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- 失語症の言語訓練 -言語情報処理モデルとエビデンスに基づく音声単語のセラピー-
商品情報
内容
標準的治療法として妥当性が認められている、言語情報処理モデル(認知神経心理学的アプローチ)に基づく失語症セラピーを行うための基本原理、評価法・訓練法を分かりやすく解説。また、文章だけではイメージしにくい訓練法については動画やイラストも付けています。
根拠を持って失語症の評価・訓練を行えるようになるための、言語聴覚士の必読書。
*特記事項:この電子版では、外部のサイトとリンクして動画を閲覧できます。動画閲覧のためにはネット環境が必要です。
序文
序文
私は、1990 年に6 年間勤めた会社を退職し、言語聴覚士の養成校に入学した。そこで学んだ言語聴覚障害学はどの領域も興味深いものであったが、特に失語症学・神経心理学に強い関心をもった。一方で、その当時に学んだ失語症学では、どの書籍をみてもいわゆる評価の部分までは紙幅を割いて丁寧に解説されているが、訓練になると極めてあっさりした記述になっていることが不満であった。また、評価は訓練計画を立てるため、患者への有効な支援のためになされるはずのものであろうが、例えば流暢性や錯語、失語型を評価しても、そこから直接的に訓練法が導き出されることはなく、「それでよいのだろうか」という疑問があった。
そのような問題意識をもっていた中で、自分にとって大きな出来事の1 つが、失語臨床における「認知神経心理学的アプローチ」の導入であった。Ellis とYoung のHuman Cognitive Neuropsychology(Psychology Press 社)の出版が1988 年、McCarthy とWarrington のCognitive Neuropsychology(Academic Press 社)の出版が1990 年で、その理論と実践が日本にも徐々に浸透してきた。人の言語機能をコンピュータ・アナロジーとして捉え、言語情報処理モデルを措定して、失語はそのモデル上の特定の部位の損傷であると考えること、そして失語の訓練はモデル上の損傷部位の修復または迂回路の形成として計画できると考えることがその骨子であろう。これによって失語の訓練を合理的に計画することが可能になり、また訓練法の妥当性を(あわせてモデルの妥当性を)検証することも可能になったと考えられる(中村ら:神経心理学28(2), 113-115, 2012)。最近では、モデルに基づいた訓練研究が世界中で盛んに行われ、多くの成果が得られている。
また、大きな出来事のもう1 つは、「evidence-based medicine」(根拠に基づく医療:EBM)の普及である。私が当時研究員として在籍していた医学部の講座に、EBM をいち早く取り入れ講座内外での啓蒙に努めておられた先生がいて、私がその理念の概要を知るのは比較的早かったと思う。私がこの世界に入った頃は、「なぜその訓練法が選択されるべきなのか」疑問に思って年長者に問うても、「経験だよ」というような答えが返ってきて釈然としないことが少なからずあった。権威者の意見よりも、適切な手段によって収集・分析された患者データこそが何よりも大事だというEBM の理念は、私にとって「当然そうだよね」と首肯できるものであり、またそう考える人が多かったから、世界中でまたたく間に広まったのであろう。
本書のキーワードは、その副題にもある通り「言語情報処理モデル」と「エビデンス」である。私が「おそらくこれが質の高い失語臨床のために必要であろう」と考えて、30 年以上取り組んできた研究のキーワードでもある。
本書では、まず第Ⅰ部で総論として、失語臨床の目的および基本的な理念と方法について記した。どのような評価と訓練の方法を用いるにせよ、その基盤となるのは、失語とはどういうものなのか、言語訓練の基本原理は何かという問いに対する洞察と理解であろう。個別の評価法・訓練法を扱う前に、まずはそれを述べたかった。次に第Ⅱ部で、言語情報処理モデルとそれに基づく失語の評価について記した。そして第Ⅲ部で、具体的訓練法とその効果について記した。
記述にあたっては、①客観的な患者データ(エビデンス)、②データの裏付けは得られにくいが失語症学の中でおおむねコンセンサスとなっていること、③個別の研究者の見解について、それぞれの区別が明確になるように記したつもりである。また、必要に応じそれらに対する私自身の解釈や見解についても記した。読者におかれては、書かれていることを鵜呑みにするのではなく批判的に読んで、ご自分の臨床に活かしてほしい。また、訓練手続きなどはできるだけ丁寧に記したつもりであるが、文章では伝わりにくいこともあるので、動画やイラストも添付した。利用していただきたい。なお、現在の言語情報処理モデルは、言語情報処理と銘打ちながら実際はほぼ単語の処理モデルに限られている。その中で本書では、特に音声単語(spokenword)の評価と訓練のみを扱った。音声単語の評価と訓練が失語臨床の基盤になるという考えに基づいているが、もちろん文字単語や文、テキスト(長文)、そして何よりコミュニケーションの評価と訓練も重要な領域であり、それらの解説については他日を期したい。
