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- 私たちは認知症にどう立ち向かっていけばよいのだろうか
商品情報
内容
最新の知識をふまえ,「いま」の認知症に関する情報を完全網羅.教科書的に新事実を解説するのではなく,認知症に精通した著者ならではの「やさしい」視点から,読み物的な切り口で話は進んでいく.認知症に携わるすべての医療従事者に満足いただける内容になっている.
序文
「醍醐の同和園の中で夫婦になる人がいましてな.老人ホームでは夫婦になった2人に嫉妬して,傷害事件を起こすことがあって困っていたのですわ.そこで,結婚した夫婦のために,一軒家を建てて,そこに住んでもらっています」.1960年6月,医学部4年目の私たち学生5人は公衆衛生学のフィールドワークで老年医学をテーマにした.
当時,老年医学という教科はなく,世間も問題にしていなかった.それでも私は,平均寿命が延びて,将来の高齢化社会の到来に漠然と不安を抱いていた.老人ホーム(今の介護施設)を訪問して,高齢の方にお会いし,どんな暮らしをしておられるかを見学したいと思った.
同和園の中で夫婦になられる方,その夫婦に危害を加える人,夫婦のためのグループホームもどきの建物などに強い印象を得た.高齢者の施設にも熱い思いが流れており,温かい配慮がされていることに感心した.
ただ,それだけではレポートにはならず,都市と遠隔地の高齢者人口動態を比較した.その結果,1960年から50年後には遠隔地での高齢化率の増加が都市より著しいことを予想した.3月11日の東日本大震災で明らかになった遠隔地での高齢者問題がクローズアップされている.
1975年のある日,1人のご婦人が来られて「主人(以下,A医師)が医院で患者さんを診療しているときに,注射や採血ができなくなりました.患者さんの腕のあちこちに注射針を刺しますが,うまく採血できません.このままでは,きっと訴えられるでしょう.何とか医院を閉めるように頼んでほしいのです」と涙ながらに話された.
「何とかしましょう.来週,ご主人をお連れ下さい」と答えたものの,私自身どうしていいか途方にくれた.当時は認知症について相談できる医師もなく,地域包括支援センターもなかった.どの医師も「ボケは苦手だ」といって耳を貸してくれなかった.「自分でその人を何とかするしかない」と決心して,次の診察に臨んだ.
A医師は顕著な異常所見はなかったが,視空間認知障害があり,腕の静脈の走行が判らないようだった.診察の後,「だいぶ神経が参っておられるので,少しお休みになって,お友達の先生に診療を代わってもらわれたらどうですか」と提案した.最初は納得されなかったが,「自分でも少し不安なので」と本心を明かされた.
大学の同門の先生に連絡して事情を伝え,代診を依頼した.当時はそれぐらい余裕のある医療が可能な時代であった.その後,A医師の娘さんが医師になられて医院を継がれることで問題は解決した.しかし,A医師の病状は進んで行った.
それから3年ほどして,1つの論文が光を与えてくれた.フィゾスチグミンという薬がヒトの記憶を改善するという論文がScience誌に出た(Davis KL, et al:Science, 201:272, 1978).フィゾスチグミンはアセチルコリンの分解を抑えて,増加させる効果を持つことが判っていた.
その論文の少し前,アルツハイマー病の人の脳内でアセチルコリンを合成する酵素が減っていることが明らかにされていた(Bowen DM, et al:Brain, 99:459,1976).アルツハイマー病にも治療法があるかもしれないとの可能性が生まれた.手の打ちようのない認知症がどうにかなる日が来るかもしれないと思えるようになった.
丁度その頃,京都で認知症の人を介護する家族の集まりが組織され,全国的に広がりはじめた.介護に困り果てて,疲れきった人々が自分たちの経験を持ち寄って,堀川病院の早川一光先生,高見国生代表を中心に活動を開始した.最初はこじんまりした団体であったが,私のような医師も加わって,現在のように市民権を得た組織に成長していった.
それ以来,私も認知症の治療について認知症の人から学ぶことが多かった.世界中で認知症の治療や介護が模索され始めたのは1970年代後半からで,まだ30年余りの歴史しかない.治療も介護もまだまだ不十分であるが,何もなかった30年前と比べると進歩している.
2011年から認知症への取り組みは歴史的転換期を迎え,新しい段階に入った.同年3月11日に東日本を大震災が襲い,地域の重要性が認識された.認知症の人や家族が安心して暮らせる社会を作らなければならない.人々がどのような生活を志向し,その中で認知症の人との絆をどう作っていくか? それらの問題を解決するのに参考にして頂ければと思い,本書を上梓する.
