クリニカルファーマコメトリクス

  • ページ数 : 369頁
  • 書籍発行日 : 2019年5月
  • 電子版発売日 : 2019年7月24日
9,900
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商品情報

内容

薬物治療を個別最適化する力が身につく入門書

医薬品の有効性・安全性を予測する新規手法として,近年,医薬品開発で注目のファーマコメトリクス.これは実臨床での薬物治療を個別最適化することも可能にする.本書は,初学者でもファーマコメトリクスの基礎,さらに臨床で活用する知識とスキルを身につけられるようにわかりやすく解説した入門書である.

序文

「クリニカルファーマコメトリクス」

この言葉を論文,雑誌,文献,学会および研究会で見聞され,興味本位からこの書籍を手にした読者も多いと思います.

近年,臨床薬理学および薬物動態学系の分野で注目の的となり,臨床薬学領域の学会でシンポジウムが開催されるなど,「ファーマコメトリクス」および「クリニカルファーマコメトリクス」の機運は高まってきました.実は,ファーマコメトリクスに関しては,医薬品開発の分野では以前より用いられているのが現状です.しかし,ヒトを対象としたクリニカルファーマコメトリクスは,臨床現場での患者治療への投与設計には,いまだ積極的に用いられていません.その一方で,ファーマコメトリクスを基盤とした数理モデルを用いた薬剤の適正な投与量・投与方法の設定が,患者治療の有効率の向上と,副作用発現率の低下につながるという報告が,欧米を中心に多数なされており,わが国でも徐々に臨床への還元もしくは臨床での応用が進んでいます.

クリニカルファーマコメトリクスの目的の一つは,患者の臨床データを数理統計学的手法などで定量的に解析・評価・予測し,これに基づく個別化治療上の投与法最適化と副作用マネジメントに貢献することです.患者間の個体差が大きく,画一的な投与量や投与間隔を適応できない薬剤として,免疫抑制薬,抗菌薬,抗がん薬など多く存在します.しかし,ファーマコメトリクスモデルを基盤にファーマコキネティクス(薬物動態学,pharmacokinetics:PK)およびファーマコダイナミクス(薬動力学,pharmacodynamics:PD)に影響を及ぼす要因を解明することで,臨床における個別化投与設計に資する有効性・安全性の目標薬物濃度治療域の糸口を見いだすことが可能となります.

わかりやすく例えると,治療薬物モニタリング(therapeutic drug monitoring:TDM)の対象薬ではない抗菌薬メロペネムについて,血中濃度を測定せず,かつ原因菌の最小発育阻止濃度(MIC)が不明な場合でも,ファーマコメトリクスにより,体重や腎機能,推定原因菌の情報から最適な投与設計を予測することが可能となります.TDMは,患者から血液を採取し,測定した薬物濃度をもとに投与設計を行うものです.しかし,臨床において薬物濃度を測定することは困難な場合が多く存在します.ここで,クリニカルファーマコメトリクスを駆使することにより,血中濃度測定に頼らず,適切な投与設計を構築することが可能となります.

すなわち,TDMが行う血中濃度推移だけの予測ではなく,クリニカルファーマコメトリクスでは,患者の有効性や副作用の発現の確率を予測することが可能となるのです.すなわち,ファーマコメトリクスは,医薬品開発だけではなく,投与設計や副作用マネジメントなど,個別化医療の実践においても強力なツールとなります.

薬物動態の専門的な教科書は多く存在します.また,数理統計の教科書も多くの書籍が販売されています.しかし,これらを結びつける教科書は存在しないのが現状です.現在,「医薬品開発ツールとしての母集団PK-PD解析―入門からモデリング&シミュレーション―」(朝倉書店,2010年)が日本におけるファーマコメトリクスの専門書として発行されています.この書籍は医薬品開発のファーマコメトリクスに重きを置いた内容であり,臨床家が活用するのは容易ではありません.一方,TDMにおいては,簡便に解析を実行するソフトウェアが(無料)配布され,背景の理論を理解しないままにそれがブラックボックス的に使用される弊害が少なくないのも実状です.

