検査である心臓超音波検査もルーチン検査として大いに活用されているのが現状ですが， 高血圧性心臓疾患は形態的には左室肥大， 機能的には左室拡張機能障害を主体とする病態であると考えられています．従来から心ポンプ機能は， 駆出機能に焦点が当てられ，収縮機能の低下が心不全の主体であると考えられていたのですが， 現在では，その多くは，高血圧を基盤とする拡張不全に起因した心ポンプ機能障害と考えられています．左室駆出率（Ejection Fraction: EF）をはじめとする収縮能の重要性は当然ながらも，拡張能にも大いに注目されている昨今です．本書でも，収縮能はもちろん拡張能にも力を入れて記載・まとめられているので大いに活用していただければと考えております．

今回の改訂版の特徴として「超音波で患者を診る」というスローガンの下に，「症例の背景を理解する」という章が新しく加わっております． 症例数も増えているのはもちろんのこと，主要な基準値一覧表や種々の心疾患の分類，英略語集などもコンパクトにまとめられておりますので，非常に理解しやすいのが本書の最大の特徴であろうと思われます．

したがって，これまで機会がなくて，心臓超音波に携わっていなかった医師はもちろんのこと，臨床検査技師，放射線技師の先生方や学生さんなどにも大いに活用されることを願ってやみません．心臓超音波診断に関する教科書は，その領域の循環器疾患の権威の先生方により，すでに数多く出版されていますが，本書はむしろ初心者向けの教科書（しかし，一読していただければおわかりと思いますが，あらゆる内容を網羅されていますので，そのレベルは十分高いものであることが，容易に理解していただけると思っております）と考えていただいて結構であると思います．

以上のように，画期的なイラストと大変判りやすくまとめられているユニークな本書は必ずや読者のご期待に十分応えてくれると信じて疑いません．どうぞ，座右の書としてご利用していただければ幸いと考えております．

最後になりましたが，今回の改訂版発刊の際にも並々ならずお世話になりました，金芳堂編集部並びに市井輝和社長に対し，厚く感謝申し上げます．

2014 年8 月

朝井 均