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- もっとよくわかる!細胞死
商品情報
内容
研究の歴史,各細胞死のメカニズム,実験法から現状の疾患研究への繋がりまで.重要だけど,あまりにも複雑な「細胞死」がすっきり体系的に理解できる日本初のテキスト.
序文
はじめに
細胞死研究は日本の研究者が多大の貢献をしてきた研究領域です.例えばアポトーシス研究の黎明期には,米原らによる「アポトーシスを誘導する受容体Fas の発見」,長田らによる「Fas やそのリガンドであるFas リガンドの遺伝子クローニング」,三浦らによる「哺乳類でのアポトーシス実行因子(ICE, caspase-1)の機能的な同定」,辻本らによる「Bcl-2 のクローニング」など数多くの例があげられます.これらの貢献もありアポトーシスの実行因子の同定やその制御機構の解明,さらにアポトーシス細胞の貪食(エフェロサイトーシス)のメカニズムの解明が飛躍的に進みました.その後,アポトーシス以外の「制御された細胞死」が次々と同定されはじめ,現在ではそれらの細胞死の実行因子も大部分が同定されつつあります.
細胞死のメカニズムの解明に多大な貢献をしてきた日本ですが,国内における細胞死の研究コミュニティの発足は遅く,2010 年にようやく日本Cell Death 学会が正式に立ち上がりました.その後は2014 年から2018 年までの5 年間にわたりダイイングコードと命名された細胞死に特化した新学術領域も立ち上がり,2015 年,2018 年,2023 年と日豪細胞死会議〔Japan-Australia meeting( JAM) on Cell Death〕も開催されました.私も含めて今回のこの本の執筆者の方々は,これらの学会や研究組織の運営に積極的に携わり,日本の細胞死研究を牽引してきた人たちです.
本書を編集しようと考えたきっかけをここで紹介したいと思います.数年前,日本癌学会総会にてポスターセッションの座長を依頼され参加した際,ある発表者が,caspase活性が認められない細胞死を「アポトーシス」として発表しているのを聞き,非常に驚いたことを覚えています.このような状況に至っている理由はいくつか考えられます.まず,①「細胞死」そのものをテーマとしたシンポジウムやワークショップが,癌学会や分子生物学会,生化学会などで開催される機会が減少していること,②開催された場合でも,最先端の細胞死研究に焦点が絞られており,アポトーシスの基本的な内容の発表がほとんどないこと,さらに,③細胞死に関する標準的な日本語の教科書が存在しないことがあげられます.ここで言う「標準的」とは,基礎的な知識が記載され,標準的な細胞死に関する実験手法がきちんと記載されているという意味です.このような状況を改善するには,前述のコミュニティで活躍してきた日本人の細胞死研究者が,しっかりとした教科書を作成する必要があると漠然と考えていましたが,日々の忙しさに追われ,数年が経過してしまいました.そんななか,2023 年12 月に日本分子生物学会で,細胞死のワークショップを大阪公立大学の徳永先生と共同で企画・発表する機会を得ました.そのセッションに参加されていた羊土社の山口様から,細胞死に関する基本的な解説書の執筆を依頼されたことがきっかけで,本書の企画がスタートしました.
昨今の研究者の細胞死に対する興味の中心は,特に欧米と比べて日本では細胞死そのもののメカニズムよりも,複数の細胞死がさまざまな疾患にどのように関与しているか,あるいはそれらの細胞死を制御することで疾患の治療法の開発につながるか,という点に移ってきているように感じます.そのため本書の読者対象は,細胞死自体の研究を行う方に限りません.さまざまな研究の過程で「細胞死」の知識が必要になった学部学生,大学院生,研究者を対象としており,各章の執筆者には,とにかく基本的な内容を記載していただくようお願いしました.これまで,和文の生命科学・医学系雑誌でも細胞死に関する特集は数年おきに企画されてきましたが,それらはあくまで各研究者が行っている最先端の研究を紹介することに主眼を置いた総説であり,「アポトーシスの定義はcaspase 依存性の細胞死である」などの基本的な記述はほとんどありませんでした.そのため,初心者にとって細胞死の全体像を把握することが難しいと感じていました.この観点からも,貴重な時間を割いて教育的な内容の文章を作成していただいた各章の執筆者の皆様には,改めて感謝の意を表したいと思います.特に,東京大学大学院薬学系研究科 遺伝学教室の三浦正幸教授と,東邦大学医学部医学科 生化学講座准教授(2024 年12 月より広島大学大学院医系科学研究科 医化学教授)の森脇健太博士には,執筆者の原稿に対して貴重なコメントをいただき,大変感謝しております.