2013年5月
中村 重信
目次
Ⅰ 認知症とは何だろう
① 本当に認知症なのか
A 認知症はどんな病気か
B 認知症の診断はどうするのか
C すべての人が認知症になるのか
② 認知症は歳をとらなくても起こるのか
A 65歳までの人でも認知症になるのか
B 90歳以上の人が認知症になると,どうなるか
Ⅱ 認知症を治療や予防できるか
① 認知症を予防する方法はあるのか
A 認知症を起こしやすい疾患,環境,履歴や性格はあるのか
B 認知症になりやすい状態をなくせば,認知症は予防できるか
C 心身のトレーニングは認知症を予防できるか
D 栄養はどの程度,認知症予防に有効か
E 脳ドックと物忘れ外来は認知症予防に有効か
F 認知症予防のエビデンスはあるか
② 認知症治療薬は効くのだろうか
A 神経伝達物質はどんなものか
B 認知症の人では神経伝達は異常になるのか
C 認知症の進行を遅らせることは可能か
D 神経細胞の破壊は防げるのか
E 現在使える薬で認知症を治癒できるのか
F 高齢の認知症の人に薬を使うとき,どんな注意が必要か
G 認知症の治療薬は経済的な効果をもたらすか
③ どのような認知症の人にどの薬が効くのか
A 新しい薬はどうして使えるようになるか
B 今,どんな薬が認知症の人に使用できるか
C どの認知症の人にどの薬が効くのか
D 薬を使うときどんな工夫をするか
④ これからどんなアルツハイマー病治療薬が開発されるか
A 脳画像を使った新薬開発は可能か
B 神経伝達系を介する薬の候補は他にもあるか
C Aβを除去する薬は可能か
D タウタンパクを介する薬は可能か
E その他の神経保護物質はあるのか
F 新しい神経を作ることは可能か
G ホルモン補充療法は効くのか
H 漢方薬は効果があるのか
I 改善効果を示す健康食品はあるのか
⑤ 抗認知症薬以外の方法で認知症はよくなるのか
A 栄養状態改善が認知症をよくすることはあるのか
B 中毒を防ぐと認知症はよくなるのか
C 全身の病気を治すことによって認知症が治ることはあるのか
D 手術によって認知症がよくなることはあるのか
⑥ 認知症合併症に対する治療はどうするのか
A 高齢者に対する治療のコツは何か
B 認知症のBPSDをどう治療するのか
C 治療薬について,認知症の人や介護者と話し合うべきか
D 認知症の人の合併症は若い人と同様に検査,治療すべきか
⑦ 認知症治療のゴールをどう設定するか
A 認知症を根本的に治癒させる薬は期待できるのか
B 認知症の人の終末期医療をどうすべきか
Ⅲ 認知症の人とどのようにつきあったらよいか
① 認知症になったら,人生おしまいなのだろうか
A 認知症を抱えながら暮らすことは可能か
B 周囲の人はどうすべきか
C 早期から認知症に関わる方がよいのか
② 認知症の症状は変動するのか
A 認知症の人は周囲の状況に左右されるのか
B 症状が変動する認知症にはどんな疾患があるのか
C 全身疾患が認知症の人の症状を悪くするのか
③ どうすれば認知症の人が気分よく生活を送れるのか
A 身体の調子がよいと,心理症状もよくなるのか
B 他人と絆が作れると,心理症状もよくなるのか
C 季節や昼夜によって心理症状は変わるのか
D 住まいが変わると症状は悪くなるのか
④ 認知症の人が楽しく暮らせる仕掛けはあるのだろうか
A 認知症の人の自尊心を高めることは可能なのか
B 認知症の人が社会で役立ち得るか
C 認知症の人がグループを作って楽しめるのか
D 認知症の人に医療や介護を勧めるにはどうするか(入口問題)
⑤ 介護をする人への配慮も必要ではないか
A 介護に困った場合はどうすべきか
B 疲れている介護者への対応はないのだろうか
C 介護者同士が助け合えるのか
D 公的な援助はどんなものがあるのか
⑥ 認知症を支える地域の仕組みはあるのだろうか
A 新しい介護保険制度をどう利用するか
B 介護保険制度以外の仕組みをどう組み込むか
C 都市型と地域型 --地域特性に応じた認知症の介護は可能か--
D 認知症を支える地域の仕組みが国により違うのか
⑦ 認知症の人の経済問題にどう対応するとよいのか
A 認知症医療や介護の必要経費はどれくらいなのか
B 認知症の人の経済被害はどれくらいのものか
C 経済的問題にどう対処するか
⑧ 認知症の人はどうなっていくのか
A このような日々がいつまで続くのか
B 認知症の人の最期はどうなるのか
C 終末期への準備はどの時点から始めるべきか
D リスク・コミュニケーションは必要なのだろうか
⑨ 認知症の多い時代に,どうすればよいのか
A 地域支援ネットワークはどんなものか
B 高齢者の多様性にどう対応するか
C コメディカルの人は認知症にどんな役割を果たすか
D 認知症の人に明日はあるか
⑩ 2011年3月11日に学ぶことはあるのか
A 災害に際して,認知症の人にどう振る舞ったか
B 危機に際して,何をすればよいのか
C 危機管理やリスク・コミュニケーションをどうするか
D 認知症介護が災害時の対応から何を学んだか
おわりに
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書籍情報
- ISBN:9784525202217
- ページ数:360頁
- 書籍発行日:2013年6月
- 電子版発売日:2019年7月12日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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