特集：ACL再建術後のスポーツ復帰基準の再考

ACL損傷はスポーツ外傷の中でも最も重篤な外傷であり，スポーツ復帰には再建術が第一選択となります．ACL再建術後に多くのアスリートまたはスポーツ愛好家が元のスポーツへの復帰を希望して手術を受けますが，一方でスポーツ復帰基準の指標はいまだ明らかなものがないのが現況です．膝関節可動域，膝筋力，安定性，術後経過期間，ホップテストなどがこれまでに使用されてきた指標ですが，ACL再建術という手術手技が完成されつつある現在，その復帰基準について改めて多面的に考えてみる時期が来ていると考え，本特集を企画しました．

まずは総論として，スポーツ復帰基準の現況はどうなっているのかという点とそこから考えられる問題について解説していただきました．

続いて各論として，膝関節安定性，再建靱帯のリモデリングと画像評価，膝関節可動域，膝筋力と膝以外の筋力，動作評価，心理的評価，関節固有感覚について解説していただきました．膝関節安定性は術後最も重要な点の一つであり，また再建靱帯が経時的にどのようにリモデリングしていくかは是非理解しておきたいテーマです．膝関節可動域と膝筋力は，術後早期から復帰までに関連する点であり，動作評価や心理的評価は，近年特に注目を浴びている評価項目です．関節固有感覚は損傷から再建術後にどのように回復するか興味深い内容です．さらに，ACL損傷に合併する半月板損傷を有する場合やACL再建術後に起きる可能性がある膝蓋大腿軟骨損傷が合併する場合についても詳述していただきました．そしてスポーツ復帰基準としては必須と考えられるパフォーマンステストについても現在の課題と展望を解説していただきました．

上記の各論のほかにスポーツ復帰に関してはスポーツ専門動作について詳細に評価し，どのようにスポーツ専門動作を獲得し，コンディションを上げ，どのようにスポーツ復帰まで指導していくのかを検討する必要があります．競技別の項では，ACL損傷の発生が非常に多いジャンプカッティングスポーツの代表例としてバスケットボール，サッカー，ハンドボールを取り上げ，またコリジョンスポーツとしてラグビー，ウィンタースポーツとしてアルペンスキー，最後に宙返りや捻り，正確な着地が要求される体操を取り上げました．それぞれの種目のエキスパートに，それぞれの種目におけるスポーツ復帰において考慮すべき点や評価について解説していただきました．

最後に，執筆の労をおとりいただいた著者の皆様に心より御礼を申し上げたいと思います．そして本特集が，全国のACL再建術とスポーツ復帰にかかわる医療従事者の皆様に新しい知見と視点を与え，ACL再建術後の安全で早期のスポーツ復帰に貢献できることを願っております．

特集編集：古賀英之（東京医科歯科大学教授）
大見頼一（日本鋼管病院）