今後は製薬企業および臨床現場において,ファーマコメトリクスを活用できる人材の育成が望まれますが,残念ながら,現在わが国には,ファーマコメトリクスと題した書籍や,臨床活用の方法を詳述した書籍は存在しません.このような状況下でもクリニカルファーマコメトリクス研究に先進的に取り組んでいるのが,本書の編者,猪川氏,辻です.私たちは互いに切磋琢磨し,この分野の発展と研究成果の患者治療への還元に努めてきました.今回,本書籍執筆の機会を頂戴し,互いに一致協力して,書籍出版の計画を進めてきました.ここにファーマコメトリクスの分野において,日本では最先端かつ深奥の知識と技法に熟達している笠井氏を加え,3人で分担して編著する運びとなりました.本書籍は,ファーマコメトリクスの基礎から,実地臨床における実践的な活用手順を詳述する内容として構成しました.クリニカルファーマコメトリクスを実践するためには,薬物動態学の知識のみならず,筆者は,臨床医学・薬学,そして生物学,さらには統計学の知識も不可欠であると認識しています.特に,生理学的メカニズムに基づく数理モデルの構築は,即座に臨床へ還元できると考えています.複雑なモデル式も各章ごとに演習問題を示して,理解度を深めることができるように努め,初学者がクリニカルファーマコメトリクスのための予備知識および必須知識に統計解析知識を加え,さらに,基礎と実践をわかりやすく学べる国内初の書籍となる「クリニカルファーマコメトリクス」を完成することができました.

本書の作成にあたり,編者および著者としてご協力をいただきました猪川和朗博士(広島大学),笠井英史氏(慶應義塾大学),および各章の解説,演習問題の作成にご尽力いただきました石橋徹博士,平木洋一博士,青山隆彦博士および尾上知佳修士に御礼申し上げます.

最後に,本書の企画段階から何度も話し合いを重ね,編集,出版まで一貫して,多大なサポートをいただきました根本英一氏および須田幸司氏,谷田直輝氏,南山堂編集部の皆様に厚く感謝申し上げます.


2019年3月 北陸新幹線の車中より,残雪の立山連峰を望みながら

辻 泰弘

目次

第1章 クリニカルファーマコメトリクスとは

1.ファーマコメトリクスの概要

2.ファーマコメトリクスの沿革

3.ファーマコメトリクスの発展

4.TDMとクリニカルファーマコメトリクスの違い

5.クリニカルファーマコメトリクスとModeling&Simulation

6.クリニカルファーマコメトリクスの役割と今後

第2章 クリニカルファーマコメトリクスに必要な数学

1.イントロダクション

A.本章の目的

B.数学を知ることの意義

C.個体間変動と個体内変動

2.数理統計

A.指数関数と対数関数

B.正規分布,対数正規分布

C.標準誤差

D.平均,標準偏差と例数との関係

E.尤度

F.尤度比検定

G.赤池の情報量規準(Akaike's Information Criterion:AIC)

H.回帰分析

I.ロジスティック回帰

J.欠測データの取り扱い

K.検出限界と定量下限

3.コンパートメントモデル解析

A.物質量収支を表す微分方程式によるコンパートメントモデルの記述

B.ラプラス変換・逆変換

C.ボーラス(ワンショット)投与1-コンパートメントPKモデルでの例示

D.点滴および経口投与1-、2-コンパートメントPKモデル

4.ベイズ解析

A.クリニカルファーマコメトリクスにおけるベイズ

B.ベイズ解析の理論および特徴

第3章 PKの計算原理の理解およびExcel®を用いた演習

1.0次反応および1次反応モデル

A.0次消失速度過程

B.1次消失速度過程

C.0次および1次消失速度過程

D.添付文書に記載の薬物動態で知る消失過程

E.非線形薬物

2.薬物クリアランス(腎排泄・肝代謝)

A.薬物のCLと排泄

B.クレアチニンクリアランス(creatinine clearance:CLcr)と糸球体ろ過速度(GFR)の違い

3.分布容積の概念

分布容積と組織移行性

4.消失速度定数と消失半減期

A.消失速度定数

B.消失半減期

C.バイオアベイラビリティ

5.経口投与と吸収速度定数

6.薬物濃度の考え方

A.薬物濃度(血中・作用部位)と平衡関係

B.タンパク結合率(タンパク遊離形とタンパク結合形)

