編集にあたって

変形性関節症は最も頻度の高い関節疾患であり，関節軟骨の変性と関節近傍の局所的骨代謝異常を特徴とする疾患です。欧米ではリウマチ科の医師により診療され，整形外科医は手術対象患者のみ取り扱うというところも多いのですが，本邦では専ら整形外科医により治療されています。このため変性性関節症は日本整形外科学会の主要な研究テーマであり，われわれ整形外科医には基礎研究に始まり，病態，疫学，保存療法から手術に至る全ての側面に精通していることが求められます。

変形性関節症は全身どこでも発生しますが，膝，股関節，手が好発部位とされ，実際に変形性関節症研究の大半はこれらの部位を対象にしてきました。手の変形性関節症は手関節を含みません。指節間関節，MP 関節，CM 関節に発生する変形性関節症の総称です。欧米ではEULAR，ACR，OARSI など多くの団体からEBM に基づく治療ガイドラインがこれら３大好発部位を対象に盛んに発刊されています。これに対し，本邦では変形性関節症関連の書籍は膝と股関節に偏り，手の変形性関節症に関しては残念ながらほとんどが小規模なケースシリーズに留まっており，系統だった書籍は皆無です。このため手の変形性関節症に関する最新の知識が整形外科医の間で全く共有されておらず，多くの患者が極めて不適切に取り扱われています。

このような背景に鑑み，疫学，保存療法，手術まで手の変形性関節症を幅広く網羅した書籍を出版する必要を日頃から痛感していましたが，この度，金原出版より雑誌『整形・災害外科』の特集号を企画する機会をいただきましたので，長年の思いを実現しようと決意いたしました。今回の企画では，それぞれのテーマについて本邦でもっとも精通していると私が信ずる方々に執筆をお願いしました。執筆にあたっては極力EBM を重視するようにお願いをし，また，最新の情報を少しでも多く盛り込んでいただくようにしていただきました。本来，手の変形性関節症には手関節を含みませんが，病態の類似性に鑑み，この特集にはSTT 関節症も含めることにしました。その結果，基礎から臨床まで幅広く網羅した素晴らしい特集号に仕上がっています。特集号のタイトルは『整形・災害外科』編集室の山下さんにアドバイスをいただき，「これで完璧！ 手の変形性関節症─最新のエビデンスから紐解く」という大変親しみのあるものになりました。少しでも多くの先生がたにご愛読いただき，明日からの診療にお役立ていただくことを期待しています。

　2018年4月

名古屋大学手外科学
平田 仁