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- 実験医学増刊 Vol.40 No.2 健康寿命の鍵を握る骨格筋~代謝・内分泌を介した全身性制御の分子基盤から運動による抗老化まで
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序文
序
歴史的に日本は,世界の骨格筋研究で主要な役割を果たし,その進展に多大な貢献をしてきた.1940年代頃を端緒とする日本の研究は,筋を構成する分子の発見や,筋収縮のメカニズムの解明など,世界の主流だった基礎研究に新たな知見を提供してきたことは了知となっている.そしてその流れは綿々と現在にまでいたる.さらに筋難病の発症メカニズムの解明や治療法の確立に関しても,質の高い成果を世界に発信し続けている.こうした先達たちの努力の延長上に,新たな展開が生じつつある.その内容をあらわすシンプルなキーワードは,「骨格筋と健康」といえる.
高齢化は世界レベルで進んでおり,2019年に国際連合が発表した世界の人口推移の推計によると,世界の人口に占める65歳以上の割合は,2019年時点で11人に1人だが,2050年には6人に1人になるという.欧米に限れば4人に1人と推計される.また80歳以上の人口は約3倍に増えると推測されている.日本はそのなかでも,「超」高齢社会へすでに突入していることは国内外で認識されている.2021年度発表の先進国の平均寿命が,コロナ禍の影響で前年と比較して軒並み短縮したなか,日本の平均寿命は男女ともにさらに延伸している.そして長寿社会が手放しで喜べるものではなく,日常生活に制限がなく(支援・介護がなく)健康で人生が送れる「健康寿命」は,「平均寿命」より約10年短いことも認識されるようになってきた.健康寿命を可能な限り平均寿命に近づけることが,質の高い生活を人生の最後まで全うできることを意味する.そこで骨格筋が注目される.
高齢になると骨格筋の量と機能は衰退するが,これが病的に進行する加齢性筋萎縮(サルコペニア)が,運動機能障害による要支援・要介護の一因である.サルコペニアは身体の脆弱・機動性の欠如だけでなく,糖尿病,慢性肺疾患,および代謝性疾患などを罹患するリスクを高めることが報告されている.さらに,何らかの障害や疾病による長期入院,高い感染症罹患率,高い合併症発症率,高い全死因の死亡率と,骨格筋量減少との間には,相関関係も認められている.これらの事実は,骨格筋の機能と量を高く保ち,筋機能を健全に維持することが,超高齢社会をよりよく生き抜くすべとなることを示している.
以上のような背景から,動作を生む筋収縮のメカニズム解明の研究や,それが妨げられる筋難病の治療の研究に加えて,健康のための骨格筋研究の扉が開かれた.骨格筋と健康の因果関係にはまだ不明な点が多いが,萌芽期の現在でも非常に興味深い医学・生命科学の発見がなされている.開いた扉から見た景色だけでも高揚するのだから,その奥深くにはとんでもない驚きの光景が待っているのであろう.本増刊号では,いま見えている光景の解説だけではなく,より広がりのある光景の想像図も提示されている.これが,読者の心を少しでも揺らしてくれるのであれば,著者たちの代えがたい喜びである.
2021年11月
藤井宣晴
目次
序【藤井宣晴】
概論 シン・骨格筋ワールド:【藤井宣晴】
第1章 骨格筋の代謝調節を支える機序
1.骨格筋が担う糖代謝の新知見―運動がもたらす効果とその制御【木戸康平,川中健太郎,林 達也】
2.骨格筋の脂質代謝―エネルギー源,そして骨格筋を構成する脂質の機能【三浦進司】
3.骨格筋のタンパク質・アミノ酸代謝―分岐鎖アミノ酸代謝を中心に【北浦靖之】
4.乳酸の役割を再考する―乳酸の新たな姿【高橋謙也,八田秀雄】
第2章 骨格筋機能を変容させる外部/内部環境因子
1.Notch シグナルによるサテライト細胞ニッチの制御機構【朝倉 淳】
2.筋線維の恒常性に関与する膜環境「Quality Control」機構【鈴木美希,平野航太郎,土谷正樹,原 雄二】
3.筋幹細胞に対するグルコース濃度の影響―培養細胞も糖質オフの時代?【古市泰郎,川端有紀】
4.骨格筋の身体位置記憶(ポジショナルメモリー)【小野悠介】
第3章 個体の老化を支配する骨格筋の老化
1.酸化ストレスと骨格筋老化【清水孝彦,渡辺憲史,澁谷修一】
2.運動による細胞老化制御と骨格筋再生【齋藤悠城,千見寺貴子】
3.サルコペニア病態におけるサテライト細胞の加齢性変化の寄与【松崎京子】
第4章 骨格筋の肥大と萎縮
1.廃用性筋萎縮の機序とその予防【高田実穂,榊原伊織,二川 健】
2.食事と運動による骨格筋肥大のメカニズム【藤田 聡】
3.骨格筋萎縮の転写カスケード―FOXO1/3a/4の役割【大藪 葵,亀井康富】
4.筋細胞をもちいた筋機能の定量的評価―創薬や身体トレーニングの開発への応用【眞鍋康子,濱口裕貴,出口真次,松井 翼】
第5章 骨格筋の秘めた特徴を捉える新技術
1.細胞間変動(ばらつき)を活かした精細な筋収縮制御【和田卓巳,廣中謙一,黒田真也】
2.収縮時の筋細胞内ATP動態の可視化【崔 廷米,山本正道】
3.骨格筋研究のための遺伝子改変マウスの現状とこれから【北嶋康雄】
4.筋収縮後の代謝トランスオミクスネットワークの構築―ROS依存的なペントースリン酸経路の活性化【星野太佑,川田健太郎,黒田真也】
第6章 骨格筋と運動の新たな関係の顕在化
1.エキセントリック運動の健康増進効果と慢性疾患の予防・治療効果【野坂和則】
2.力学的刺激による骨格筋恒常性維持の分子機構【﨑谷直義,前川貴郊,澤田泰宏】
3.運動による骨格筋のミトコンドリア代謝機能の亢進と健康促進に対する意義【増田和実,芝口 翼】
4.妊娠期の運動効果が次世代に伝わる分子生理メカニズム【楠山譲二】
第7章 骨格筋と他臓器の連関
1.運動による骨格筋と他臓器の連関【大橋浩二,大内乗有】
2.好中球が骨格筋の糖代謝および運動能力におよぼす作用―免疫機能との連関【神﨑 展】
3.骨格筋と腱の相互作用―パターニングから境界部まで【乾 雅史】
4.マイオカイン研究がめざす先【藤井宣晴,三田佳貴】
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書籍情報
- ISBN:9784758104005
- ページ数:227頁
- 書籍発行日:2022年1月
- 電子版発売日:2022年1月21日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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