C.タンパク結合変化に及ぼす変動要因

D.アルブミンとタンパク結合率

7.AUCとクリアランス

8.定常状態の概念

A.重ね合わせの原理

B.消失半減期が短い薬物

C.消失半減期が長い薬物

D.蓄積比(accumulation ratio,R)

9.表計算ソフトフェアExcel®を用いたPKの理解

A.薬物動態パラメータの四則演算

B.経口1-コンパートメントPKモデルのシミュレーション

C.点滴静注1-コンパートメントPKモデルのシミュレーション

第4章 PK/PDの計算原理の理解およびExcel®を用いた演習

1.薬動力学の概念―薬物動態学(PK)と薬動力学(PD)の結びつきを理解する―

A.PK/PD解析の概略

B.PDとクリニカルファーマコメトリクス

C.PDの効果指標

D.PDの変動要因

2.PDモデルの種類

線形モデルおよび(シグモイド)Emaxモデル

3.PD解析の種類

A.直接反応モデル解析

B.間接反応モデル解析

C.時間のずれを考慮した効果コンパートメントモデル解析

D.直接反応モデル解析,間接反応モデル解析および効果コンパートメントモデル解析のまとめ

E.その他のPD解析(Exposure-Response解析)

4.PD解析の演習

A.リチウムの投与設計

B.リバーロキサバンの投与設計

第5章 Population解析の理論

1.Populationの概念

2.Population解析の種類

3.非線形混合効果モデルと解析プログラム

A.固定効果モデルと変量効果モデル

B.解析プログラムNONMEM®

4.Populationモデリング&シミュレーション

A.Populationモデルの種類

B.Populationモデルの構築方法

C.Populationモデルの診断方法

D.Populationモデルの適格性評価方法

E.Populationモデルに基づくランダムシミュレーション

F.Populationモデルに基づくベイズ推定と個別化投薬

【演習問題】

第6章 解析プログラムNONMEM®の基本的な使い方

1.NONMEM®の入手とインストール

A.インストール手順

B.テストファイルによる動作確認

2.NONMEM®動作環境と解析支援ツール

A.コマンドプロンプト

B.Perl-speaks-NONMEM(PsN)

C.RおよびXpose

3.NONMEM®解析に必要なファイル

A.データセット

B.コントロールストリーム

4.NONMEM®の起動・実行・終了

A.起動

B.実行

5.NONMEM®実行結果の確認と解釈

A.NONMEM®outputの構成

B.outputの解釈

【演習問題】

第7章 解析プログラムNONMEM®を用いたpopulation PKの理解

1.PPK基本モデル

A.構造モデル(コンパートメントモデル)

B.個体間変動モデル

C.個体内変動モデル

D.バンコマイシン(VCM)の基本モデル構築

2.PPK共変量モデル

A.共変量の候補

B.共変量モデルの構築

3.最終モデルの適格性評価

A.Shrinkage

B.推定値の標準誤差と信頼区間

C.診断プロット

D.ブートストラップ

E.Visual Predictive Check (VPC)

4.シミュレーション

5.PPKモデルに基づくベイズ推定と個別化投与設計

A.シミュレーションによる初期投与設計

B.ベイズ推定による個別化投与設計

【演習問題】

第8章 解析プログラムNONMEM®を用いたpopulation PK/PDの理解

1.到達目標と概説

2.PPDモデル(PDモデルでの個体間・個体内変動の設定)

3.PPKモデルとPPDモデルの統合方法

A.IPP法によるPPDパラメータの推定

B.PPP法によるPPDパラメータの推定

C.PPKモデルとPPDモデルの同時解析

4.PPK/PDモデリング&シミュレーションの実際

A.直接反応モデルの場合

B.効果コンパートメントモデルの場合

C.間接反応モデルの場合

D.その他のPDの場合

5.PPK/PDモデルに基づくベイズ推定と個別化投与設計

症例(鎮痛薬の効果コンパートメントモデル)

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書籍情報

  • ISBN:9784525723811
  • ページ数:369頁
  • 書籍発行日:2019年5月
  • 電子版発売日:2019年7月24日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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特記事項

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