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- 診断と治療 2023年 Vol.111 No.5【特集】甲状腺疾患アップデート:明日から役立つ最新知見
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序文
ねらい
甲状腺疾患アップデート:明日から役立つ最新知見
甲状腺疾患は大きくBasedow病,橋本病の自己免疫性疾患と腫瘍性疾患に分かれる.Basedow病の診断は1986年にTRAbが臨床で使用できるようになり,血液検査で診断がほぼ可能になった.治療は,1950年代までに手術,131I内用療法,抗甲状腺薬がそろい,それ以降に新しい治療法は生まれていない.橋本病は,1922年に甲状腺ホルモン薬,1964年にレボチロキシンが発売され,高感度自己抗体検査であるTgAb, TPOAbは1990年代から臨床で使用可能になった.また乳頭癌,濾胞癌などの甲状腺悪性腫瘍は,主として手術と131I内用療法で治療されていた.その後,新しい治療法はなく,それまでの治療を洗練されたものにすることに主眼が置かれていた.
その後,1999年から甲状腺学会を主体として,「甲状腺疾患診断ガイドライン」「バセドウ病治療ガイドライン」「甲状腺クリーゼ診療ガイドライン」など多くのガイドラインが作成された.甲状腺機能検査においては年齢別,性別,妊娠週数ごとの基準範囲が作成され,また,TSHの測定試薬間,あるいは施設間での検査結果のばらつきをなくするために検査の標準化が行われ,患者の甲状腺機能を精密にコントロールすることが進められてきた.
Basedow病の治療に関しては甲状腺機能亢進症に対する新薬は登場していないが,抗甲状腺薬の無顆粒球症など重篤な副作用を減らす試みがなされ,また,催奇形性に関する理解も深まり安全に治療を行えるようになってきている.Basedow病眼症治療では,中等症から重症の活動性眼症患者にはステロイドパルス治療が第一選択として行われているが,insulin-like growthfactor-1(IGF-1)受容体阻害抗体(teprotumumab)とTSH受容体阻害型ヒトモノクローナル抗体(K1-70)の臨床試験がわが国で2021年から開始された.また,インフリキシマブなどの分子標的薬,FcRn阻害薬も欧米では眼症に対する治験が開始されている.これらの薬剤の中には,甲状腺機能亢進症に対する効果が期待できるものもあり,新しい時代が始まりつつある.
甲状腺腫瘍に関しては,2022年にWHO分類第5版が出版され,病理組織分類についてnon-invasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features( NIFTP)などの低リスク腫瘍の概念が良性腫瘍と悪性腫瘍の間に項目として作成された.また,腫瘍が早期遺伝子変異からRAS系とBRAF腫瘍に分類されるようになった.低リスク甲状腺癌の取り扱いでは,隈病院と日本医科大学で始まったアクティブサーベイランスが世界に普及しており,進行・再発性甲状腺癌はレンバチニブなどの分子標的薬治療が開始され患者の予後の改善がみられる.
このように,一時期停滞していたようにみえていた甲状腺診療は,21世紀になってから大きく変わりつつある.本特集では,甲状腺診療の最新の知見と少し先の未来をのぞけるように企画をした.甲状腺診療に関心を持っていただければ幸いである.
伊藤病院内科
吉村 弘
目次
特集:甲状腺疾患アップデート:明日から役立つ最新知見
ねらい/吉村 弘
甲状腺疾患診療の基本
甲状腺疾患を見逃さないためのアプローチ/鈴木菜美
検査の進歩
甲状腺ホルモン(T3,T4)およびTSHの小児,成人,高齢者,妊婦の基準範囲/橋本貢士 583
TSHのハーモナイゼーション/小飼貴彦,他
甲状腺機能検査に乖離を認めた場合/西原永潤
Basedow病治療の新たな展開
Basedow病抗甲状腺薬治療/渡邊奈津子
Basedow病に対する無機ヨウ素治療/内田豊義
抗甲状腺薬と催奇形性/吉原 愛
Basedow病131Ⅰ内用療法/上田真由,他
Basedow病眼症の診断と治療/廣松雄治,他
甲状腺機能低下症治療の進歩
甲状腺機能低下症の治療/伊藤 充
妊娠希望時の甲状腺機能のコントロール/濵田勝彦
遺伝子異常および腫瘍関係の新知見
甲状腺遺伝子異常/杉澤千穂,他
甲状腺腫瘍の病理組織分類と遺伝子変異/菅間 博,他
低リスク甲状腺乳頭癌の取り扱い/堀内喜代美
進行・再発甲状腺癌に対する分子標的薬治療と光免疫療法/田中伸和,他
トピックス
薬剤性甲状腺機能異常症:抗PD-1抗体による 甲状腺障害の基礎と臨床/安田康紀,他
COVID-19と甲状腺疾患/稲葉秀文
連載
心電図は1枚の窓
様々なQRS波形を呈した72歳女性 深江学芸
注目の新薬
カナグル®錠(カナグリフロジン水和物錠)/鬼山佳祐,他
医療裁判の現場から
高齢の胃癌患者が内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)後に死亡したケースにおいて説明義務違反があったとされた事例/清水 徹
臨床例
非典型的な内容物により術前診断し得なかった虫垂貯留囊胞の1例/森園剛樹,他
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書籍情報
- ISBN:9784015011105
- ページ数:138頁
- 書籍発行日:2023年5月
- 電子版発売日:2023年5月9日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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