本書は主に、自身の失語臨床の質を上げたい臨床家のための実用書という位置づけである。加えて、失語研究のための参考書として、研究においても利用できるものであることを目指した。また、今後質の高い臨床や研究を行い、身近なところから世界をより良くしたいと考えている若い学生たちにも、目を通していただければ幸いである。
最後に、日本聴能言語福祉学院、名古屋市立大学医学部精神医学講座、そして現在の岡山県立大学において、私にとって指導者として、学友として、または大学院生として関わってくださり、多くの教示と刺激を与えていただいたすべての方々に深い感謝を申し上げたい。
2024年5月
中村 光
目次
第Ⅰ部 失語の言語訓練総論
第 1章 患者の全人的理解と失語リハビリテーション
1 People with aphasia
2 失語リハビリテーションの目的とICF
3 失語は言語機能の障害
4 失語はコミュニケーションの障害
5 失語は社会参加の障害
第 2 章 エビデンスと SDM
1 失語の訓練におけるエビデンス
2 SDM と失語
第 3 章 言語・コミュニケーションの回復
1 回復に関連する要因
2 修正可能な要因
第 4 章 言語訓練の分類
1 言語機能アプローチ
2 コミュニケーションアプローチ
3 心理社会的アプローチ
4 新しいアプローチ
第 5 章 言語訓練の基本原理
1 適切な刺激
2 手がかり漸減または誤りなし学習
3 フィードバック
4 分散練習
第 6 章 言語訓練の強度と期間
1 訓練の量
2 CI失語療法または集中的訓練
3 訓練の期間
4 訓練量の確保のために
第Ⅱ部 言語情報処理モデルと失語の評価
第 7 章 言語の情報処理モデル
1 モデルとは
2 ロゴジェンモデルの概要
3 古典的ロゴジェンモデルの修正
4 言語情報処理モデルと失語型
5 単語の属性
第 8章 言語情報処理モデルに基づく失語臨床の展開
1 言語情報処理モデルを用いた失語臨床の原則
2 言語と全般的精神機能・他の認知機能
3 評価の展開
4 コミュニケーションの評価
第 9 章 聴覚的理解のプロセスと評価
1 聴覚的理解のプロセス
2 聴覚的理解の障害
3 聴覚的理解障害の評価
第 10 章 意味システムの構造と評価
1 意味システムと意味記憶
2 意味の分散モデル
3 失語における意味障害
4 意味障害の評価
5 分散モデルとカテゴリー特異性障害
第 11 章 発話のプロセスと評価
1 発話の下位モダリティ
2 発話のプロセス
3 発話の障害と誤反応傾向
4 発話障害の評価
第Ⅲ部 言語情報処理モデルと失語の訓練
A.総合的訓練
第 12章 訓練の展開と効果の指標
1 訓練の展開
2 訓練効果の指標
第 13章 単語の総合的訓練法
1 刺激法
2 遮断除去法
B.聴覚的理解の訓練
第 14章 聴覚分析モジュールの損傷に対する訓練法
1 語音の弁別
2 意味的情報を伴う語音の弁別
3 読話と予測の促進
第 15章 音韻入力辞書モジュール周辺の損傷に対する訓練法
1 概要
2 音声単語と絵のマッチング
3 文字単語と絵などのマッチングの併用
第 16 章 意味システムの障害に対する訓練法
1 単語と絵・実物のマッチング
2 単語の正誤判断
3 意味属性分析の応用
C.発話の訓練
第 17 章 音韻セラピーと意味セラピー
1 発話のセラピー
2 音韻セラピーと意味セラピー
3 意味セラピー効果のメカニズム
4 音韻セラピー/意味セラピー選択の基準
5 意味+音韻セラピー
第 18章 意味システムの障害に対する訓練法
1 概要
意味セラピー
2 単語と絵のマッチング
3 意味判断
4 類似性判断
5 Odd word/picture out
6 意味属性分析
7 意味キューまたは定義文キュー
8 ジェスチャーキュー
第 19 章 音韻出力辞書モジュール周辺の損傷に対する訓練法
1 概要
意味セラピー
2 単語と絵のマッチングまたは意味判断
3 意味属性分析
4 迂言誘発呼称促進法
音韻セラピー
5 復唱的呼称または単語復唱
6 漢字単語音読
7 単語音読
8 音韻成分分析
9 音韻キューまたは補完キュー
機能再編成
10 機能再編成:漢字書称など
第 20 章 音韻配列モジュールの損傷に対する訓練法
1 単語・非語復唱(音読)
2 仮名書字
第 21 章 構音プログラミングモジュールの損傷に対する訓練法
1 概要
2 構音-運動法1:運動訓練
3 構音-運動法2:モデル-復唱法
4 構音-運動法3:構音キュー法
5 速度/リズムコントロール法1:メトロノーム法
6 速度/リズムコントロール法2:メトリカル法
第 22 章 それ以外の訓練法
1 即時呼称
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書籍情報
- ISBN:9784763995742
- ページ数:208頁
- 書籍発行日:2024年7月
- 電子版発売日:2024年9月21日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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