筆者はアザの治療を追求したくて1992 年に大阪市に形成外科医院を開業しました． そのころの治療の武器は色素レーザーと炭酸ガスレーザーくらいしかありませんでしたが， 米国からQ スイッチレーザーという夢のような機械が開発されたというニュースが届いていましたので，それに大きな期待を抱いていました．真皮病変が治療できるようになれば，多くの母斑が切らないで治療できるようになると考えたのです．ところが，ふたをあけてみれば，鳴り物入りで登場した3種類のQスイッチレーザーはどれも非常に高価なうえに故障しやすく，とても安定した治療成績は出せませんでした．その後十数年各業者は熱心に機械の整備と改良を重ね， 今ではどの機械も安定して運転できるようになりましたので，筆者も治療法を大きく進歩させることができるようになりました．

Q スイッチレーザーの進歩により太田母斑・刺青の治療が可能になったことが歴史的には非常に画期的なことだったのですが，現実的にはこうした疾患の患者数よりもSK（老人性色素斑）・ADM（後天性真皮メラノサイトーシス）などシミの患者数の方が圧倒的に多いことがわかりました．2006年に文光堂から「シミの治療」を出版した際に， あらゆるシミを系統的に分類して適切な治療を加えればすべて解決できるという概念に多くの読者から賛同をいただきましたが，シミの治療において炭酸ガスレーザーとQスイッチルビーレーザーがどうしても必要だということで，この2種類の機械について詳しい入門書が欲しいという声が多く寄せられましたので，続いての出版が決まりました．2008年2月の「炭酸ガスレーザー治療入門」に続いて本書「Qスイッチルビーレーザー治療入門」が刊行できましたことは，たいへん嬉しく思います． 炭酸ガスレーザーとQ スイッチルビーレーザーを揃えればほとんどのシミに対応できますし，シミの他にも多くの皮膚疾患を治療できます．目に見える「real な」治療成果をあげたいと考えている美容皮膚科医・形成外科医にとって，この2冊は有益な入門書となると考えます．ご尽力いただいた文光堂の企画・制作担当者に深く感謝いたします．

最後に， 本書の共同執筆者であり筆者のクリニックの副院長であった酒井めぐみ先生が2008 年4 月に急逝されました．本書で紹介した各種レーザー治療法の開発に情熱をもって臨まれ，患者の信望も厚かった同志の冥福を祈るとともに，霊前に本書の完成を捧げたいと思います．

2008年　秋

葛西 健一郎