特集
成長期以降の野球選手の肘内側障害

成長期の野球肘としては内側上顆骨端核の裂離や骨端線の離開などの内側障害が最も高頻度でみられるが，これらは，適切な身体機能やフォームの修正で，ある程度の遺残変形を残しながらも治癒せしめることが可能である．しかしながら，健側肘と比べると，この時期からすでに外反ストレスに対する弛緩性が存在することが多い．これは，病的なものというよりも野球の投球動作による身体適応とも考えられる．一方，多くの野球選手がこのような背景をもちながら成人になるわけであるが，近頃，骨端線閉鎖後の肘関節内側痛を訴える高校生や大学生が以前より増えたような印象がある．その理由として，投球速度の高速化があるのではないかと筆者は考えている．実際，近年は高校生でも140 キロを超える速球を投げる投手は珍しくなく，プロ野球選手では速球で150 キロ以上を投げる投手が増加し，中にはMLB のように160 キロを超える投手も散見される．球速が上がれば肘関節外反ストレスが増大し，肘関節内側障害が増えることになるのは自明の理である．そこで，本特集では成人，つまり骨端線閉鎖後（高校生以上）の野球選手の肘内側障害を取り上げてみたい．

本特集ではまず基礎編として，「肘関節内側の解剖」について船橋整形外科の星加昭太先生に解説していただき，「投球動作のバイオメカニクス－肘外反ストレス増大のメカニズム」について，中部大学の宮下浩二先生に解説していただいた．さらに，「肘内側障害の超音波診療」を横浜市立大学の宮武和馬先生に，「肘内側側副靱帯の画像診断（高分解能MRI）」について東京スポーツ＆整形外科クリニック放射線部の渡邊吏希先生に解説していただいた．保存療法編では，肘関節内側障害に対する保存療法としての理学療法については，異なる2 施設の理学療法士にそれぞれのアプローチ方法について解説していただいた．また，「体外衝撃波療法」については船橋整形外科病院の玉置大恵先生に，「PRP 療法」については亀田総合病院の山田慎先生に解説していただいた．手術療法編に関しては，まず京都府立医科大学の木田圭重先生にTommy John 手術の「術式の紹介と変遷，internal brace への展開」についてレビューしていただき，日本を代表する3 名の先生方にそれぞれの術式とこだわりについて解説していただいた．そして，「後療法」について横浜南共済病院の木元貴之先生に解説していただいた．

豪華な執筆陣による，成長期以降の肘内側障害に焦点を絞った本特集は，現時点での最もUP TO DATE な内容となっており，野球選手の肘内側障害に携わる多くの医療従事者にとって必読の特集といえる．

特集編集：菅谷啓之（東京スポーツ＆整形外科クリニック院長）