次世代の人材育成に向けた病理医教育

日本病理学会では，基本19領域による新専門医制度がスタートした前年の2017年から，専門医制度整備指針に基づいた専門医研修制度を開始した．このため，更新の病理専門医を含めても，今年度には全ての病理専門医が日本専門医機構認定となる．本誌での特集を顧みると，37巻1号（2019年）「病理医育成の新時代」が企画され，病理専門医育成，特徴ある専門医研修プログラム，基礎研究医養成活性化プログラム，生涯教育などが紹介されている．

日本専門医機構が認定する「専門医」とは，「それぞれの診療領域における適切な教育を受けて，十分な知識・経験を持ち患者から信頼される標準的な医療を提供できるとともに先端的な医療を理解し情報を提供できる医師」と定義されている．導入から4年が経ち，専門医制度のもとでの病理専門医の認定・更新は一定の理解が得られていると理解される．

病理医の教育は，専門医育成にとどまらず，生涯教育の観点で行われなければならない．腫瘍病理診断学を例に挙げれば，20臓器を超える癌取扱い規約は，領域横断的にまとめられた一方で，各臓器癌は定期的に改訂されてゆくWHO分類やTNM分類に対応してゆかねばならない．今後は，subspecialtyも考慮しつつ，病理医教育が行われるべきなのかもしれない．がんゲノム医療にも対応すべく，2020年には第1回の試験が実施された分子病理専門医に関しても，将来にわたる教育の継続が求められる．一方で，若手病理医を育成する際に，病理診断学の教育に主軸が置かれすぎており，盤石なリサーチマインドを醸成するしっかりとした教育環境を整えるべきであるといった声も聞かれる．

本特集号では，専門医制度のもとでの病理専門医の現状，新たに発足した分子病理専門医の役割，日本病理学会が主催する数多くの講習会の趣旨，生涯教育に関する考え方，地域医療に直結した日本病理学会支部会での教育が報告されている．これまでにも重要視されてきている病理解剖による教育に加えて，最新の情報通信技術（ICT）を活用しながら教育の在り方が提示されている．さらには，研究領域で実績をあげながらも病理専門医取得を目指した病理医教育や，病理診断学の現場で実力を育みながら学位取得を目指した病理医教育についても紹介されている．本特集号が，次世代の人材育成の一助となることを望む次第である．

増田しのぶ ［ 日本大学医学部 病態病理学系 腫瘍病理学分野］
鬼島　宏 ［ 弘前大学大学院医学研究科 病理生命科学講座］