腰椎分離症のパラダイムシフト
－理論を知り，理論を超える－

私が担当いたしました『腰椎分離症のサイエンス：フィールド復帰のための方程式』（2019年10月号）から約4年．腰椎分離症（以下，分離症）医界には多くの新しい取り組みがなされました．私もこの4年を振り返りながら分離症の進化を考え，本特集を組みました．題して，『腰椎分離症のパラダイムシフト－理論を知り，理論を超える－』

私が分離症研究を始めた1995年からこれまでの約30年を走馬灯のように思い出しながら，next decadeに向けた特集にふさわしい内容と執筆者を厳選いたしました．これまでの先人たちのご尽力と努力により，分離症における診断と治療の原理・原則は確立されました．30年前を考えると夢のような思いです．これからは，理論を超えるオーダーメイドのストラテジーを行う時代なのです．

本特集はまず，現時点の理論の最前線を，state of the art scientistの皆様にご執筆いただきました．診断学の理論と治療学の理論．パラダイムシフトを語るために必要な最前線の理論が凝集されました．次は『理論を超える』です．アスリート治療の現場では，学年やタイミング，試合との兼ね合いなどにより，理論どおりにできないことがあります．その場合には理論を超える対応が必要となります．理論を超える現場の最前線の対応，ぜひ，ご堪能いただければ思います．

発育期分離症アスリートの治療中，保護者のご心配がとても大きいことに遭遇します．また，子供たちも非常に落ち込みます．実際は，分離が完成しても，プロ選手にもなれますし，オリンピック選手にもなれます．そのメッセージを組み込みました．さて，最後はパラダイムシフトです．子供の腰椎・骨盤周囲には大切な臓器がたくさんあります．できれば，CTを撮りたくありません．そのような想いが診断のパラダイムシフトをもたらそうとしております．CTフリーの時代の幕開けです．本特集をきっかけに，日本中でCTフリーのムーブメントが巻き起こることを期待しています．

米国脊椎外科医でPedicle Screwの父として知られるSteffie先生が晩年のインタビューで若者へのメッセージをくださいました．

Some difference

“The purpose of life is not to be happy－but to matter, to be productive, to be useful, tohave it make some difference that you lived at all.”

Leo Rostenのポエムからの引用です．意味は，どんなに小さくてもいい．いつも，何か人とは違うことを考え生きていきなさい．それが生きた証だ．

本特集にご執筆いただいたscientistsの皆様は，このsome differenceを具現化している先生方です．その方達の魂のこもった特集，読者皆様の心に届くと思います．本特集が，これからの皆様のパラダイムシフトの一助となりましたら，編集者として望外の喜びです．

2023年3月末

米国ナッシュビル・バンダービルド大学訪問中
Professor Modic先生との会談前に