今後,この教科書が多くの研究者の目に触れることで,細胞死研究に興味をもつ方が増え,日本の細胞死研究と,細胞死が関連する疾患研究がさらに発展することを祈願して,この文章を締めくくりたいと思います.
2024年11月
東邦大学医学部医学科 生化学講座
中野裕康
目次
第1章 細胞死とは
1 本書のねらいと構成【中野裕康】
第2章 細胞死研究の歴史
1 アポトーシス研究の歴史【刀祢重信】
2 非アポトーシス細胞死研究の歴史【中野裕康】
第3章 制御された細胞死の分子機構
1 アポトーシス(movie❶)【酒巻和弘,森脇健太】
2 ネクロプトーシス【森脇健太】
3 パイロトーシス(movie❷)【中山勝文,榧垣伸彦】
4 フェロトーシス【今井浩孝】
5 オートファジー細胞死【清水重臣】
6 ネトーシス【四元聡志,田中正人】
7 新たな細胞死パータナトス【松沢 厚】
第4章 死細胞のゆくえ
1 死細胞の貪食【大和勇輝,鈴木 淳】
2 DAMPsと炎症【鹿子木拓海,中野裕康】
第5章 細胞死の生理的・病理的な役割
1 発生過程における細胞死(movie❸)【三浦正幸】
2 虚血と細胞死【田中絵梨,七田 崇】
3 細胞老化と細胞死抵抗性【山岸良多,大谷直子】
4 がんと細胞死【森脇健太】
5 自己免疫疾患・自己炎症性疾患と細胞死【大塚邦紘,安友康二】
6 ウイルス感染と細胞死【伊東祐美,鈴木達也,岡本 徹】
7 神経変性疾患と細胞死【鈴木宏昌,金蔵孝介】
第6章 細胞死についての実験手法
1 細胞死検出法(movie❹)【関 崇生,山﨑 創,中野裕康】
2 細胞死の可視化と細胞死誘導技術(movie❺❻❼❽)【村井 晋,中野裕康】
巻末付録【仁科隆史,森脇健太,駒澤幸子,中野裕康】
1 研究に役立つ誘導剤・阻害剤リスト
2 研究に役立つ抗体リスト
索引
Column
① BrdUが細胞分化を抑制する機構
② 指間細胞死研究のその後
③ オタマジャクシの尾の細胞死と免疫システム
④ 国際的に知られなかった「立ち枯れ死」の発見
⑤ 最も信頼できるアポトーシスマーカーとして
⑥ 細胞死研究の落とし穴
⑦ BHAは抗酸化剤か,それともRIPK1阻害剤か
⑧ マウスの遺伝的背景とcaspase-11
⑨ ENUによる責任遺伝子の同定
⑩ caspase-8の基質選択性と進化的保存
⑪ cIAPはcaspase阻害分子か?
⑫ マウス発生・形態形成における内因性アポトーシスの意義
⑬ TNF誘導性細胞死におけるRIPK1の必要性
⑭ RIPK1遺伝子変異による先天性疾患
⑮ パイロトーシス実行因子の発見
⑯ フェロトーシスとほかの細胞死との見分け方
⑰ マウス好中球はネトーシスが起こりにくい
⑱ リバイバルスクリーニングによるスクランブラーゼ活性化因子の同定
⑲ caspase様分子meta-caspase
⑳ ウイルスはどうやって検出するの?
㉑ LDHリリースアッセイを行ううえでの注意点
㉒ Annexin V染色の注意点
㉓ 細胞死実行因子の発現と活性化の違い
㉔ 1分子FRETの開発
㉕ LCI-Sのための抗体選び
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書籍情報
- ISBN:9784758122146
- ページ数:261頁
- 書籍発行日:2024年11月
- 電子版発売日:2024年11月27日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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