特集：鼡径部痛と殿部痛の包括的アプローチ

本特集は，「鼡径部痛と殿部痛の包括的アプローチ」というタイトルで企画した．世界的には股関節の疾患の治療においても，直視手術中心の時代から鏡視下手術の時代への，パラダイムシフトを超えようとしている．他の関節と異なる点は，股関節は体の一番深い部分にあり，骨，筋肉，神経が多く診断が難しいとされてきた．内視鏡は関節内だけでなく関節外から殿部の病変までもアプローチ可能となっている．第一に，低侵襲で良好な視野のもとで，関節内部から病態を観察することができることにより，病態診断能力が格段に向上した．そして画像診断の進歩により，関節鏡と画像診断を照らし合わせることで，手術が必要な症例を見極められることになったことが挙げられる．第二に，手術器具やスーチャーアンカーなどハード面の進歩や，第三に関節鏡視下手術を行う整形外科医の個々の技術的な進歩により，解剖学的かつ力学的に，損傷された組織をより頑丈に修復もしくは再建することが可能になったことである．これらの関節鏡視下手術およびmagnetic resonance imaging（MRI）と超音波の画像診断技術の進歩により，より包括的に診療が可能となってきた．

今回の企画では，「鼡径部の解剖－レイヤー別アプローチ」は，陶生病院の渡邊宣之先生に，「殿部の解剖」はよしだ整形外科クリニックの吉田眞一先生に詳しくご解説いただいた．「股関節のバイオメカニクス機構」は，産業医科大学若松病院の村田洋一先生にロボットを用いた最新のバイオメカニクス研究をもとにご解説いただいた．「股関節とその周囲の画像診断－単純Ｘ線写真とCT」は，信州大学の下平浩揮先生，「股関節とその周囲の画像診断－MRIと超音波画像」は，横浜市立大学附属市民総合医療センターの小林直実先生，「深殿部症候群の身体所見と画像診断」は，カナダ・ダルハウジー大学の木﨑一葉先生にお願いした．「アスリートの鼡径部痛」と「アスリートの鼡径部痛の保存療法」は，JIN整形外科スポーツクリニックの仁賀定雄先生とATの二瓶伊浩先生にそれぞれ最先端の知見を交えてお願いした．

「大腿骨寛骨臼インピンジメントの診断」と「大腿骨寛骨臼インピンジメント症候群の保存療法」および「手術療法」は，新進気鋭の北水会記念病院の齊藤昌愛先生，産業医科大学若松病院のPT立石聡史先生，AR-Ex尾山台整形外科の久保貴敬先生に症例豊富なご経験からご解説をいただいた．「大腿骨寛骨臼インピンジメントの術後に対する運動療法」と「大腿骨寛骨臼インピンジメントの術後アスレチックリハビリテーション」は烏丸御池整形外科クリニックの為沢一弘先生とじんどう整骨院アスリートのAT畑中仁堂先生にお願いした．

また新しい分野として注目される「寛骨臼形成不全の診断と手術療法」は，JCHO仙台病院の野口森幸先生に，「ハムストリング近位部断裂の診断と治療方法」「深殿部症候群の治療方法－超音波ガイド下ハイドロリリース」は，それぞれ産業医科大学若松病院の髙田真一朗先生と西村春来先生に依頼した．

本特集をもって，股関節痛および殿部痛で困った多くの患者を診療されていらっしゃる整形外科医，理学療法士，トレーナー，産婦人科医，麻酔科医の皆様に，病態メカニズム，診断方法，新しい鏡視下手術とリハビリテーションの方法をより深く理解していただき，今後の日常診療に大いに役立てていただけるものと確信している．

特集編集：内田宗志（産業医科大学若松病院診療教授）