特集：半月板損傷を科学する

半月板損傷に対する治療法は近年目覚ましい発展を遂げており，従来大部分を占めた部分切除術から縫合術へと，その治療方針が変化している．また近年では半月板機能不全に対する新たなコンセプトが提唱されるようになり，機能不全に対する対応法が提案されてきている．そこで本特集号では，半月板損傷に対する従来の治療法から機能不全に対する治療，また今後の革新について科学的に検証し，スポーツ選手ならびに愛好家における半月板損傷治療の発展に役立つことを目的として，各領域の第一線において活躍されている先生方にご寄稿をお願いした．

まず総論のパートでは，半月板損傷に対する治療の変遷を直視下全切除から関節鏡の開発発展，部分切除，縫合に至るまで概説していただいた．そのうえで，半月板損傷を理解するためには必須であるその解剖，バイオメカニクス，バイオロジーについて，概要を述べていただいた．

各論のパートでは，まず半月板損傷に対する治療の現況として，若年スポーツ選手に対する半月板部分切除術の短期的長所と短所，その長期的問題について取り上げたのちに，正常半月板の単独損傷に対する縫合術の実際とその限界について述べていただいた．正常半月板とは分けて考える必要がある円板状半月板に対する治療は別項で取り上げた．ACL損傷に伴う半月板損傷に関しては，縫合術の成績が単独損傷と比較して良好な一方，特徴的な断裂形態を伴うことから，その点を中心に概説していただいた．また中高年スポーツ愛好家における半月板損傷は，変性を基盤としていること，アラインメントが重要であること，OA進行に直結することから若年スポーツ選手とは異なるストラテジーを必要とすることを述べていただいた．

続いて半月板機能不全に対する治療の発展として，近年新たな病態として注目されている逸脱半月板について取り上げた．その病態とバイオメカニクス，画像評価から最新の動態評価をもとにした力学評価，さらにはcentralization法を中心とした外科的治療まで幅広くこの分野のトピックについて概説していただいた．

最後のパートでは半月板損傷治療の革新として，縫合術の成績向上を目的として行われている従来のbiological augmentationに加えて，滑膜幹細胞を用いた治癒促進の試みを取り上げた．また半月板欠損に対する治療として，いまだに決定的なもののない半月板scaffoldのわが国における開発について述べていただいた．そのうえで，従来の外科的治療では対応が不可能である老化半月板に対するbiological approachの可能性について，今後の発展に期待を込めて概説していただいた．また最近のトピックスとして，半月板に対する体外衝撃波療法について取り上げた．

最後に，ご多忙の中，執筆の労をおとりいただいた著者の皆様に御礼を申し上げたい．本特集号が，今後半月板損傷の治療に取り組む先生方の一助になれば幸いである．

特集編集：古賀英之（東京医科歯科大学教授）